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「それぞれの動向」

 名も無き大陸のはるか真下…地底に存在している、魔人族の本拠地にて――――


 「ウィンダムの生体反応が、完全に消滅しました。彼も恐らくは……」

 「またカイダコウガとかいう人族の少年か…。今の人族如きが俺たち魔人族を殺すなど信じ難いことだと考えていたが、認識を改めざるを得なくなってきたな」


 円卓のテーブルにてベロニカから報告を聞いたヴェルドは不機嫌をあらわにする。


 「“序列”を与えられていなかったとはいえ、最近のウィンダムの実力は下位の“序列”を持つ同胞二人と同等あるいはそれ以上のものだったと思われます。その彼を殺してみせたカイダコウガ……。私としてはこのまま見過ごすのはいかがなものかと考えております」

 「確かにそうだな。人族のガキ如きに、これ以上魔人族を舐められるのは我慢ならない。こうなれば俺がその芽を跡形残さず消し去って―――」


 語気を荒げてそう言いかけたその時、部屋の中央に設けられていた大きなモニターが起動し、そこにザイートの顔が映し出される。


 「それはダメだと言ったはずだぞヴェルド。勝手は許さん」

 「……父上」

 「あらぁ?ザイート様、起きてたのォん?」


 部屋にいるヴェルド、ベロニカ、そしてもう一人…オカマ口調で喋る巨漢の魔人、ネルギガルド(“序列5位”)が、一斉にザイートに注目する。


 「勝手って、あんたがそれを言うのか?自分がその勝手をやったせいであんな無様を晒して戻ってきたのだろうが」

 「あぁ?まだその話を掘り起こすのかよ、もう十分謝っただろうが」

 「ったく、もうこれ以上勝手を起こしてくれるなよ?あんたがああやって突然消えられると何が起こるのかと肝を冷やすんだからな」

 「だーからもうしないっての。それに今回の地上での散策は価値あるものだったぞ?お前らが今話題にしている、屍族に近い人族のガキと会えたのだからな」

 「カイダコウガ……分裂体の父上を追い詰め、ランダ・ミノウ・ウィンダムをも殺している。奴の実力は“序列”持ちの同胞レベル相当だぞ」

 「かもな。それにあのガキが危険だってのは正しい見解だ。実際にこの目で見たが、あのガキは無限に強くなる固有技能を持っている。俺の肉や死んだランダの肉を喰らって強くなりやがった。おそらく今も強くなり続けているだろうよ」

 「………やはり今すぐ消しに向かうのがよろしいのでは?」


 ベロニカが微かな不安を含んだ顔でザイートに進言する。


 「いいや、放っておく。奴の成長を止めたいというのなら、奴に同胞を近づけさせるな。ウィンダム程度では奴を消すのは不可能だった。ならば屍族も同然だ。あいつらをけしかけても刺客にすらならない。あのガキの前では全てがただの餌として喰われるだけだ」

 「では、この後すぐにでも世界中の屍族を回収しに回らせます。ネルギガルド、頼めるかしら」

 「はぁい、お任せ!でもあたし一人だとさすがに時間がかかるかしらねぇ?」

 「なら……クロックあたりも使わせるわ。謹慎もそろそろ解ける頃でしょうし。いかがでしょうかザイート様」

 「おう、異論はない」


 ベロニカはありがとうございますとお辞儀をしてからさらに続きを話す。


 「まだ支配下においていない魔物たちもそろそろ従わせましょうか。反抗するようであれば“屍族化”も辞さない方針で良いかと」

 「この世界であたしたちに反抗する魔物なんていないと思うのだけどぉ?」

 「最上級…人族が言うにはSランクとやらの魔物は知能が高く、すぐには従属しないそうよ。ああいう頑固な連中は“屍族化”してしまった方が早いでしょうね」

 「これからしばらくは同胞と屍族、魔物どもをなるべく我らのホームにとどまらせるべきだな。カイダコウガとやらの成長を妨げる為だ。この世界を支配する準備とはいえ、少しめんどうな作業だな」


 ヴェルドが片肘をついてため息をもらす。


 「カイダちゃんって子、そんなに脅威があるって言うのぉ?そこまで用心する必要があるなんてねぇ?」

 「たとえお前たちでもただでは済まないのは確実だ。侮っていると死ぬのはお前たちになる可能性もある。それだけは全員頭に入れておけ」


 ザイートの言葉に三人とも姿勢を正して了解を示す。


 「話を変えることになり恐縮ではございますが……ザイート様、調子はいかがですか?私の魔力をたくさん込めて作ったその療養装置、カイダコウガにつけられた傷ならそろそろ治る頃だと思います。それと後遺症も残さないよう心がけてもいます」

 「ああ問題無い、傷は塞がっている。お前も今回俺の為に魔力を随分消費したことだろう。しばらく安静にしていろ」

 「はい、ありがたきお言葉……!」


 ベロニカは恍惚とした表情を浮かべて微笑む。


 「そういえば“成体”になると言っていたな。いつになりそうだ?」

 「どう頑張っても半年はかかる。だから、本格的に動くのは今から半年後だ…!」

 「ついに、始めるんだな」


 ヴェルドの口の端に笑みが浮かぶ。ベロニカもネルギガルドも愉快そうに笑う。


 「あんたがここに戻るその時こそが、世界が我ら魔人族のものになる時だ……!」

 「おう、想像しただけでも楽しくなってきただろ?」


 ザイートの口にも邪悪な笑みが浮かび、くつくつと笑う。


 「さて、俺はそろそろ寝る。ああそれと、ネルギガルド。お前が最近滅ぼした鬼族だがな、生き残りが何体かいたぞ。お前のことを激しく憎んでいたな。いずれ復讐しにくるだろうよ、用心しておけ」

 「あらら?鬼族の里をしっかり滅ぼしたはずなんだけど、逃がしてしまったのかしら。いずれにしろこれは失態ねぇ。あたしが全員ちゃんと皆殺しにしておくわね!」

 「ああ。じゃあな」



 療養部屋に設けられているモニターの通信を切ると、ザイートは療養槽の蓋をゆっくり閉じさせてまた眠りにつこうとする。


 「傷は癒えた。あとは“成体”に成るだけだ。外の準備もぬかりなく進ませている。

 半年………あと半年だ!百数年前に喫したあの忌々しい敗北を塗りつぶすには、やはり勝利という色で染める他あるまい。

 “俺”が勝利を掴む。確実にな…!この力全てを使って全てを消し去り、新たな世界を創り上げてやる。クク、クックック………!!」


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