名も無き陸地のはるか真下……瘴気が充満している地底。そこには先ほど世界中に宣戦布告をした魔人族の本拠地がある。
そこにはこの世界に存在する全ての魔人族が集結していた。その数は50人。さらにその一人一人が村や町、小国を簡単に滅ぼす力を持っている。中には世界そのものを脅かす力を持つ者さえいる。
そんな魔人族が今こうして同じ場所に集っている理由は1つ。彼らをまとめている一族の長による呼び出しを受けたからだ。
「さっきの宣戦布告、中々様になっていたな、ヴェルド。ベロニカも、お前の魔術で良い雰囲気を出せていたぞ」
「ふん、別に仰々しく演出するつもりはなかったのだがな。まあ下等な人族や魔族どもには十分な脅しだったのは間違いないだろう」
男に褒められた見た目が少年の魔人……ヴェルドは、少々ぶっきらぼうに応じつつもどこか愉快そうな笑みを浮かべている。
「お気に召していただけたようで、私は大変嬉しく思います」
紫色のセミショートヘア、褐色肌の女性魔人……ベロニカは、恍惚とした表情をしている。
「いよいよって感じがますます強まってきたわねぇ☆ あたしさっきから血が疼いて仕方ないわぁ~~!あなただってそうでしょう?」
オカマ口調で喋る逆立った銀髪の巨漢の魔人……ネルギガルドは隣にいる大男の魔人に話しかける。
「ククク、俺もそんなところだ。この体が敵の血を、敵の悲鳴を、敵の死を欲している……!」
魔人族のトップ……ザイートは、以前より大きくゴツくなった体躯をほぐしたり赤黒い色の髪を軽く整えたりしながらご機嫌な笑い声を上げる。
「たった半年…そう思っていたが、随分長く感じさせられた半年間だった。それだけにこの時を待ちわびて焦がれていた!
今は最高に気分が良い。これから今のクソッタレな世界に滅亡をもたらして復讐を、そしてこの世界を俺たち魔人族のものに塗り替えることが実現されようとしてるからだ!」
ザイートが拳を突き上げると他の魔人たちが歓喜の声を上げて拍手する。圧倒的な力とカリスマ性を持つ族長だからこそ誰もがザイートを慕っている。彼らの士気は今最高潮に達している。
「俺の準備は完全に整った。俺の準備を手伝ってくれたベロニカの魔力も全快している。動くなら今だ。ヴェルド宣言させた通り、今から三日後、俺たちは地上に出て今のクソな世界を滅ぼす」
ザイートのスピーチを全ての魔人が注目し聴いている。
「手始めにどこでもいい、村や里をを滅ぼせ。地上に俺たちの拠点をつくっておきた。各“序列”持ちの同胞が務めろ。アルマー大陸をヴェルドとリュドル、ベーサ大陸をジース、オリバー大陸をネルギガルド、そしてデルス大陸にはクロックが向かえ。最初は人族の大国や魔族の国から離れたところから襲え。奴らに悟られるな」
ザイートの指示に各「序列」持ちの魔人たちが了解の返事をする。
「とはいっても村や里を襲うタイミングは、人族の連合国軍とやらと魔族どもの返事を聞いてからにしよう。先の宣戦布告では服従か滅亡かの選択肢を与えてやったのだからな。奴らが服従を拒否した場合は一斉に襲え。
人族の大国と魔族の国には他の同胞たちが先に向かえ。お前たちが奴らの答えを聞き、服従を選ばないのであればすぐに皆殺しを始めろ」
「序列」を持たない魔人たちが一斉に沸き上がる。久々に力を存分に振るえることが嬉しいようだ。
「で、“序列”持ちの同胞たちだが…。クロック、人族の大国でいちばん戦力が低そうなのが、イード王国だったよな?」
「―――はい。この半年間ずっと人族の連合国軍を観察していた結果分かったのが、イード王国がいちばん脆いかと。逆にもっとも戦力が厚い人族の国は…サント王国かと。とはいっても所詮は人族。我々を脅かすレベルの戦士など存在しないでしょう」
ザイートに振られてそう答えたのは、「序列4位」のクロック。灰色の髪が肩に届く程の長髪で細身な男だ。
「連合国軍と相手するにあたって真っ先に崩すなら、イード王国だ。そこには……俺が行こう。この体をほぐすにはちょうどいいだろう」
ザイートは邪悪に笑ってそう宣言する。
「魔族についてだが……これもクロックの情報曰く、手こずりそうな相手はやっぱり竜人族だそうだな。その次が亜人族。そして………鬼族の残党、か」
ザイートがネルギガルドを睨む。
「んもぉ、鬼族を絶滅させなかったのはごめんなさいって言ったじゃなぁい!!何ならあたしが鬼族の残党を滅ぼしにいきましょうか?」
「いや、今の鬼族など少数一味に過ぎない。奴らを滅ぼすのは連合国軍と魔族の国を全て滅ぼした後で良い。お前は亜人族を滅ぼせ。先に遣わせる同胞の合図を聞いてから動け。お前なら亜人族相手だろうが一人でも余裕だろう?」
「それなら任せてちょうだあい☆」
ネルギガルドは面白そうに笑って命令を受理する。ザイートは続いてヴェルドに指示を述べる。
「ヴェルド、先遣の同胞たちの合図を受けた後、竜人族の国...サラマンドラ王国へ向かえ。奴らはかつての俺たちにとっては手強いものだったが、今のお前なら容易いだろう。任せるぞ」
「引き受けた...」
快諾したヴェルドに満足そうに頷くと、ベロニカに目を向ける。