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「vs幻獣エーレ」

 鳴き声がしてから1分程で足音が聞こえ、その数秒後、エーレが稲妻のオーラを出しながら村にやって来た。


 体長3m半ば、狸みたいな胴体、ネコ科の手足、狐みたいな尻尾、そして猿みたいな頭をした、文字通り化け物の形をした奴だ。まさしく日本妖怪のぬえだな。ここではエーレと呼ばれてるが、幻獣種と分類されるのも納得だな。

 すぐにクィンやコザをはじめとする兵士団が到着する。村民は全員避難できたようだ。


 「近接戦闘型は前衛、遠距離型は後衛、俺は先頭でクィンは中衛だ!気も手も一切抜くな!行くぞ!!」


 コザが口早に指示を出し、彼を含む前衛兵士がエーレにかかっていく。観戦がてら、エーレの強さを測るか。



エーレ 魔物(幻獣種) レベル80

体力 3000

攻撃 3000

防御 3000

魔力 3000

魔防 3000

速さ 3000

固有技能 未来予知 炎熱魔法レベル7 雷電魔法レベル8 



 これ、あいつらじゃ無理じゃね?魔法レベルがクィンを上回っている。しかも、特殊な固有技能である「未来予知」によってさっきから兵士たちの攻撃を躱しまくってる。

 討伐隊の中でいちばん強いのは、おそらくクィンだ。リーダーのコザもレベルとステータスは彼女より少し上だが、固有技能ならクィンの方が強い。固有技能がショボいとステータスが高くても総合的には強いとは言えないからな。


 「あの人たち、このままいくと全滅する。レベルが違い過ぎる。今の私じゃ一人では倒せない」


 アレンも討伐隊とエーレとの戦力差を正確に把握している。アレンのステータスさえも上回ってやがる。これがGランクの魔物か。そら、あの受付嬢も二人で挑もうとした俺らを止めようとするよな。


 「アレン、一緒に行くか?レベル上げにもなれそうだし」


 アレンは復讐のために修行していた。ならば、こういう奴を倒せば、ものすごい経験値を得てレベルが大幅アップするだろう。


 しかし、アレンは首を横に振って、


 「いい。今回はコウガに任せる。だって前に、戦ってるところ見せてくれるって約束してくれたから。今度は、私が観戦する番!」


 と鼻息フンフンと詰め寄って、俺一人で戦いに行ってくれと促してきた。


 「お、おう。そういう約束だったな。じゃ、そこで見ててくれ」


 エーレからある程度アレンを離れさせ、俺はその場で軽く準備運動をする。このモーションは、陸上競技のレース前にいつも行うルーチンだ。無意識に戦う時にもやるようになっている。


 戦況は、もう半分近くの兵士が戦闘不能にされているな。近づく者は圧倒的膂力で軽く薙ぎ払い、魔法攻撃の遠距離攻撃には尻尾から雷撃、炎の魔法を放って全て飲み込んでいく。クィンとコザがそれぞれ長剣と太刀で応戦してるがまるでダメージを与えていない。あの2人に俺の力がバレるかもしれないが、仕方ない。後で適当に誤魔化そう。


 「よし、じゃあ行ってくる!」




                *


 全く歯が立たない。情報で聞いた以上に強い。味方がもう半分以上やられた。デロイさんもコザ団長も、ボロボロだ。王国の中でも腕の立つ兵士で編成された討伐隊でもGランクの魔物には敵わないの...?


 ここでやられるようでは、モンストールから人々を守ることなど...。


 コザ隊長が前に出る。その顔は、覚悟を決めている顔だ。死ぬ覚悟で突っ込む気だ。

 ダメだ、やられる。行ってはダメだ。けど、ここで退いたら、この村が襲われる。村民たちの平和が脅かされる。私たちが、守らなきゃならない!

 退くに退けない。この状況どうすれば良い?頭が真っ白になっていく。

 そうこうしているうちに、隊長が駆け出す。その彼に、エーレが尻尾から迸る黄色い雷を放とうとする。叫んで呼びかけるが、反応しない。目の前の雷が見えていないのか、真っすぐ走ってく。耳も目もやられている。このままでは死ぬ...!

 「縮地」で駆けようとしたその時、もの凄い速さで駆ける影が私の横を過ぎ去った。その際、かすかだが力強い声が聞こえた。



 「あんたはここにいろ。すぐ終わらせる」



                 *


 「瞬足」で駆ける。途中でクィンに労いの言葉を適当にかけ彼女の黄色い髪をなびかせて通過する。そして一気にエーレに接近する。前方にコザが走っている。目が碌に見えていないのか、エーレの雷撃魔法を避ける気配がない。仕方ない、とりあえず庇ってやるか。

 一瞬でコザの前に立つと同時に、黄色い閃光が迸る。ギリギリ間に合うか。両手を前に掲げ、「魔力障壁」を発動。

 直後、妖怪のぬりかべみたいな大きさの水晶壁が出現し、バリバリと音を立てている雷を止める。数秒間、雷が轟く音がして、やがて勢いが止み、雷が消滅する。障壁には少々ヒビが入っていた。


 「あんな分厚い魔力障壁、見たことない...。あの強力な雷を防ぎ切った...」


 クィンが驚愕の光景に息を吞んでいるが、俺は気付いていない。突然の闖入者ちんにゅうしゃにエーレも不審そうに俺を見やる。そして強力な魔力を全身に迸りさせる。俺がさっきまでの奴らとは違って危険な敵だと本能で察知したのか。


 「...そこにいる君は...?仲間が殆どやられた。ここは、俺が食い止めるから...は、や、く...ひ......」


 かすんだ目で俺を見やり、避難を促そうとするが、言い終える前にうつ伏せに倒れた。一応死んでいないな。どかせるか。

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