「!?!?」
俺は目を白黒させて驚愕する。
「「「!?!?!?」」」
傍にいるクィンと藤原と高園も俺と同じ、いやそれ以上に驚愕している。特に高園が顔を真っ赤にして俺とアレンを凝視している。クィンもかなりテンパっている。
「………ちゅ、ぢゅ………れろ………」
アレンのキスはさらに激しくなっていく。舌まで入れられる。両腕は俺の体をガッチリ掴んで放そうとしない!
(というかこれ、俺にとって人生初めてのキスなんだが…!)
あと長い!まだ続けるつもりか!アレンの顔を見る……ダメだ、正気じゃないぞこれは。目が爛爛としていて理性が飛んでるように見える。
みんなこっちを見ている。元クラスメイトどももサント兵士たちも見てるんだけど。
ここでようやく仲間の鬼たちもやってきて、俺とアレンの有り様を目にしてびっくりする。しかしびっくりしただけで、止めようとはしない。むしろ色めき立ってやがる!おい、何してんだ!女子鬼ども、お前らは何囃し立ててんだ!
「………んんッ」
つーかそろそろ止めさせよう。初めてのキスを大勢にみられるという羞恥はさすがにキツいっての!どうやってアレンを落ち着かせる?力づくで引きはがすのは何か違う。とりあえず………頭を撫でることにした。
「………!」
赤い髪を梳くように、あやすように優しく撫でてあげる。
「………ん、はぁ………」
想いが伝わったのか、アレンはようやく口を離してくれた。その口からは少しよだれが垂れていたが何だか淫靡な気持ちにさせられる。呼吸は静まったが顔は赤いままだ。
「コウガ……」
「ああ。俺だ、皇雅さんだぞ」
「………ゴメンなさい。私、いきなりこんな………」
「まあ……ビックリしたけど。落ち着いたか?」
「ん………頭撫でてくれたから…」
にやけながら近づいてくるセンとルマンドを半目で見る。どういうことだと目で詰問する。
「私たちもよくは分からないんだけど……あんな戦いの後だったから、たぶん熱が出てたんだと思う」
「そうなのか……。ということはそっちも終わったみたいだな。あのライオン野郎は死んだか?」
「ええ。私たちでアイツの最期をしっかり確認したわ」
「………死闘だったみたいだな」
「うん。途中の弱体化がなかったら、私たちが殺されてたかも。コウガがあの魔人族を殺してくれたお陰なんだよね?ありがとう」
「………ああ」
俺を解放した後も、アレンの体はまだ熱いままだった。藤原の回復魔法で熱をどうにか冷ましてもらう。
「本当に君はモテるね」
「アレンにだけだろ」
「もう、本当は分かってるくせに」
「………何のことだか。ほっとけ」
藤原に小声でそう言われてぶっきらぼうに返す。クィンと高園から視線を感じるが無視しておく。今は何言ってもめんどくさいことになりそうだし。幸い二人とも何も言ってこなかった。ただ遠くから堂丸が「どうして甲斐田が……」とか愚痴が聞こえるだけだった。
しばらくして熱が冷めた様子のアレンと改めて話をする。
「ここにいる仲間全員でガンツを殺した」
「みたいだな。完全に死んだって聞いたぞ」
「うん。バラバラに刻んで、脳を消し飛ばして、城から肉片を捨ててから、炎で消してもらったから、もうアイツはいない」
「そうか」
「今……スーロンとキシリトに獣人の民家にいるって聞いた生き残りの仲間たちを迎えに行かせてる。ここに連れてこられた生き残りの鬼族は………民家かあの城の地下にしかいなかった。それもほんのわずかしか……」
「………」
鬼たちをよく見ると、後ろにいるギルスとガーデルとソーンのさらに後ろに見知らぬ鬼が数人いる。全員ボロボロのシャツとズボンを着て汚れもついた鬼たちだ。彼らがあの要塞城の地下にいたという鬼たちだろう。
「あとは……もういない………」
俺の服がくしゃりと握られる。胸元にアレンの頭がこつんと当たる。彼女の体は微かに震えていた。
「あとは……みんな殺されていた!たくさん殺されてた!あいつらに、獣人どもに理不尽に殺されてた!
私は……助けられなかった!たくさん奪われてしまった…!助け、たかった…!でも間に合わなかった………」
「………そうだったのか」
「助けられなくてゴメン、ゴメンなさい…!」
最後の謝罪の言葉が俺に向けられたものではないとすぐに気付く。既に殺されてしまった鬼たちに向けた言葉だ。
アレンは俺の胸元に顔をうずめて涙を流して、救えなかった鬼たちにひたすら謝り続けた。
仲間の鬼たちも、クィンも藤原も、他の鬼たちもアレンにつられて悲しみに暮れていた。事情をあまり分かっていない元クラスメイトどもは戸惑い、どうしたらいいか分からないでいた。
「コウガ。私たちは………」
数分後、スーロンとキシリトたちが合流して、泣き止んだアレンは俺に透き通った声でこう宣言した――――
「 この国を……獣人族という魔族を滅ぼす 」