次は戻って再びベーサ大陸。行き先はイード王国なのだが………
「ここは、やっぱり手遅れだったか」
俺がかつて旅で訪れた時とは変わり果てたものとなっていた。国を象徴する王宮は崩落していて、目に映るもの全てが滅んでいた。
イード王国は滅亡していた……。
「この国では良い思い出なんか全然無かったけれど…」
この国であったイベントと言えば、初めて指名での依頼クエストがきたこと、それを成功したことでSランク冒険者へ昇格したこと、そしてそのことにやっかみをふっかけて俺を貶してきたクソ冒険者ども…。確かあのクズどもに痛い目見させてやろうとしたらクィンがうるさく止めてきたんだっけ。あの時のクィンにも正直イラってきたな。ああ他には、元の世界にもあった料理がたくさんあって堪能したんだったな。食文化に関してはこの国がいちばんお気に入りだった。
しかしああいった料理はここではもう二度と堪能することはできなくなった…。民家も露店もギルドの建物もその他色んな建物も、そして人も……何もかもが無残に壊され無くなっていた。
滅んだ国をぐるっと回った後、この国の近くで勃発していたであろう戦場地に移動する。そこは国地よりもさらに悲惨な光景が広がっていた。万を超えているであろう人の死が、転がっていた。さらにはモンストールや魔物の残党がまだうろついていて、兵士や冒険者の死体を喰いあさっている。
とりあえず広範囲の魔法攻撃を放ってモンストールと魔物どもを全滅させてからこの大戦の爪痕を目に焼き付けておく。
「これが、戦争なのか」
現代世界での戦争はこれほどまでの破壊痕はなかったと思うが、その悲惨さはここと同じようなものだったのだろう。俺は少し背が冷たくなる錯覚を覚えた。
「あの時絡んできたクソ冒険者もこの中にいるのかもな。それ以外のどうでもいい奴らも。正直死んでも良い連中だとは思ってたけど、こんな無惨な目に遭えとまでは思ってなかった」
かつてムカつかされたクソ冒険者どもがこの大戦で死んでいようと、ざまあなんて気持ちは湧いてこなかった。
「これは………魔力の残滓」
しばらく歩いていると所々に散らばっている黒い魔力の残滓を発見する。それを手に取った瞬間、それからどす黒くて邪悪な気配を読み取ってしまう。
さっき遭遇したジースやネルギガルドを凌駕する程のこの魔力………その主は奴しかいない…!
「そうか、これをやったのはザイートか」
イード王国の戦場に奴が来て、ここの連合国軍を全滅させてからイード王国をも滅ぼしたんだ。奴たった一人で…。なぜそんなことを?恐らくだが………
「俺と同じ、試運転ってところか」
俺も今日は鬼族の仮里にて雑魚敵を相手に修行の成果を試していたところがあった。力をしっかり馴染ませる為に。ザイートの奴も俺と同じように、この地にいる連合国軍を相手にウォーミングアップついでに大国一つを滅ぼしやがったんだ。
「奴は、もう自分の拠点地に帰ったってわけか。俺との戦いは明日以降にってか」
手にしていた魔力の残滓を握りしめて消し飛ばす。こうやって魔力をわざと残していたのは、俺に向けたメッセージでもあったんだ。
(次はお前を滅ぼしにいく。待っていろ――)
「………上等だ。テメーがそうやって俺の邪魔をしようってんなら、受けて立ってやる……!」
ザイートとの再戦を改めて決意する。そしてイード王国に用は無くなった以上、さっさと次の戦場地へ移動する。
「もっとも、あそこにはみんなが駆けつけているから大丈夫だとは思うけど――」