ヴェルドと名乗った魔人族による宣戦布告から三日後、鬼族の仮里にて俺はいつもの朝を迎える。ただいつもと違うところを挙げるとすれば、一緒に暮らしている鬼たちの様子と彼らから醸し出されている空気だ。心なしか天候すらもいつもと違って見える。
みんながいつもと様子が違う理由は一つ、今日から魔人族の軍勢がこの世界を滅ぼすべく動き出すからだ。先日の宣戦布告を真に受けるのならば、今日中に魔人族・モンストールが世界の各地を襲いにくる。この里も例外に漏れず、いずれは奴らが侵略しに来るだろう。
故にアレンをはじめとする鬼族の戦士たちは戦闘の準備を既に整えている。かつて共に旅してきた仲間たちは特に気合が入っている。
この里の仮のリーダーであるアレン。サラマンドラ王国で出会ったセン(堕鬼種。さらさらなピンク色の長い髪、すらりとした体型だ)、ガーデル(センと同じ種・ピンク色のセミロングヘア、センと同じ腕と脚に防護具を装着している)、ギルス、ルマンド(艶やかな長い黒髪、センと同じくらいモデル体型の美人鬼。“神通力”が使える神鬼種)。
オリバー大陸で出会ったスーロン(灰色の長い髪でモデル体型の長身。イケメン美女の鬼人種)、キシリト(薄めのピンク髪、ガタイが良くデカいが魔法攻撃をメインとする吸血鬼種)、ソーン(キシリトと同じ色のショートヘア。この中では最年少で背も低いが戦闘の才能は誰にも負けない。近接戦もできるよう軽装にしている)。
この半年間でこの鬼たちは特に強くなった。一人一人が単独でSランクを討伐できるくらいの戦闘力を手にしている。
旅の仲間たち以外の鬼たちも粒揃いだ。その数は半年前から増えている。修行しながらも生き残りを捜して回った結果、さらに30人近くもの鬼を保護することができた。今この里には60人程度の鬼族がいる。その半分以上が戦える者だ。これなら敵が襲撃してきても苦戦はあまりない。
それに兵は彼ら以外にもまだたくさんあるからな……。
「さて、先日空に現れた魔人族の馬鹿は服従しなければ俺たちを滅ぼすとか言ってやがった。先に言っておくけど俺は魔人族に服従なんてしない。むしろ俺が奴らを滅ぼしてやろうと考えている。
お前たちは……聞くまでもないみたいだ」
アレンたちはもちろん、他の鬼たちも魔人族に服従しようなんてことは考えていない様子だ。みんなここを守るべく魔人族どもと戦う意思を見せてくれている。
「俺もみんなも自分の為に戦おう。俺もしばらくは鬼族としてみんなと戦うつもりだ。魔人族どもを返り討ちにしてやろう」
「うん、戦おう。ここを、鬼族を守るんだ…!」
俺に続いてアレンも戦う意志を見せる。鬼のみんなもアレン賛同して士気を高めた。
「皇雅、みんなで攻めに出ますか?それとも里から出ず待機して、迎撃しますか?」
傍にいるカミラに問いかけられて俺は思案する。
「うーん……。戦略には疎いんだよなぁ。だからそういうのに詳しいカミラ、お前ならどう動くべき?」
「そうですね……私ならここはやっぱり―――迎撃するのが良いかと」
そこから戦略を話すカミラに誰もが注目し、彼女の話をしっかりと聴いた。
「―――という配置で行きましょう。分からないところがあったら私に聞いて下さい」
カミラの戦略の解説は分かりやすく、俺もすぐになるほどと思い、理解も納得もできた。彼女の戦略通りに動けば想定外の事態が起ころうとも対処できる。
「―――じゃあ私がカミラの傍にずっとついているね。安心して敵の姿を見ていいからね」
「はい、よろしくお願いします、ルマンド。私のこの“目”を発動するには敵の姿をきちんと視認しなければなりませんから」
ルマンドに頷きながらカミラは青く輝く「目」を見せる。
固有技能「叡智の眼」 半年前ドラグニアで死んだ元クラスメイト・鈴木保子も発現していた特別な技能だ。その詳細は俺の「鑑定」と似ている。どんな攻撃を得意とするか、どういう立ち回りをするか、そして何が弱点なのかを全て見抜いて把握することができる。
頭が良く軍略家として優れているカミラにぴったりな固有技能だ。加えて彼女には「未来完全予測」もある。モンストール程度の化け物ども相手なら全てを予測し把握して対処することができる。現代世界でいう諸葛孔明のような人物だ。
「前衛は私とアレンね。二人で蹴散らしてやりましょ!」
「うん」
スーロンの言葉にアレンはやる気十分に頷く。里はかつてのカイドウ王国のように里一周を巨大な柵(俺とスーロンの大地魔法で造った頑丈な柵だ)で囲い、入れるところは小さな入口だけだ。その一直線上から離れたところ…前衛であるアレンとスーロンを始めとする戦士を20人近く配置。
そのすぐ後ろには準前衛としてソーンを中心とした戦士を10人程配置することにしている。
中衛……里から300m程離れたところにある砦(俺が創った)には幅広い戦闘を可能とする戦士…ギルスとキシリト、そしてガーデルなどを配置させている。