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アルマー大陸侵攻編

「災害の予兆」

 ドラグニア王国から少し離れたところにある歓楽街「ハラムーン」。王国にも娯楽施設はあるが、せいぜい娼館があるくらいだ。

 ここには、日本でいうキャバクラやホスト、さらにカラオケまでもある。異世界でカラオケがあるとは思いもよらなかったため、休暇の日はたいていこの歓楽街に入り浸ることになる。

 その日本からこの世界に召喚された男…大西雄介おおにしゆうすけは、いつもつるんでいるメンバーとともに、いかがわしい行為も許容されているキャバクラらしき施設で遊んでいた。


 彼らこそが、ドラグニア王国が形成した対モンストール組織「救世団」のメンバーである。異世界召喚の恩恵を受けた彼らは、普通の人族たちよりも優れた固有技能と高い能力値を授かっていて、強い。


 現在彼らはこの歓楽街で羽を休めている最中である。

 羽を休めていると言っても、ここ最近の彼らはロクに訓練もせずに、こういった娯楽施設にしょっちゅう通っている。

 特に大西たちのグループは酷いものだった。

 男子メンバーは手当たり次第に店の女に言い寄っては別室でいかがわしい行為に及んでいる。酷い時は、他の客の女にまで手を出して寝取りにくる。文句を言う客には、自分が何者なのかを主張して力を見せつけて黙らせる。

 女子メンバーも男漁りの日々を過ごしている有様だ。

 先日マルス王子やブラッド兵士団長からもっと鍛錬に精を出すようにと叱責されたにもかかわらず、大西グループは相変わらず向上心が乏しく努力を積もうとしない態度のままだ。 

 とても世界の為に戦う勇者のようなものとは思えない連中だが、ここ最近上位レベル以上のモンストールを多く討伐している実績があるため、兵士団や貴族、王族でさえも彼らにあまり強く出ることができないでいる。

 もっとも、カドゥラ国王もマルス王子も、この案件に関してはもう触れないでいる。彼らにとっては結果さえ出せばそれで良いと考えているからだ。

 そのせいもあって、救世団の好き勝手さが日に日に増していっている。


 今日も、一緒にいるクラスメイト、山本純一やまもとじゅんいち片上敦基かたかみあつきと店で非常識に騒いでいる。

 他にも、女子の安藤久美あんどうくみ鈴木保子すずきやすこがいるが、大西たちとは別の店で遊んでいる。


 「元居た世界にもこういうところあるけどさぁ、金がかかるから行き辛かったじゃん?でもこの異世界では、王国からいっぱい支給金貰ってるからほぼ毎日ここで遊べるよなぁ~!

 人生勝ち組になった気分だわ!ww」 

 「それな~。あ、そうそう。須藤が最近別の地域で穴場の良い店見つけたって自慢してたぜー。今度案内させてもらおうぜ―」

 「まじかよ!行こうぜ!モンストールと戦うための英気を養うぞ~ってな!」


 ゲラゲラと酒を飲んで娯楽に浸っている。周りの客が不快げに彼らのテーブルを見るが、誰も文句を言いに行く様子はない。彼らを注意したらどうなったのかを、皆知っているからだ。

 先日は酒に酔って騒いでいた山本に注意しに行った真面目な性格をした男冒険者が、逆ギレされて理不尽に殴られたのだ。その者は大怪我を負って酷い目に遭わされた。

 その成り行きを見ていた客たちが王国にクレームを入れたのだがまともに相手してはもらえなかった。王国の要人でさえ救世団のストッパーになってくれる人などいないと悟った彼らは、救世団のメンバーたち、特に大西たちには何も言えなくなってしまっている。

 大西たちが店に来た途端、他の客たちは絡まれたり巻き込まれるのが嫌ということで、他の店へ逃げるのがよくあった。


 そんな大西たちに、通信機から連絡が入る。モンストールの討伐任務だ。


 「せっかく楽しくなってきたところに、また任務かよー!だりーな!」

 「仕方ねーだろ。俺たちはあの気持ち悪い化け物どもを滅ぼす為に呼ばれたんだしな」

 「しかもそこいらの兵士や冒険者なんかより強い強い俺たちだから、みんな頼ってくるのは当たり前だ。こうして遊ぶ金もらってるんだし、その分の仕事はしなきゃっしょ!」

 「それもそうだなー。じゃあ王宮に行って任務終わらすかー」


 けだるげに歓楽街を出て行く大西たちを見て、他の客たちは安堵する。モンストールを討伐してくれるのはありがたいが、あの素行はどうにかしてほしいと誰もが思うのだった。




 「ラスト一体!雄介、決めろ!!」

 「また俺がかよ!しゃーねぇなぁ!!」


 ドラグニア王国管轄内で出現したBランクのモンストールの群れを、歓楽街にいた大西たちや須藤、安藤たち数名で対処していた。

 それぞれ連携を取って特に苦戦することなくモンストールたちを討伐していき、最後の一体も大西の両手剣でバッサリ両断して終わらせた。

 彼らのレベルは大体二十前後。普通の兵士や戦士だとこのレベルでは上位レベルの敵には到底敵わないのだが、異世界召喚の恩恵によって大西たちはこのレベルでBランクをも討伐出来るようになっていた。

