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「元クラスメイトたちとの再会」2

 全員が思わず窮地であることも忘れて、声がした方へ顔を向ける。偶然か、モンストールたちも彼らへの攻撃を止めて同じ方へ顔を向けた。

 そこに立っていたのは一人の少年。クラスメイトたちと違って全く装備がなっていない格好をしていた。そんな格好でこの戦場へ立つのは自殺行為と変わりないと誰もが思ったことだろう。


 「誰だ、お前……?」


 須藤がポツリと問いかけるが、突然現れた少年は答えることなくどんどん近づいていく。自分の質問に答えないことに苛立つ須藤だったが、少年の顔を見た途端、態度を一変させた。苛立ちから驚愕へと変わっていた。

 それは彼だけではなく、他のクラスメイトたちにも伝播していった。誰もが少年の姿を認識した途端、信じられないといった反応をした。

 誰もがあの時……異世界召喚されて間もないうちに行われた最初の実戦訓練で生贄にされて落ちていって、死んだとされていた元クラスメイトの少年……


 「よっ、久しぶり~」


 甲斐田皇雅かいだこうがに―――




                 *


 「よっ、久しぶり~」


 俺はあえてやや明るく軽い調子で元クラスメイトどもにそう挨拶をした。

 誰もが俺を見て驚愕してたがる。アホ面もしてやがる。そんなに俺がここに現れたことがあり得なかったらしい。つまり俺は死んだと思っていたらしいな。


 「は?お前……は?甲斐田?」


 他の連中を押しのけて俺に近づいて話しかけてきたのは、生前の俺に散々ヘイトを募らせたクソ野郎、大西だ。雰囲気イケメン装っていた奴だったが、今となってはその面影はない。戦いで消耗したせいでただの醜男となっている。


 「テメーが頭の中で浮かべてるだろう甲斐田皇雅、その本人だ。テメーらがあの日嘲笑いながら見捨てやがった甲斐田皇雅さんだ」


 相変わらず軽い調子のままで話す。こいつらにとってはこの状況に相応しくない態度だろうな。そう思っているらしく、何人かは戸惑いながらも俺に不快感を示しているのが見える。


 「お前……あの実戦訓練で死んだんじゃなかったのか!?どうやってここに!?」

 「え?ホントに甲斐田?そっくりさんとかじゃなく?」

 「ウソ?脚かどこかに大怪我した状態で地下深くへ落ちたから死んだかと思ってた。つーか前と比べて変わってない?肌の色とか」


 しかし驚きの方が勝っていたらしく、皆離れたところから俺を見て勝手に話し始める。


 「俺があれからどうなったのかをテメーらに話す気はない。めんどいから」


 大西たちを見下すようにそう言いながらこいつらの状態を「鑑定」してみる。体力は6割以上削られていて、魔力は魔術師系の奴中心に底をつきかけている。見た目通り憔悴しているってところか。


 「これだけ戦力を揃えておいて、たかがGランクのモンストールの群れに大苦戦……いや、追い詰められてるって。くくっ、だっさいなーテメーら。そして弱い、弱過ぎる。異世界召喚の恩恵を十分にもらっておきながらその体たらく。ざっこ、カス過ぎるわホント」


 口に手を当ててププーっと嘲笑して全員を蔑んだ目で見回してやる。


 「あ?俺たちと違ってカス職業で雑魚能力値だったハズレ者が、何俺たちを見下してんだよ、オイ。その格好も、大した装備もしてないくせによ。そんな貧相な姿しておいて何馬鹿にしてくれてんだぁ!?」


 短気を起こして俺に近づいたのは刈り上げ頭の山本と坊主頭の片上。脅しのつもりか片上が武器の槍をこちらに向けてきた。大西も、須藤だったか?あいつらも俺に怒りと侮蔑の目を向けてくる。

 そんな煽り耐性が無く、状況を分かっていない連中を見た俺は再び呆れてしまう。あくびをしながら大西たちの後ろを指差して…


 「敵を前に余所見するとか、雑魚のくせに余裕かましてるんだな」


 俺がそう言った直後、大西たちの背後からどう猛な雄叫びが鳴った。連中がその声に慌てて振り返ると接近していたことに全く気付いていなかったらしい狼っぽいモンストールが牙と前足をぎらつかせて襲い掛かるところだった。俺は最初から奴に視線を向けていたのに、誰一人として後ろを気にしなかったな。アホ過ぎる。


 「うわっ、いつの間に!?ひ、ひぃ……っ」


 大西は両手剣を咄嗟に構えるが、モンストールの気迫に怯んで横に逸れる。山本と片上に至っては萎縮して動くことすらしない。呆然とモンストールを見ることしか出来ないでいる様だ。


 「うわっ、純一、敦基…!」


 大西も、誰もが二人が殺されると思ったその時―――



 ヒュ、ボッッッッッッッッ


 予め脳のリミッターを解除して力を溜めていた俺の右ストレートが、狼型モンストールの口に入り、頭部を爆散させた。


 「――――えっ?」


 誰もが俺を見て呆然とする。まるで時間が止まったかのように静かだ。音を立てているものといえば、首無しとなったモンストールの体がボトリと地面に落ちる音くらいだった。

 その死体に俺は炎熱魔法を放って焼却する。


 「は、え、え?甲斐田が、Gランクモンストールを………?」


 かすれた声でそう呟いた誰かの声を無視して俺はすたすたと歩いて、残りのモンストールどもを睨む。


 「じゃあ、依頼任務をこなすか」


 脳のリミッターをさらに解除した俺は、地面を蹴ってモンストールの群れに突っ込んだ。


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