「これで俺のことは全部話した。さっきも言ったが、俺はドラグニアに帰る気は全く無い。今の俺には漠然とだが目標がある……元の世界に帰ることだ」
食事を終えて一息ついたところで、先程話した内容を簡単にまとめる。今の俺が何の為に旅をしているのかをクィンに教えてやる。
「コウガさんが元いた世界に帰る……それが今のコウガさんの目標なんですね?」
「ああ。最初から勝手にこんなところに来させられた上、死んだりもした。正直こんな世界にはうんざりしている。早く元の世界に帰りたいと思ってる」
俺の言葉にクィンもアレンも俯く。二人ともこの世界でかなり苦労させられているのだろう。主にモンストールが原因で。
「私は、コウガには残ってほしいと思ってる。仲間たちと一緒に暮らす未来があったらって、思ってる」
アレンは俺にそんな理想を話してくる。
「でも……コウガの元の世界へ帰りたい意思が強いって分かったから、私はコウガを止めない。協力して元の世界に帰してあげたいと思ってる」
「そうか。すまねぇな、こればかりは譲れないことだから」
アレンの肩を撫でてそんな言葉をかける。
「異世界へ移動する魔法。そんな空想的な魔法など聞いたことがありませんが……異世界召喚というこれもまたあり得ないとされていたことが実現されていますから…。もしかするとあるかもしれませんね、コウガさんが元の世界に帰る方法が」
「ああ、俺もそう思ってる」
「ごめんなさい。私はそんなに頭が良い方ではないので、コウガさんに何か手がかりを提供することは出来ないのですが…」
「気にするな。それを見つける為の旅だからな」
食後のジュースを飲み干してから、クィンはアレンに目を向ける。
「アレンさんは、何か目的があるのですか?」
一拍おいて、アレンは静かに答える。
「私の両親を殺して里を滅ぼしたモンストールを殺すこと、鬼族の仲間たちを集めて里を復興させること、私たちを害した魔族たちを倒すこと……やることはたくさんある」
そこからアレンの事情も話すことになった。話が終わった時のクィンは、どこか暗い顔をしていた。
「アレンさんは、復讐の道を進んでいるのですね」
「うん…そうなる」
「動機はどうあれ、あなたもモンストールを滅ぼそうとしている。そういう点では共に戦うことが出来ると思っています。
ただ…他の魔族への復讐というのは……」
何やら「復讐」に思うところがあるらしい。
「モンストールを殺すだけなら良いのですが、相手が魔族となると……アレンさん、あなたは人殺しをしようと考えているのですか?」
「………殺すかどうかは、相対してから決める。私たちを襲った魔族たちがもし私を殺そうとするなら、鬼族を滅ぼそうと考えているなら、私も容赦はしないつもり」
「そう、ですか……」
少し黙ってから、クィンが私は…と再び口を開く。
「私は…復讐はしないで欲しいと思っています。復讐は悲しくて虚しいだけです…」
「………」
「私はかつて、復讐を成し遂げた人がその後どうなってしまったのかを知っている身です。
その人は心が空っぽになったかのような様子で、光が失ったような状態になってしまいました。一時は幸福感を味わえていたのかもしれません。ですがその後にくるのはきっと……人殺しという罪悪感や虚しさ。その人はそれらに押しつぶされていたのかもしれません」
「………」」
「アレンさんには、そんな道を歩んでほしくないと思っています。どうか、人の道を踏み外すようなことは、しないで下さい」
「ん………魔族は、すぐ殺さないようにする」
アレンはこくりと頷いて、早まって殺すことはしないとクィンと約束した。
正直俺は、アレンが復讐の道に走っても良いと思っている。やりたいようにやればいいと思っている。特にモンストールに対しては存分に恨み憎しみをぶつけて殺せばいいと思う。俺も一時期は元クラスメイトどもやドラグニアの王族どもに復讐してやろうかと考えたことがあったから、復讐したいって気持ちは少しは分かるから。
「ごちそうさま。久しぶりに美味しいものたくさん食べられた」
アレンはそう言いながら空になった皿を均等に重ねていった。
「アレン、もう少しここで待っててくれねーか?」
「?何かあるの?」
「本当はギルドでするつもりだったんだけど、まあ酒があるところならどこでも同じか」
そう言いながら、俺は聴力を強化させて、周りの奴らの会話を拾っていく。
こんな人がたくさん集まる空間でわざわざ食事をしにきた理由は、色んな奴らから色んな情報を掴む為だ。
クィンが教えてくれたこの世界についてまだ知らないことでもいいし、今の世界の情勢でもいいし。とにかく何か、元の世界へ帰る手がかりになりそうな情報を探してみるというわけだ。人の口からは情報が大量にペラペラ出てくるってな。
アレンとクィンが瞠目して何か集中している俺を不思議そうに見ている中、しばらく声を拾いまくっていると、こんな会話がとんできた。