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サイド:ハーベスタン王国 2

 「私のような者などに興味を持たなくてもよろしかったのに、わざわざお食事に誘って頂けて光栄です」

 「何を言っているんですか、先日の討伐任務も、カミラさんの軍略のお陰で私も仲間たちも容易に成功することが出来ました。あなたの功績でもあるのですよ、モンストールの討伐は」

 「いえ……私はただ安全なところであれこれ指示を出すことしか出来ませんから。無論、軍略家としての責任を背負っている身ではありますが」

 「そうですよ!軍略家……軍師とも言いましょうか。そういった司令塔の役には多くの仲間の命を預かる身でもあるのですから凄く大変だと思ってます。その若さでそんな大役を担っているのですから、カミラさんは十分凄くて立派な女性です!

 ……ところで、失礼なのですが、カミラさんはおいくつですか?」

 「ふふ、ありがとうございます。年齢ですか?年内だと19になります」

 「二十歳未満……その年でそんな完成された体つきを……っ」

 「フジワラさん……?」


 酔いのせいか、またもカミラの体に目がいく美羽だった。


 「カミラさん、今日は女子同士で楽しく語りましょう!ほら、ワインも飲んでいきましょ!」

 「わ、私は……お酒はあまり飲まなくて――」

 「大丈夫です!悪酔いしたら“回復”で治すので!」


 渋るカミラにワインや他の酒を勧める美羽。こうして二人きりの女子食事会が始まった。


 数十分後、酔いが回って頬を紅潮させた二人は色んな話をした(主に美羽がだが)。酔いが回ったことでカミラも自分のことを話すようになった。


 「私は武家の子として産まれました。父も母もこの王国で位が高い武家出身でしたから、当然その子どもも武に優れているだろうと期待されていました。しかし私には剣や拳闘といった武の素質が絶望的に無いことが分かりました。ステータスプレートには私の職業は“軍略家”と、武家の者でありながら戦闘系ではない職業を授かりました。期待していた武家の者たちは手のひらを返すように、私をいない者のような扱いをするようになりました。幼い頃は辛いことが多い日々でした」


 頬は紅潮しているものの、どこか憂いを帯びた様子でカミラは自分のことを語り始めた。美羽はカミラの話を真剣に聞いていた。


「職業を変えることが出来ない以上、軍略家として生きていくことを決意した私は、当時幼かった私と同じくらいの武家の子たちと違って毎日大量の歴史本と軍略家としての勉学本が積まれた机で勉学に勤しんでました。

 その甲斐があって、数年後には私は今の地位を得ることになったのです。同じ武家出身の同年代の誰よりも早く出世して、勝利を約束した軍略を出し続けたことで、両親からも国王様からも民からも、私の活躍を認めてくれて褒めてくれるようになりました」


 成り上がり話を美羽は愉快げに聞いていた。しかしそこから続くカミラの顔は暗くなっていた。


 「ただ……他の武家の者たち特に同世代の者たちは、私の活躍を快くは思っていなかったようでした。武の才能が皆無な私が王国の軍事に大きく貢献出来ていることが妬ましかったのでしょう。昔も今も、彼らからは冷たく敵を見るような目で見られてばかりです」

 「そんな……」

 「私思うんです。この世界の人族は、“普通”ではない人を認めようとはしない。たとえ成り上がろうと妬んで蔑むだけの人がほとんどだってこと……。

 世間からズレた者は忌み嫌われる。その者がどれだけ善人でも」


 カミラは次第に俯き、それが今の自分の境遇なんだと暗に呟いた。

 そんなカミラを見た美羽は、ふと思った。


 (彼女の境遇はどこか、この世界に来てからの甲斐田君と似ている……)


 自分や生徒たちと違って皇雅だけ恵まれないステータスを授けられてこの世界に召喚された。それを理由にクラスメイトたちは彼を蔑み罵るようになった。この世界に来る前からも彼はクラスのみんなから疎まれていたようだが。

 実戦訓練で皇雅が誰よりもモンストールを多く討伐しても、誰も彼を認めようとはしなかった。むしろ「どうしてあいつが」「ふざけるな」と嫉妬の視線と言葉を投げるだけだった。縁佳などはそうはしなかったが。

 皇雅とカミラはどこか似ている……美羽はこの時何となくそう感じた。

 だから美羽は、カミラの手を優しく握った。


 「大丈夫です。世界中の誰もがカミラさんを妬んで侮蔑しているわけではありません。私やあなたの両親、国王様や仲間の兵士さんたち……。カミラさんを認めている人はたくさんいます。カミラさんにはちゃんと居場所があるということ、忘れないで下さい」


 優しくぎゅっと握ってくれる美羽の手を、カミラはしばらく呆然と見つめて、やがてくすりと頬を緩めて微笑んだ。


 「何だか、先生みたいですねフジワラさんは」

 「はい、私、元の世界では先生やってるんです!あと、ミワで良いですよ。ありがとうございます、カミラさんのこと話してくれて」


 そこからも二人は話を続けた。

 カミラは五年前のモンストールによる大規模な侵攻によって両親を失ったこと。孤立感に苛まれつつも、王国の為に命を燃やした父と母の遺志を継いで王国に尽くし続けようと決意したこと。

 美羽も、元の世界での生活のこと、少し前にある男子生徒が犠牲になってしまったこと、彼を救いに行こうとしたが結局出来なかったこと、彼の無事を祈っていることなど、自分のことを話した。


 「そうですか…彼は恵まれない者でありながらも自分に出来ることを必死に探して鍛えて、強くなろうとしていたのですね。逞しく、強靭な精神力を持った生徒さんですね。しかし瘴気まみれの地底へ落ちたとなると、生還はまず困難でしょうね………ああすみません!きっと生きているはずです、どこかで」

 「気を遣わなくて大丈夫ですよ。私も少し諦めかけてましたから……」


 少々暗い話もあったが、二人はすっかり打ち解けることが出来たのだった。



 滞在してから九日経ったところで、美羽の滞在任務期間の終わりが訪れる。


 「ミワさんとお話が出来て良かったです。少しは、前向きに生きる力が得られました。ドラグニア王国に帰ってからも頑張って下さい。この世界を、頼みます」

 「はい!またここに来ることを願ってます。カミラさんがいれば安心して戦えますから」


 二人は再会を約束して、別れた。美羽は案内人たちとともに船に乗ってオリバー大陸を発ってドラグニア王国へ帰るのだった。




 美羽がドラグニア王国の窮地を知るのは、その翌日のことだった――


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