エルザレスの問いかけに、俺はここでようやく自分の旅の目的として彼ら竜人族に異世界転移の手がかりについて聞いてみることにした。
まず俺がこの世界と異なる世界へ転移しようとしていること、その方法を探って旅をしていること、その途中でアレンと出会って、手がかりを探す一方で鬼族たちを捜すという旅になったことなどを話した。俺が異世界から来たって話は、今は関係無さそうだから省いた。
「というわけで、何かしらないか?別の世界あるいは次元へ転移する方法について」
「異なる世界、か…。随分ぶっとんだことを実現しようとしてるなお前。だからそんな異次元の力を手にしているのか……ああ質問に答えようか」
一拍おいてからエルザレスは答えを話す。
「結論から言うと、俺はそんな方法について全く知らない。というよりも……俺たち竜人族に限らず、どの魔族も異世界とやらへの転移魔法についてきっと何も答えられないだろう」
「そうか……」
ここも外れだったか。魔族にとって異世界転移ということ自体が知らないことなんだろうな。ならやっぱり探る対象は人族に限るのか。
いったいどの国へ行けば手がかりをつかめるのか……うーん、詰んだっぽい。
「はあ、しばらくはアレンの仲間捜しを中心とした旅になりそうだな。俺の目的を果たすのはいったい何年後か……」
「コウガ……」
肩を落として項垂れる俺を、アレンがよしよしと慰めてくれる。
「じゃあさ、アレンが捜している鬼族についてだが。次はどこを当たればいいと思う?」
「今存在している魔族の国あるいは里は、ここ竜人族と亜人族、そして獣人族だ。お前たちはこうして俺たちの国に来たわけだから残りは二つってことになる」
亜人族はオリバー大陸に、獣人族は最近まで俺たちもいたベーサ大陸にいるんだったな。ここからだとどちらの大陸とはそんなに離れてはいない。どっちから先に行ってもいいってわけだ。
「ただ……獣人族は魔族の中で最も排他的な種族でな。あそこへ行こうとなると色々と面倒だぞ。
反対に亜人族は人族の国と同盟を結んでいると聞いてるくらいだから、入国するのに手間はかからないんじゃないか?」
手っ取り早く鬼族の安否について知りたいなら、亜人族の国へ行く方が良いのか。あそこと同盟を結んでいる人族の国の伝手を使えばすんなり行けそうだもんな。
「じゃあ次に行く先は……オリバー大陸だな。その大陸にある亜人族の国へ行ってアレンは鬼族を捜す。俺は俺で、同じ大陸にある人族の国…ハーベスタン王国に行って異世界転移の手がかりを探す。これからの旅はこういう流れってことで」
俺がそうまとめてアレンとクィンを見ると二人とも笑顔で了承した。
「コウガさん、ハーベスタンで何か手がかりが掴めるはずです。アレンさんも、はぐれた仲間たちはきっとオリバー大陸のどこかにいるかもしれません」
「ああ今度は何か分かるかもしれないな」
「うん、はぐれた仲間たちはまだ生きている。センたちと同じように会えるきっと…!」
クィンの言葉に俺もアレンも頷いた。とにかくこれで次の旅の方針は決まった。
「そういえばお前たちはベーサ大陸からここアルマ―大陸に渡ったんだったな?」
「ああそうだが?」
「あそこの海域にも上位レベルの魔物やモンストールが出るとは聞いているが、おそらくこれからお前たちが行こうとしているオリバー大陸までの海域の方がもっと強い敵が現れるぞ。少なくともGランクの魔物は結構出るぞ。奴らに感知されないよう気配を遮断して進むってのが普通の渡り方だが、それにも限度がある。ある程度Gランクと戦える実力がないと次の旅は厳しくなるぞ」
へー、Gランクが出るのか。前回はAランクが出たくらいだったしな。アルマ―とオリバーの間の海は結構レベル高い敵が出るのな。
「カイダなら心配ないだろうが、他の二人はどうなんだ?」
「う……」
「正直、私の力ではまだGランクとは……」
二人とも苦い顔をする。アレンはSランク冒険者になったものの、実力としては単独で災害レベルと戦うにはまだ早いってところか。クィンも同様だな。
「そこで提案なんだが……。どうだ?二人ともここで少しレベルを上げないか?」
エルザレスの提案に二人は意外そうな顔をする。
「カイダに敵を全て任せるってならそれも良いが、少なくともアレンはそれを良しとはしないんじゃねーのか?」
「………」
アレンはしばらく黙ったまま考え、エルザレスの目をしっかり見て答えた。
「ここで少しの間鍛えることにする。今すぐ次の国へ行きたいけど……私の復讐の為にも、強くなる必要がある」
そう言ってから俺の方を見る。
「コウガ……しばらくここでレベルを上げても良い?」
「いいぜ。強くなるにはうってつけの場所だと思うぞここは」
エルザレスだけじゃない、カブリアスもドリュウも実力はGランクを凌駕している。そんな奴らと戦って経験を積めばけっこう成長できるはずだ。
「俺は急いではないからな、ここでしっかり鍛えてから次へ進もうじゃねーか。急がば回れってな」
「ありがとう!クィンも、いい?」
「ええもちろん。私も自分自身を鍛え直そうかと考えてましたから、丁度いいです」
そういうわけで、俺たちはしばらくサラマンドラ王国に滞在することとなった。