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「俺は自身のことを打ち明ける」2

 「ゾンビとは…初めて聞く言葉ですね。それが職業だってことも、今まで聞いたこともありません。既に死んでいる存在で肉体は無限に再生される…。確かにこれが王国に知れ渡ってしまうだけでも、大騒ぎになりそうですね。ましてや世界中にとなると…。

 このことはここだけの話にしておきます、必ず」

 「それはどうも」

 「ところで……コウガさんのフルネームについてなのですが。

 確か、『カイダコウガ』というお名前でしたよね?」

 「ああそうだ。じゃあ次は……俺がそもそも何者かについて話すか」


 こういった名前は、この世界では珍しいもしくは存在し得ない表記なのかもしれない。

 なら……俺はいったい何なのか。最近あの国で起きた出来事を知っているのなら、分かるはずだ。


 「俺はこの世界の人間じゃない。日本という別の世界から、ドラグニア王国の連中によって召喚された、言わば異世界人だ。

 知ってるんじゃねーのか?最近話題になっているであろうドラグニア王国による異世界召喚のこと」


 俺の発言にクィンはまさか…と目を見開く。


 「半月程前に、ドラグニア王国がモンストールを殲滅する為として異世界から若い男女数十人を召喚したということは聞いていましたが、コウガさんがその…!」

 「そうだ。その中の一人だ」

 「ドラグニアで結成されたと聞いた対モンストール戦闘組織『救世団』のメンバーも、コウガさんと同じ――」

 「…ああ、そうだ。あいつらは俺の元クラスメイト。

 次は、俺に何があったかについて話すか……」


 どうして俺が元クラスメイトどもと一緒にいないのか、ドラグニアにいないのかについて話すのは、あの屈辱的なことを思い出すから気乗りしないのだが、これを話さないと俺のことが分かってもらえないだろうから仕方ない。

 俺だけに召喚の恩恵が全く無かったこと。元クラスの連中・国王・王子・その他王族・兵士団らに弱い俺を蔑んで虐げたこと。実戦訓練で俺を見捨てて瘴気まみれの地底へ落としたこと。そのせいでそこで俺は死んだこと。ゾンビの性能で今のような強さを手にしたこと。

 クィンにもアレンと同じように全てを話した。アレンもいつの間にか俺の話を聞いていた。

 話し終わるとクィンは少し悲し気な顔をしていた。


 「同級生というともに勉学をする仲間にまで見捨てられて…しまったのですね。そのせいで瘴気が充満している地底でモンストールに襲われてしまい……。そんな最期を、遂げていたなんて……」


 何だか同情されている感じだな。良い気分ではないな。


 「あんな奴らはもう仲間でも何でもねーよ。それに同情はするな。俺が弱かったせいでもあったんだからな」


 クィンはすみませんと謝り、それで…と質問する。


 「コウガさんは、ドラグニア王国には帰ろうとはしないのですか?」

 「何言ってんだよ。あんなところへ帰る理由なんかねーよ。

 あの日……地底へ落とされる直前、あいつらは死んでいく俺を嗤うような連中だったんだ。そんな醜い奴らなんだ。あそこには俺の居場所なんか無い。つーかあいつらに会うとムカついて殺してしまうかもしれない」


 溜息をつきながらつい本心を漏らしてしまう。復讐というよりは短気おこしてあいつらを血祭りにあげちゃいそうだわマジで。

 そんなことを考えていると、クィンが真剣な顔でまた問いかけてくる。


 「あの国には……本当に同級生や王国民全員が、コウガさんを嫌っていて、蔑んでいたのですか?」

 「……え?」

 「一人か二人……コウガさんを迫害していなかった人はいなかったのですか?

 誰もがコウガさんを侮蔑して嫌うなんて、そんな悲しいこと……私は認めたくありません」

 「それは………」


 クィンの言葉を聞いて頭に過ったのは、藤原先生や高園、そしてお姫さん…。俺を害しなかったのは彼女たちくらいだったか。

 けど結局は最後は俺を………捨てたんだ―――


 「きっと…いえ、絶対に、コウガさんを仲間と思っている人はいたはずです」


 優しい声がしたのでふと顔を上げると、クィンは優しい表情をしていた。


 「今、コウガさんは逡巡しましたよね?それが何よりの証拠です。あなたを気にかけていた人はきっといたはず。

 話を聞く限りではほとんどの人がコウガさんを嫌って蔑んでいたのかもしれません。でも、それだけではなかったはずです…!」

 「………俺を捨てたことに変わりはない。俺が死んで、あのクズどもはさぞ清々してたんだろうな―――」


 その時、俺の手が包まれる感触がした。

 気が付くと、クィンが両手で俺の手を優しく握っていた。


 「クィン……?」

 「この世に…死んで喜ばれて良い人間なんて、存在しません。クラスの中にも、ドラグニアの王族の中にも、あなたの死を悲しんで嘆いていた人は必ずいます。絶対に………!」


 キュッと握ってしっかりと言い切っていた。クィンの手からは何だか温かさが伝わってきた、そんな気がした。


 「よしよし」

 すると今度は隣からアレンが俺の頭を撫でてきた。クィンの真似でもしているつもりなのか。


 「はは、何だこれは?俺は慰められてるのかな」

 「す、すみません…!何故だかこうしてあげたいと思ってしまって」

 「よしよしよし」


 我に返った様子でクィンは手を放した。アレンはまだ頭を撫でている。俺もアレンの頭を軽く撫でてやった。

 その様子を、クィンは何だか羨ましそうに見ていた。


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