「あなたの過去は以前に聞いています。だからあなたが彼らに対して尋常じゃない怒りを抱いている理由も分かっているつもりです。ですが私は……コウガさんにはこんな復讐紛いの行為をして欲しくありません!!」
必死の形相で俺がしていることを非難する。そんなクィンを俺はめんどくさそうな顔で見返す。
「これ以上彼らに何かするようであれば……任務は失敗ということにさせて頂くことになりますよ…」
しまいにはそんなことを言い出すから、俺も冷めてしまう。
「ちっ……もういいよ。このクズどもにそれなりの痛みと恐怖と屈辱を与えることが出来たし。もうこのクズどもの顔見るのも不快だ。帰ろう」
魔力を霧散させて何もしませんよのポーズを取りながら、元クラスメイトどもから離れて今度こそ帰り始める。
「化け物…」「顔を見たくないのはこっちも一緒だよ」「早くいなくなれ」
背中越しに奴らの陰口を受けながら俺は振り返ることなくドラグニアから出て行こうとしたのだが……
「カイダさん!!」
俺の名を引き止めるように叫ぶ声にまた立ち止まってしまう。声からして少女。そしてこの声には憶えがある。振り向くと予想通りの人物がいた。
「お姫さんか」
「カイダ、コウガさん……!」
ミーシャ・ドラグニア。お次はこの国の王女が現れた。ついでに武装している男二人も一緒にいる。
「カイダコウガ…だと!?」
「死んでなかったのか奴は…!?」
国王と王子。二人とも殺していい、というか殺したいと思ってる害悪どもだ。何せ国王は元クラスメイトどもと同様に俺をゴミ扱いしやがったし、王子に至ってはあの実戦訓練の時に俺を切り捨てることを真っ先に提案して実行したクソ野郎だからな。
「老害国王とクズ王子が…」
そんな二人に俺は不遜でゴミを見る目で睨み返してやった。
「貴様……久々の再会早々に、余と父上に対して何だその言葉と目は!?」
「マルス、奴の言動と態度については今は置いておけ。それよりも……これはまさか、あのモンストールの群れはもう殲滅したというのか!?」
王子は相変わらず俺に侮蔑の意を込めた目(今は怒りもあるな)を向け、国王はこの地を見渡して信じられないといった様子で誰かに尋ねるように喋る。
「貴方は…ドラグニア王国国王カドゥラ様ですね?私はサント王国兵士団副団長、クィン・ローガンと申します」
国王のところにクィンが片膝をついて敬う姿勢をとりながら名乗り上げる。
「色々な理由でこの大陸に滞在してました。そして先程まで発生していたモンストールの群れがここに侵攻していたことを知り、微力ながらこの国の危機を救うべく参りました。もう意味が無いことになりますが、本日中には我が国の兵士団からさらに増援が来ることになっています、ご了承ください」
「おお、サント王国から…。わざわざ大儀であった。ではまさか、そなた…クィン兵士団副団長がモンストールの群れを、救世団と共に掃討してくれたのか?」
クィンを見た途端に国王と王子は彼女に親しげな態度を取る。俺に対してだと見下したり侮蔑の目を向けてたくせに。気持ち悪いくらいの猫かぶりだな。
「いえ。あの群れを殲滅したのは私でもなく救世団でも…なく、ここにおられるカイダコウガさん。彼が一人で残りの敵を全て討伐されました。彼がこの国の危機を救って下さったのです!」
クィンは俺の方を見て紹介するように手を伸ばしてそう主張しだした。あーもう別にそんなこと言わなくてもいいのに。
「…………今の言葉は、真実か?」
国王は額に微かな汗を滲ませながらクィンに問いかける。王子はハァ?と言いたそうなリアクションを取り、お姫さんは…ん?そんなに驚いてはいないな。予め何か知っていたような感じだな。
「真実です。さらに申し上げますと、ここに来る前からも彼は大陸各地で発生したモンストールの群れを全て殲滅してきています。それによって多くの村と町が救われました。彼がいなかったら、領国内にあった村と町は全てモンストールに蹂躙されて滅んでいたことでしょう…。そしてこの国も無事で済むことはなかったでしょう、全戦力を投入していたにもかかわらず…」
最後の部分を言っていた時のクィンは、国王たちを非難するような口調で話していた。目も非難の意がこもっていた気がした。実際に国王は言葉に詰まっていたし、お姫さんも罪悪感を抱いているような感じだった。そういえばクィンは情報屋コゴルが提供してきた情報内容を聞いて激怒していたっけ。だからこうして非難するような言い方をしてるのだろう。
「………失礼致しました。とにかく、モンストールの脅威はもう無くなりました。これ以上新たな敵の軍勢が現れることもないと確信しています。もう大丈夫です」
帯びていた険を失くして再び敬った態度で敵が完全に消失したことを宣言するクィン。それを聞いたお姫さんはホッとした顔になった。
「あの脅威が去ったのは僥倖だ。だがしかし……その敵を消し去った者が、あの男だと言うのは、いささか信憑性に欠けるな」
国王は再び俺に目を向ける。疑心に満ちた目で、まだ見下した態度で。
「その通りだ!クィン殿は知らぬかもしれないがな、あの男…カイダコウガのステータスは救世団の誰よりも劣っていた!上位レベルの敵を倒すことすら叶わないレベルだった!そんな奴が一人で十を超える数のGランクモンストールを討伐することなど、信じられぬ!!」
王子もこっちに敵意と侮蔑を込めた目で睨んでくる。
「ですが、真実です!コウガさんがいなければこの国が本当にどうなっていたか……っ」
「“コウガ”、さん……?」
別に擁護しなくていいのにクィンは俺が敵を殲滅したと二人に食い下がろうとする。そしてお姫さんはよく分からないところに反応している。
「………。本当はクィン殿と救世団の彼ら、そして我が国の兵士たちの活躍がほとんどではないのか?」
国王は元クラスメイトどもに目を向ける。奴と目が合った男子…たしか鈴木貞三郎だったか?は、気まずげに、そして悔しそうに目を逸らした。その反応を見た国王はますます難しい顔をする。
「…………詳しい話は、王宮内で行うとしよう。クィン兵士団副団長、そして……カイダコウガ。王宮に来てもらおうか」
また俺に対してだけ見下した態度でそう言ってくる。
「は?誰がテメーらの言うことなんか聞くかよ。俺には帰るところがあるっつってんだ――」
「コウガさん。お願いします。私と一緒に王宮に行きましょう。この件ついてもう少し話しておきたいことがあるので。あなたも交えた状態で」
俺がやってられるかっていう感じで立ち去ろうとするが、クィンにまた止められて、しかも一緒に行こうとか言い出す。
「はぁ?何で?」
「お願いします…」
疑問をぶつけるもクィンはひたすらお願いしてくるので、「分かったよ」と言ってついていくことにした。俺は何回この女の言うことを聞かされる羽目にあってんだか…。
不本意だがクィンとともに、嫌な思い出しか残っていないあの……ドラグニアの王宮へ移動する。
その道中お姫さんが俺をジッと見てくるのだが、俺は知らんふりを通した。