鬼族の仮の里(元カイドウ王国)―――
「まだ見たことなかった魔人、見た目は私たちとあまり変わらない年だったかも」
「でもあいつ、間違いなくすごくヤバい魔人だぜ。俺たち全員で協力しないと勝てないかもな」
王宮の跡地にてアレン(身長が少し伸びて髪はややショートにしている)とギルス(背が10㎝近く伸びている、銀髪の吸血鬼)は、シリアスを湛えた顔で先ほど現れた魔人族の幻像を評価する。
「とりあえず、みんなと……コウガと話し合いに行こう。今からどうするかを」
「そうだな」
二人は模擬戦を切り上げて人家の地帯へと向かった。
「ついに宣戦布告をしにきましたか……。あなたはあれをどう捉えますか?」
ある民家にて、カミラ(身長はあまり変わらずだが胸の膨らみが少し増している。おさげのように二つ結びにした緑色のセミロングヘア。桜の花の刺繍が入った青と黒のローブを着ている)は、同室のベッドで寝そべっている黒髪の少年に話しかける。
「………………」
少年はふぁと欠伸を漏らしながら起き上がる。
「服従しろ、さもなくば俺たちを滅ぼす、だ?
バーカ、滅ぶのはテメーら魔人族の方だ」
魔人族を口汚く罵った少年は、不敵な笑みを浮かべたのだった――――
サント王国――――
「服従か滅亡かを選べ、か……」
同国、国王の執務室にて、ガビルは両肘を机について、組んだ手を額につけた態勢のまま沈黙している。
「おじ……ガビル国王様」
そんな彼のところに、実孫であるクィンが訪れる。彼女の顔には不安や焦燥といった感情が貼り付いていた。
「クィンか」
常に上下関係をはっきりさせている二人がこうして向き合って話すのは珍しかった。
「明日にはここを発って旧ドラグニア領地に移動するのだったな。フジワラ女史と共に行くのだったな」
「はい、今ではミワとは信頼し合える仲です。大切な友です。ところで先ほどの魔人族の…」
「ああ。恐ろしい存在じゃった。わしも60年程生きてきたが、幻だったとはいえ魔人族をこの目にしたのは初めてじゃ。あれこそがこの世界の災厄…」
「おじい様……」
自分称を「わし」にしていることにクィンはすぐに気付く。自分のことをそう言いうということは今のガビルは国王としてではなくクィンの祖父として振舞っているのだ。口調も砕けた調子になっている
「皆の前では言えないことを言わせてもらうと……わしは魔人族を怖く思っておる。化け物そのものではないかあれは…。まともに戦っても勝てる保障は無い」
普段の厳然とした国王の姿など欠片も無くなった祖父の姿を見ても、クィンは幻滅することはなかった。彼の本当の姿を前から知っているかのようだ。
「ですが、あんな邪悪な魔族に服従などあってはなりません」
「その通りだ。たとえ恐ろしく強大で邪悪な敵であろうと、わしが奴らに屈することはない。連合国軍の力を以てして、魔人族を必ず討つ…!」
ガビルの力強い宣言を聞いたクィンは嬉しそうに微笑む。
「さっきフジワラ女史のことを友と呼んでいたな。彼女のことを大切にすると良い。クィンにとってかけがえのない友を」
「はい……!」
クィンとガビルは滅多にない家族としての時間を過ごす。美羽のことを友と発言したクィンはやや照れて、顔が少し赤くなったのを隠す。
「三日後の大戦……もし命が危なくなれば戦場を捨ててでもここへ戻ってくるのだぞ?死んでしまえばそこで全て終わりだ」
「はい……」
やや間を空けてしまうも、クィンはその場で敬礼ポーズをとって了解の返事をした。
「おじい様も前に出過ぎて無茶をしないで下さいね?おじい様は連合国軍の総大将なのですから。おじい様が倒れれば士気に大きな影響が出ますから」
「ああ、重々心得ている。
クィン……今ではお前しかいなくなったたった一人の家族よ。必ず、生きてここに帰って来るのだぞ!」
「...!!はい、必ず、おじい様!!」
ガビルと軽い抱擁を交わしたクィンは、生きてここに帰って来ると誓った。約5年前に起こったモンストールの大規模な侵攻により実の両親を亡くしたクィンにとってガビルだけがたった一人の家族だ。
少し涙を流しながらも家族の時間を存分に堪能するのだった。
一方、王宮内の談話室にて、美羽と縁佳、米田、曽根、堂丸、中西…つまりは異世界召喚組が揃って話し合っていた。
「本当に魔人族が攻めてくるのね……魔人族ってあんなに大きなものなの?」
「いいえ、あれはただの幻像。本物は私たちとあまり変わらない人間の姿をしているわ」
「けれど、一目見ただけで私たちとはかけ離れた、とても禍々しくて不吉さを感じさせるオーラとかが出ている……ですよね?」
「獣人族の国にいた奴を見た時は近づくことすらできなかったぜ。それだけヤバいってことだ、魔人族ってのは」
「…………(こくり)」
「ち、ちょっと……魔人族ってそんなにヤバい敵なの……?」
この中で唯一魔人族と遭遇したことがない中西(ロングの黒髪、眼鏡をかけている、緑色の僧服を着ている)は、美羽たちの意見を聞いて身を震わせる。
「私だけ……魔物とモンストールと戦うだけじゃ、ダメかな?藤原先生、どう思います?」
「…………もちろん無理強いはしないわ。ミーシャ様やガビル国王様には私が言っておくわ。でも私としては、ここにいるクラスのみんなの力になって欲しいと思うわ。次の戦いは……みんなで力を合わせないと勝てない、そんな予感がするの」
美羽は中西、次いで生徒全員を順にジッと見つめてそう告げる。縁佳たちは美羽の言葉を真剣に受け止めて頷く。
「晴美は私の盾で守ってみせるわ。だから私が傷ついたら晴美の“回復”で私を癒してね」
中西の隣に座っている曽根(少し短くした茶色のショートヘア、甲冑を纏ったやや重装備)は中西の肩に手をおいてそう言ってあげた。中西は小さくありがとうと呟く。
「うん、みんな揃って戦えばきっと大丈夫!三日後は私だけ別の大陸へ行っちゃうけど、5人揃っていれば負けない!」
美羽は明るい声で生徒たちを励ました。縁佳はそんな美羽に感謝して微笑んだ。
(魔人族と戦うのは怖いけれど、この世界を守る為に、クラスのみんなと美羽先生を死なせない為に、私も精一杯戦わないと!)
縁佳は心の中でそう決意する。それからある少年のことを気に掛ける。
(甲斐田君、あなたもどこかで魔人族と戦うんだよね?私たちのような大勢の仲間とじゃなくて、旅の仲間たちだけで……。
また会えるよね?いずれくる戦いの中でも、戦いが終わった後でも良いから、またあなたと会いたいです……!)