 もっとも、彼らがもっと鍛錬や経験を積んでいれば今頃はもっと高いレベルにいってもおかしくはないのだが。彼らの傲慢と怠慢が自身の成長を妨げているのだった。


 「今日はいつもより多かったな。十体以上いなかった?」

 「いたいたー。チョーだるかったし!魔法攻撃どんだけ撃たせんのって感じ」

 「というか、最近の任務内容って群れ討伐が多いよね。最初の頃は単体があちこちにいることがほとんどだったのに」


 片上の問いかけに安藤が疲れた様子で答える。さらに鈴木がモンストールの出現内容についてふれる。モンストールには群れをつくる習性はなく、単独で移動することが当たり前とされている。モンストール同士が協調することも全くないというのも世界の常識だ。


 「別に良いんじゃねーの群れが相手でも。経験値たくさん入るし。これなら怠い鍛錬とかしないで済むし!」


 大西たちは群れについて特に気にすることなく、この後も遊ぶぞと意識を娯楽に切り替えるのだった。


 その翌日、別の管轄内区域でモンストールの群れが出現したとのことで、近くの村で滞在していた救世団のメンバー、里中優斗さとなかゆうと小林大記こばやしだいきが、兵士数十人とともに討伐に出た。

 任務には成功したものの、彼らはかなり疲弊していた。


 「マジで多過ぎ……。ⅭランクとBランク合わせて二十体以上っておかしいだろ!?」

 「まじそれな……。味方クラスメイトあと数人欲しかったっての。堂丸とかがいたらもっと楽に倒せてたってのによ」


 里中も小林も疲労で息を乱しながら悪態をついている。同じサッカー部である二人の連携は兵士団も認めるもので、里中が武術近接戦で小林が魔法で援護をしてモンストールを一体ずつ確実に仕留めるという戦い方を得意としている。

 しかし敵が二十を超えるとなると、その戦い方は後半になるにつれて疲労がかなり蓄積されるものとなった。それでも救世団のメンバー二人で群れを殲滅できた里中たちの実力は評価できるものとなっている。


 その日、里中は国王やミーシャ王女に多くなった群れについて報告した。


 「何ていうか、モンストールって群れではそんなに出てこないって聞いていたんですけど、最近かなり発生していると思うんです。昨日だって大西たちも群れに遭遇したとかで……」

 「ふむ……。ミーシャよ、お前はこれをどう思う?」

 「………何かが起こる予感がします。良くない何かが……。今まで群れが頻繁に発生することがなかった以上、用心することに越したことはありません。これからは救世団のメンバーを最低でも五名で編成させて、さらに兵士も増員させて任務に当たらせた方が無難だと考えます」


 ミーシャは深刻そうな顔をして国王に意見を述べた。モンストールが大陸各地で群れを形成しているという報告を受けてから、ミーシャは何かが起ころうとしているのではと推定していた。

 かつて読んだ五年前のモンストールとの戦記に、群れがいくつも、それも統率されて襲いかかったというのが記されていたのを彼女はこの時思い出していた。

 最近発生した群れに統率した様子はなかったとの報告は受けているものの、五年前のような大侵攻が起こるのではないかとミーシャは危惧していた。


 「そんなに多くで編成しちまったら俺に経験値が入りにくくなるじゃないすかー王女様。Bランク程度だったら俺らはこのグループのままで良いっすよ。多く倒す分かったるい鍛錬をしなくて済むんだし!」


 そんなミーシャの抱いている危機感をつゆとも知らずに、大西は能天気で楽観的な発言をしてみんなの笑いを誘っていた。


 「確かに、今のところは上位レベルのモンストールが群れを成しているだけだと聞いている。その程度の集まりしか発生しないのであれば主だった増員はまだしなくてもよいのだろう。ただし、Aランクの敵が群れを成すようであれば、ミーシャが提案した通りの編成でいく。皆、引き続きモンストールの殲滅を頼んだぞ」


 国王の言葉に救世団全員が了解と答える。その対応にミーシャは不安を抱いていた。


 そしてミーシャの悪い予感は的中する。


 三日後、アルマ―大陸の各地でGランクモンストールが多数出現したのだった――


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