「ふざけやがって……クラスのみんなが殺されていくのをそうやって見世物として見物しやがって……!この外道がっ!!」
モンストールどもに恐怖しながらも憤怒の形相で罵倒してくる。この期に及んでそんな言葉が出るとは、案外肝が据わってるじゃねーか。それとも開き直ってるだけか。
「外道は否定しねーけど、テメーにだけはクズとか言われたくねーな。しょうもないことで俺を敵視して陰湿な嫌がらせもして、力を得た途端にデカい面して俺を甚振って……。俺を見捨てることに真っ先に同意したのはクラスの中ではテメーだったよな?そして俺が落ちていくのを愉快そうに見てやがった」
「っ………!」
「対する俺はどうだ?別にヘラヘラ笑って見物してねーだろ?だがテメーらは嗤っていた。クズはテメーだ、大西雄介。最低蛆下種糞野郎が」
大西はギリギリと歯を軋ませてからまた何か言ってくる。
「お前がいなければ……俺はっ!学校生活をもっと楽しく過ごせたんだ!!目障りだったんだよ!!存在が鬱陶しくて、いなくなればいいのにとどれだけ思ってたか!!あの時、モンストールごと地下深くへ消えてくれてどれだけ清々したことか!
なのに……なのに、何でこうなってる!?何で俺とお前の位置があの時と逆になってるんだ!?おかしいだろ!?クラスでいちばん弱くてハズレ者だった甲斐田が何でクソ強くなって戻ってきてんだよ!?何で死んでねーんだよ!?」
「ん?ああテメーらには言ってなかったか。俺は一度死んでるんだよ。ゾンビとして復活して今ここにいる。テメーらのせいで死んでんだよ俺は」
「何だそれ……ふざけんな。死んだんなら地獄にでも行ってろよクソがぁ!!」
怒りに任せて叫んだところに、エーレが放った魔法で吹き飛ばされる。両脚が焼き焦げて立つことすら不可能となった大西は苦しんで呻いている。
「ったくうるせぇな。それよりさっきの発言だが…。俺も、テメーみたいなゴミクズさえいなければもう少しマシな学校生活が送れたろうなーって思ってたよ。何でテメーみたいなのが生まれてきたんだって思ってたよ。
というか俺が深手を負って地底へ落とされたのは、テメーが先走って廃墟を進んでその先でGランクモンストールを引き連れて来たのが原因だったろうが。全部テメーのせいだ。あの時に対する罰が下ったんだと思っとけバーカ」
激痛に苛まれながらも大西はズリズリと地を這って、今さらながらモンストールどもから逃げようとする。そこに、さっきぶっ飛ばしたゴリラ鬼型モンストールが戻ってきた。大西を睨みつけてズンズン近づいていく。
「なあ、お前がクズじゃねーってんなら、今すぐ俺を殺せよ。あんな奴らに残酷に殺されるよりかは、まだマシだ…。さっさと、殺せよ甲斐田ぁ。頭とか心臓とか撃ち抜いて殺すことくらい、簡単だろ?もう気が済んだだろ?お前を生贄にして見捨てた俺たちが殺戮されていくところを見て、もう満足しただろ?だったらせめて俺をこの苦しみから解放してくれ、よお……っ」
震える手を伸ばしながら、大西は俺に殺してくれと頼む。憎いはずの俺に介錯を求むとか、そこまで追い込まれたか。いずれにしろ自分の命はもう諦めたらしい。どうせ死ぬなら楽に逝くことを選ぶ、か。まあそうだよなぁ。
けどな、大西…。俺はテメーの思い通りには絶対動いてなんかやらない。何故なら……
「俺は殺さない。自分の手でテメーなんか殺してたまるもんか。復讐しないって決めたからな。俺はテメーらを見殺しにするって決めてんだ。だからモンストールどもに殺されて、死ね」
大西雄介が、クラスの中でいちばんムカついた奴だったし不愉快だったし嫌悪してたし死んでほしいと考えてたからだ。
そして、大西はゴリラ鬼に頭と胴体を同時に掴まれ……力いっぱい引き千切られた。
噴水のように噴き出る大西の血を浴びたゴリラ鬼が咆哮する一方で、大西の体は力無く地に倒れ伏せ、頭はゴリラ鬼の手から転がり落ちた。
偶然にもその顔は俺の方に向けられていた。絶望の表情をしていた。
「 ざまあ 」
物言わなくなった大西の頭部を見下しながら、俺はそう呟いた。
ドラグニア王国にいた3年7組のクラス生徒は全滅した。
俺に悲しみの感情はなかった。かといって歓喜の感情も湧かなかった。
復活した当初はあいつらを憎いと思った。この手で殺してやろうとすら考えた。けど旅しているうちに、あいつらへに対する意識は憎悪から無関心へと変化した。
どうでもよくなったのだ。次第に復讐しに行くのも億劫に感じた。死ぬなら勝手に死んでくれと思うようになった。ドラグニアに戻ってきて大西たちと再会した時も、その意識は変わらなかった。
だから今、元クラスメイトどもがモンストールどもに残酷に殺されても何も思わなかったし感じることもなかった。
無関心あるいは冷める……これこそが嫌悪の極致なのかもしれない。関わらないことこそがいちばん害を被らないから。嫌うことも憎むこともない。無関心こそが最もな拒絶であり縁を切ることだったのだ。
元クラスメイトどもを見殺しにしたことで、そういうことに気付かされた。
「じゃあな元クラスメイトども。テメーらに送る言葉は何も無い」
大西の頭部を見つめながら無感情にそう言い捨てる。
直後、大西の頭部をゴリラ鬼が踏みつぶした。同時に「迷彩」を解除してモンストールどもに俺を認識させる。四体とも一斉に俺に目を向けてきた。
さて、モンストールどもの駆除を始めようか。