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「漢の最後の一太刀」

 ―――シュタッ!(着地音)


 「………!?」

 「あらァ??」


 次にワープした先はハーベスタン王国だ。そして戦場となっている場所を特定してから瞬時にそこへ移動する。

 ここの戦場は旧ドラグニアやサントなどと比べて凄惨さが増している。ハーベスタンの兵士や冒険者、パルケの亜人兵士たちの屍があちこちにたくさん転がっている。隣にいる亜人族の王…ディウルも虫の息だ。

 それを一人でやったのが――


 「魔人族……テメーがアレンの家族を殺し、鬼族の里を滅ぼしたネルギガルドか」

 「アタシの名前を知ってるの?そういうアナタは、異世界から来た屍族もどきのイレギュラー、カイダコウガちゃんね!“序列5位”のネルギガルドよ、よろしくねン☆」


 気持ち悪いテンションのオカマ口調で俺に馴れ馴れしく話しかけてくるネルギガルド。それにしてもこいつが「序列5位」だと―――?



ネルギガルド 137才 魔人族 レベル500

職業 ―

体力 10080000

攻撃 10315000 

防御 9105000

魔力 3090000

魔防 2080000

速さ 3108990

固有技能 怪力 絶牢壁 瞬神速 気配感知 夜目 瘴気耐性 魔人族武術皆伝 

武芸百般 超生命体力 暗黒魔法レベル9 魔力光線(暗黒) 限定進化



 体力と攻撃力と防御力が突出し過ぎている。間違いなく近接戦に特化した戦士なんだろう。それよりも……


 「テメーみたいなレベルの奴が“5位”で収まるタマかよ。実力はもっと上だな」

 「あ~~ら、そんなことまでお見通しなの?まぁアタシにとって序列は特に興味無いものなのよねェ。楽しければ何だってイイのだから。

 こうやってたくさんの人の血を見て、殺せることこそが、最高の悦楽なのだから!」


 ニタァ…と悪役を絵に描いたような面を見せてくる。こんな奴がアレンの仇だってのか。こいつに何もされたわけじゃねーけど、何か不快感がこみ上げてくる。


 「まあいいや。俺が来た以上、テメーの侵攻はここまでだ。まだ暴れるってんなら今ここでぶっ殺す」

 「あらァ?アタシがここで今退いたら見逃してやるって言ってるようにも聞こえたのだけどォ?」

 「………テメーはアレンの、鬼族の仇だ。ここでテメーを殺しても、あいつらは浮かばれない。テメーを殺す奴に相応しいのは俺じゃねー、彼女たちだ」

 「へぇ~~~?あの滅び損ねた鬼ども、アタシに復讐しようとしてるの?面白いじゃなァい!だったら今すぐあのコたちがいるところに出向いてあげようかしら?」


 俺を見つめて煽るように言ってくるが俺は平然とした態度を通す。


 「やってみろよ。ただし俺が傍にいることを忘れるな」


 脳のリミッターを少し解除して魔力を熾してみせる。威嚇または脅しと捉えたかどうかは知らないがネルギガルドは微かに喉を鳴らした。


 「…………まあいいわ。ここは退くに限るわね。ザイート様の命令でハーベスタンと亜人族を滅ぼすつもりで来たのだけど、アナタと真っ向からぶつかったらアタシが死ぬのは明らかだろうしね……。

 アタシの死に場所はこんなところじゃないもの」


 さっきまでのふざけた雰囲気を潜ませて静かに喋る。退散するのは本当そうだな。



 「…………待て…!このまま、行かせてなるもの、か……!!」


 後ろから絞るような声がする。振り向くと腹に足サイズの風穴を空けられて致命傷を負った状態のダンクの姿があった。その手で大剣をしっかり握っている。


 「…………!」

 「ダンク……!?」


 俺もディウルも驚愕のあまり目を見開く。どう見ても死にそうだ、これ以上動くのは死をさらに早めるだけだ。しかしそれを指摘することは俺にはできなかった。


 (あいつ、もう死ぬって分かってて………)


 ダンクの目は全てを覚悟したもの、死を悟ったものだった。そしてこれから彼が何をするのかも察しがついた。


 「最後に一矢、報わずして、逝けるものか……!!」


 大地を震わせるような声を出し、大剣を構える。同時に彼の全身から膨大な魔力が発生する。あれは持てる全ての魔力を熾している。


 (この一撃に、全てを懸けるつもりだ……たとえその命が潰えようとも――)


