場所は変わって、ここはあの日…実戦訓練の日の朝にも来た、王の謁見部屋。その部屋の奥には大きな王座があり、そこには国王があの時と同じように偉そうに座っている。両隣には王子とお姫さんが、後方にはこの国の兵士団団長(確か名前はブラッドだったか)が立っている。さらに左右端にはこの国の王族や上層部も控えていた。
俺とクィンは今、出入り口となる扉まで続いている赤い絨毯の上、部屋の中心に立っている。これから何を話すのかは分からないし興味もないしどうでもいい。つーか早くゾルバ村…アレンがいるところへ戻りたい。
「まず…何から聞かせてもらおうか」
要人が全員揃ったところで国王は話を始めようとする。俺とクィンを交互に見て、最終的には俺に目を向ける。その目は相変わらず人を見下して敵意を向けたもので、友好的な感情など微塵も含んでいない。
「カイダコウガ…。貴様はどうやって生きて地上へ戻ってきた?マルスとブラッドからの報告によれば、当時の貴様はモンストールによって深手を負わされた状態のまま、モンストールとともに地の底へ落ちていったそうではないか」
「それに地底には人族や魔族が死に至る瘴気が充満しており、強大な力を持つモンストールも多数いるとされている。あの時の貴様がそんな地獄から生還出来たとは思えぬ!言え、あの時いったい何が起こったのかを!」
国王が偉そうな態度のまま質問した内容は、俺が如何にしてあの地底から生還したのかということ。王子もあの時の状況と地底の背景を思い浮かべながら同じように尋ねてくる。
貴様貴様と鬱陶しく問うてくる二人は、俺のことをまだ下に見ているようだ。立場も権力も何もかもが俺より上で、自分らの命令に従って当たり前ーって思い込んでやがる。
「どうした?さっさと話せ。貴様如きに時間を割いてきた他の者たちのことも考えろ。災害レベルのモンストールを数体討伐したと聞いたその力をどのようにして得たのかも、我らに話す義務が貴様にはある」
「貴様が持っているであろう情報は、この世界に蔓延っているモンストールを殲滅する兆しとなり得るのだぞ!この国の為…世界の為に、知っていることを全て話せ!それとも何か?外道な行いでもして生還して得た力だと言うのか。迷う必要は無い。話すことが優先だ。もし外道な行いをしたというのなら後でその沙汰を考えるが」
どこまでも勝手で上から目線の二人に対する俺は……
スッ……「「「?」」」
人差し指を赤い絨毯の下に向ける。そして俺も偉そうに人を見下した態度をとってこう告げる。
「話して欲しければ、二人ともここで俺に土下座をしろ」
部屋が数瞬沈黙に包まれた。隣にいるクィンが驚愕に目を見開いて俺を見て、お姫さんも彼女と似たようなリアクションをとっている。そして国王と王子の二人は呆気に取られ、何を言われたのか分からないって表情で硬直していた。何あの顔、キモいな。
「今…何と言った?」
「は?聞こえなかったのか?その耳は飾りですかー?だーかーらー。俺がどうやって地上に戻ってきて、さらにくっそ強くなってなったのかについて話して欲しいなら、この地に頭を擦りつけて手をついて『どうかお教え下さいお願い致します』って言えよ」
悪い笑みを浮かべながら指を下に向けたままそう言ってやる。
「な………な……っ」
「ああ?第一声は“な”じゃなくて、“どうかお願いします”の“ど”だろうがクソ王子。余は貴様らの土下座を所望しているのだぞ、さっさとしろ」
王子の自分呼称と口調を真似して馬鹿にしてやる。くくっ、王子の顔がここからでも分かるくらいに怒りで赤くなってやがる。国王も明らかに怒りの表情を浮かべてやがる。
「貴様ぁ!!余と父上に対して何だその口の利き方は!?この国を統べる者だぞ!」
王子の怒声を起点に左右に控えていた王族や上層部も同様に俺に怒りの非難を浴びせてくる。
