あれは小学生、確か4年生の頃だったでしょうか。
当時は私立の小学校へ通っていた私が、公立の小学校へ通っていた妹の運動会を見に行った時のことでした。
それは、私と同じ学年のプログラム…徒競走。そこで私は「彼」の走っている姿を目にしました。
「彼」は他を寄せ付けないような走りをして終始ぶっちぎりのトップでゴールしてました。
しかし「彼」は喜びの感情を微塵も見せませんでした。後からゴールした男の子たちは皆、「彼」のことを疎んだ目で睨み、距離を置きました。
「彼」はそんなことに全く気にすることなく、一人どこかへ行ってしまいました。
私が「彼」……
*
サント王国の王宮、謁見の大部屋。ここへ招かれた俺たち旅のパーティは部屋の中心に立たされている。
部屋にいる主な人物だが…
奥にある大きな椅子に座っているのが、サントの国王。
俺たちの隣で控えているのが、兵士団の副団長、クィン・ローガン。
王座の近くに設けられている貴賓席には、国の要人らしき奴らの中に混じっている少女…ミーシャ・ドラグニア。
そして俺たちの前方、王座から少し近い位置に立っている5人組…元クラスメイトども。
「………!!」
その中の一人、セミショートヘアの黒髪少女……
「ま、まじかよ…。ホントに甲斐田が、来た…っ」
「え?甲斐田なの?よく似た別の人とかじゃなくて?」
「私の目には、あの時最後に見た甲斐田が映ってるけど…」
「……………」
残りの4人が小さな声で何か言い合っている。
全員が俺を驚愕や疑念といった感情が混じった目で俺を遠巻きに見てくる。
俺はそんな視線を無視して5人を通り過ぎて、王座へ近づく。そのついでに5人のステータスを「鑑定」してみた。
タカゾノヨリカ 18才 人族 レベル70
職業 狙撃手
体力 2750
攻撃 2200
防御 2500
魔力 2650
魔防 2500
速さ 2550
固有技能 全言語翻訳可能 気配感知(+索敵) 危機感知 鷹の眼 隠密
千発千中 雷電魔法6 嵐魔法レベル6 水魔法レベル6 属性狙撃
魔力障壁 限定強化
彼女の能力値は平均的。突出した部分は無いがネックなところも無い。固有技能はほとんどが狙撃手にぴったりなやつ。そして、藤原と同じ「限定強化」も発現している。つまりさらに強くなれる。
しかし当然だが、今の藤原の足元にも及ばないレベルだ。くぐり抜けてきた戦場に差があり過ぎたせいだな。
そしてそんな高園よりも、残りの4人はさらに劣っている。レベルは大体50前後、4人とも「限定強化」は発現していない。まあ一応死んだ大西どもよりは強いけどな。
「か、甲斐田君…!」
高園が後ろから控えめな声で俺の名を呼ぶが、スルーして王座の前まで行く。
「縁佳ちゃん!米田さん!曽根さん!中西さん!堂丸君!みんな元気そうで安心したわ!みんな久しぶり!!」
俺の代わりに藤原が満面の笑みで高園たちに喜びの挨拶をする。5人ともやや戸惑いながらも彼女との再会を喜んでいた。
「彼らとの挨拶は良いのかな?少しくらいなら待ってやっても構わないぞ」
「いいよそんなの。まずはご挨拶からだ。異世界召喚された男子高校生の、甲斐田皇雅だ」
位置が少し高い王座から国王に軽い会釈をしながら自己紹介をする。礼儀に少々欠けているところがあるせいか、貴賓席から俺を非難している気配がする。
「よく来てくれた、カイダコウガ。またの名を、冒険者オウガ」
冒険者のことは当然認知されていたか。
「私の名は、ガビル・ローガンだ!この国の国王を務めている者だ。顔を合わせるのはこれが初めましてになるな、強き少年よ」
ガビル……「ローガン」?