 「ダンク………」


 ディウルも察したのだろう、ダンクを止めることはしなかった。拳を握りしめて唇から血が出るくらいに噛み締めている。


 「ふーん?まだ生きていたのね。何かするみたいだけどアタシはもう帰るから、そんな無駄なこと止めて早く倒れなさいよ」


 決死のダンクを目にしてもネルギガルドは冷めた様子で相手しようとしない。それどころかこの場から去ろうとしてやがる。だから俺は――


 ガッッ 「――っ!?ち、ちょっと何のつもり!?」

 「死を覚悟した漢の最後の一撃なんだ。くらってやれよ」


 ネルギガルドを羽交い締めにしてその場に止まらせた。重力魔法を全開に発動して地面に縫い付けてやる。


 「ダンク、俺のことは気にするな!ぶつけてやれ!!」

 「………………恩に着る」


 ダンクは一瞬小さく笑った後、炎のように纏った魔力を輝かせながら、ネルギガルドに向かって一直線に駆ける。


 「はぁあああああああああああッッッ」


 轟音のような声を出しながら、振り上げていた大剣を斜めに振り下ろした――


 ズバン!!「ぎゃあああ!?」


 胴を深く斬られたネルギガルドは短い絶叫をあげるが、刃が命にまで届くことはなかった。解放してやると怒りの形相で、ダンクに拳を振り下ろそうとする。それを俺がギリギリのところで止めた。


 「させるかよ」

 「っ!!何よ、アタシとは戦わないんじゃなかったの!?」

 「そうだ。けどこいつに止めは刺させない。十分暴れただろ、見逃してやるからさっさと帰りやがれ」


 ネルギガルドの髪が天を衝くかのように逆立ち、その存在感が膨れ上がるのを感じる。これは怒りの感情が闘争として具現化している……?


 「こ………の………ッ」


 今にも殺しにかかりそうだったが、深呼吸した後に怒気を鎮めた。


 「…………この屈辱、いずれ倍にして返してあげるわ」


 それだけ言い残すとネルギガルドは地を跳んで姿を消していった。


 「魔人族は退散した。モンストールと魔物ももう全滅しかけているようだな。ハーベスタンの兵士団が主だって殲滅しにいっている」


 戦場の状況をざっと把握してディウルに伝えてやるが彼から返答はなかった。ぐったりと倒れて血を流し続けているダンクを抱きとめている。俺も彼らのところに行くことにする。


 「ぐ………俺は今まで意識を……。っ、叔父殿!?」


 意識を取り戻したアンスリールはダンクの姿を目にするなり血相変えてそこへ行く。


 「…………アンスリールか。無事で、何よりだ………」

 「何を、言って………あなたが今にも、こんな…………っ」


 ダンクの容態を見て動揺する。大声で衛生兵を呼ぶがディウルが待ったをかける。


 「ダンクはもう助からない。彼の命と引き換えに私とアンスリールの命、そして我が王国は護られたのだ……」


 そう言うディウルの目には涙が溜まっている。流すまいと必死に堪えている。


 「叔父、殿…」

 「アンスリール、亜人族の未来、お前に託す……。王国の未来、を……より良くするの、だぞ………」


 ダンクの言葉を聞いたアンスリールは言葉を発する代わりに敬礼をとることで了解の意を示した。


 「義兄殿……最後の最後に、こうして亜人族……王国の為にこの命を懸けられたこと、とても嬉しく思う……。義兄殿たちの為に戦えたこと、生涯一の誇りだ」

 「ああ、ああ……!お前がしてきたこと、全て無駄ではなかったぞ!!無駄にしてなるものか!!お前の意志、私とアンスリールが必ず継いでみせる!!」


 ディウルの言葉を聞いたダンクに優しい笑みが浮かんだ。そして最後に俺に顔を向ける。


 「………間に合わなくてすまなかった。もっと早く駆けつけていられれば、あんたがこうなることは……」

 「言うな…。お前は……他の戦場にも駆けつけて、仲間たちを……救ったのだろう?ならば、良し……だ

 それに、さっきの足止め……本当に感謝、している」


 血を吐きながらもダンクは俺に礼を言った。


 「カイダ、コウガ………魔人族に、必ず………か…て……………………」


 俺に「魔人族に勝て」と言ったのを最期に、「亜人族最強の戦士」ダンクは息を引き取った。


 「…………あんたの死、俺も無駄にはしないさ」


 ダンクの遺体に俺は敬意を込めた一礼をする。声を押し殺して震えるディウルとアンスリールを背に、俺は戦場を後にする。


 「カイダコウガ、私からも礼を言わせてくれ。ダンクに戦士としての最期のお膳立てをしてくれたことを……」


 背中越しからかけられたディウルの声に短く返答した後、俺はオリバー大陸を発った。


 「次へ、行こう」


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