「片手剣士の分際で」「かつては最下層の戦士が」「立場を弁えろ」「王の冒涜罪だ、死刑だ」「この身の程知らずが」
左右から耳障りな罵声がとんできて鬱陶しい。で、国王は怒り顔のまま片手を上げて合図を送る。同時に後方にいたブラッドと左右にも控えていた兵士どもが俺とクィンを囲んだ。
「な……っ!?」
「クィン兵士団副団長は下がられよ。即刻この不届き者を拘束せよ!」
国王も王子程ではないにせよキレた状態で兵士どもに命令を下す。しかし兵士どもは俺に近づこうとはしなかった。理由は単純、俺が全身に魔力を迸らせ手足を「硬化」させて戦闘態勢に入ったから。それを見た彼らは近づくことが出来ないと悟った。クィンは額に冷や汗を滲ませながら俺から離れて武器を構えている。
「何をしている!?早くその愚かな異世界少年を捕らえろ!殺しても構わん!」
国王と王子以外の王族どもが俺を指差して兵士どもに命令をとばす。
「おい…誰に向かって武器を向けようとしてるのか分かってんのか?この国に侵攻してきた数十のGランクモンストールの群れを単独で殲滅させたのが俺だってことを忘れたわけじゃねーよな?」
「「「「「……っ」」」」」
「テメーらが縋っていたあの弱っちい救世団(笑)が倒しきれなかった敵の軍勢をたった一人で全滅させたのが俺だってこと、現場にいたテメーらなら知らねーわけないよなぁ?」
そう言って睨んでやると、兵士全員は顔を青くさせて俺から数歩引き下がる。今回の戦いの結果を知っている以上、こいつらはたとえ国王の命令だろうとうかつに俺に攻撃をしようとはしない。誰だって命は惜しいだろうからな。
「おい何故引き下がる!?相手は一人だ、さっさと一斉に――」
「うるせぇんだよさっきから」
ヒュ――ゴッ「ぎゃあ!?」
左から兵士どもにうるさく命令する王族の一人の顔面に拳圧を飛ばしてふっ飛ばして黙らせる。王族は壁に激突して昏倒した。それを見た他の王族や上層部どもは蛇に睨まれた蛙の如く身を固めて黙った。王子と国王も同様にしている。
「テメーらも分からねーのか?今の俺があの時の俺だと思ってんじゃねーぞ。今の俺はGランクはもちろんSランクの敵だって苦労することなく殺すことができるんだぜ?そして…その気になれば今すぐここの全兵士とあの連中をも皆殺しにだって出来るんだ。何なら試してやろうか?テメーら自身で…!」
「――っ!ぐ、う………」
「ぬ、ぐ…………っ」
俺にギロリと睨まれた国王と王子はようやく目の前の俺が途轍もない力…それこそこの国を簡単に滅ぼすことが出来る人間であることを理解したらしい。これ以上偉そうな口を利くことはせず、ただ歯軋りをして悔しそうにしている。
「コウガさん、そのへんで――っ!?」
「いいや止めねー。クィン、しばらくそうしていろ。大丈夫、殺したりはしねーから」
俺を諫めようとしてきたクィンを、雷電魔法で麻痺状態にさせて座らせる。これ以上は我慢出来ねーからなぁ。奴らには分からせてやる必要がある。調子に乗りやがって。
「まずさぁ。俺は一応この王国の危機を不本意ながら救ってやったんだぞ?なのにクズ国王…テメーの第一声は何だ?“何から聞かせてもらおう”だ?国を救ってくれたことへの礼の一つも言わないどころか自分が知りたいことを優先しやがって!テメーそれでも王国を統べる国王か?礼儀知らずにも度が過ぎてんだろ」
「ぐ……!それは、貴様が本当にあれだけの敵をたった一人で殲滅したのかどうかが定かではなかったから……」
「下らねー言い訳だな、しょうもない。じゃあ今すぐテメー自身で俺の力を受けてみるか?それなら本当か嘘かハッキリ出来るんじゃねーか?そこのクソ王子でも良いんだぜ?」
硬化した両腕を見せつけて牽制してみせる。その時王子が怒りの形相で飛び出してきた。