ばっとクィンを見る。彼女は俺の視線の意を理解したのか、照れた様子で頷く。
「そうか、知らなかったのだったな。そこにいるクィンとは血縁関係にある。祖父と孫の関係だ」
「クィンは王族だったのかー。ちょっと驚いた」
「びっくり」
アレンもクィンとガビルを交互に見ておぉーと反応している。
「い、一応王族の身分ですが、私にはかなり重いといいいますか…。普段は身分は伏せているんです…」
少しもじもじさせながら言うクィンを、ガビルは一瞬だけ孫を微笑ましく見る姿を見せたが、すぐに威厳をもった顔・態度に変える。同時に元クラスメイトどもとの挨拶を終えた藤原も俺たちのところへ戻ってくる。
「改めて……よく来てくれた!
まずは…カイダコウガ、またの名を
続いて、鬼族であるアレン・リース、またの名を
さらには、救世団の元メンバーであるフジワラミワ!そして鬼族7名!
此度は私の呼びかけに応じてくれたこと感謝している!」
ん………?またも思いがけない発言に、つい話の腰を折ってしまう。同時に元クラスメイトどもや貴賓席からもどよめきが起きる。
「冒険者Ⅹランク?俺が?」
「私もランクが上がってるの?」
「知らなかったのか?君たちの活躍は故ドラグニア王国への遠征に遣わせた兵士団の彼らから聞いていた。その内容から、この国の冒険者ギルドの権限で君たちの冒険者ランクを上げておいた。ちなみに冒険者Ⅹランクというのは、世界中の冒険者ギルド創立史上、君が初めてだ」
Ⅹランク……
「本当に、甲斐田があの有名な冒険者オウガだったんだ…!」
「甲斐田君の隣にいる赤い髪の鬼さんが、赤鬼って人…」
曽根と米田が俺とアレンを見てそう言う。二人も俺たちが冒険者の名を使っていたことを知ってたのか?
「は……?冒険者オウガ、だと?」
続いて堂丸が過剰に反応する。鳩が豆鉄砲を食ったような顔をしたかと思うと、疑念に満ちた表情をして数歩俺に近づいてくる。
「甲斐田…お前が、あの冒険者オウガだっていうのか!?」
今国王と話している最中だというのに、こいつは何話に割って入ってきてるのか。相手にしなくても良いのだが、あえて話に応じてやる。
「久しぶり…って程でもないけど、(ホントは望んでなかった)再会早々に出た言葉かそれかよ」
「どうなんだよ、答えろよ!?」
「(イラ…)そうだけど?それが何?」
不快げに答えてやると堂丸はさらに俺に詰め寄ってくる。穏やかでない気配を察した藤原が俺たちの間に入ろうとする。ついでに、後ろからは高園も少し近づいている。
「数日前、ドラグニア王国は魔人族って奴に滅ぼされたんだよな?そしてクラスのみんながモンストールのクソどもに殺されてしまった…。
あの時、あそこに!冒険者オウガもいたんだってな!?」
うるさいな。近いんだから大きな声で喋るなっての。
「それで、そのオウガは、甲斐田だってんだよな…?俺は…俺たちは、モンストールどもと魔人族はオウガが討伐して退けたって聞いてんだ」
クィンの方を見る。彼女は肯定の意を示した。
「あなたからは正体をあまり詳しくばらさないでと言われていたので…」
いやもうバレてんだけどな。
「それに…私には、彼らにあんな残酷な真実を話すことは……出来ませんでした」
クィンは悲痛そうに目をそらしながらそう告げる。そんな彼女を見た高園たち
はどういうことなのかと戸惑う。
「それよりだ!甲斐田、お前もあの時みんながいたところにいたんだよな!?」
「まあそうなるな」
「ぐ…!お前は………」
堂丸は口を少々震わせながら言葉をどうにか吐き出す。
「お前は…クラスのみんなと戦った結果、お前だけが生き残ったのか?それとも、みんなが殺されてからドラグニアに着いたっていう間に合わなかったオチだったのか?」
……………ああそうか。こいつ、とんでもない勘違いをしてやがる。
「甲斐田君!言っては………」
俺が何を言おうとしたのかを察した様子の藤原が止めようとするがその制止を振り切って、俺は堂丸に……この5人にとって残酷な真実を告げてやった。
「違うぞ堂丸。テメーは勘違いをしている。俺は敵が襲撃してきた時からずっとあそこにいた。そして俺はあいつらとは一緒に戦ってなんかいねー」
「は…?」
「俺は――クラスの連中が殺されていくのをただ見ていたんだ。見殺しにしてやったんだよ」