そいつにはかつて一度敗北している。その後も互角に戦ったかと思いきや、その時のそいつはベストコンディションではなく本気を出せない状態だったのだ。半年前の俺はそいつには全く敵わなかったんだ……。
俺にとっての
身長が2mくらいの高さになっていて、頭は黒が混じった紫色の髪に尖った耳、口からは発達した犬歯が見える。目はあの時と同じ...いやあれ以上に鋭く威厳がある目だ。獰猛な猛禽類を思わせる。そして無駄肉が全て取り除かれたような逆三角形の筋肉質体躯を、特攻服を思わせる黒い上着で覆っている。
外見で分かる、以前よりも数段強い…と。そりゃ当然だ、あの時のこいつは本体ではなく分裂体として現れたのだから。今のこいつこそが本来の姿であり、隠していた本当の力も出すつもりでいる...!
「俺の留守中に随分勝手やってくれたなぁ?まぁ朝一でここを抜け出した俺にも非があるわけだが。“序列”持ちの同胞が二人やられ、ベロニカが追い詰められている……。同胞も僅かしか残っていないし屍族は全滅、か。
ったく……こちらの戦力をかなり減らしてくれたな?人族と魔族を根絶やしにしようって時に割り込みやがって。お前は俺たち魔人族と連合国軍・魔族との戦争に乱入したということを、自覚しているのか?」
「世界各地でテメーらが連合国軍と竜人族と亜人族、さらには俺の仲間たち…鬼族にも大戦を仕掛けてるのはよく分かってるぜ。
連合国軍と魔人族と竜人族・亜人族、そしてこの俺。これはもはや
「4強...?よもやお前自身がこの戦争における、一つの勢力と名乗るつもりか?ククク......しばらく見ないうちにかなり傲慢になってんじゃねーか若造が...!なに粋がってるんだお前」
「テメーこそ、雑魚どもを集めて威張りくさってるサル山大将が、デカい面してんじゃねーぞ?あの時の俺と、思ってんじゃねーぞ...!!」
ゴゴゴゴゴゴゴ......!!
「...っ!!」
軽口叩き合いながら互いに殺気をぶつけ合う。それだけで周囲の空気が重苦しく、割けそうになっていた。そのピリピリと殺伐とした空気にあてられたベロニカが、完全に萎縮してしまっている。それを見たザイートが先に殺気を解いて、彼女に声をかける。
「ベロニカ、今すぐここから去れ。それとヴェルドたちにもこのことを伝えておけ。俺はこれからこいつと殺し合う」
「ザイート様.........どうか勝利を」
ザイートの意図をすぐに察したベロニカは、ザイートの勝利を祈るとすぐその場から消えた。彼女の気配が完全に消えたことを確認してから、俺に向き直って再びあのピリつく殺気を放ってきた。
「今までどこへ行ってたんだ?テメーと最初から戦うつもりで朝からここに突撃訪問したのに、まさかの不在で拍子抜けしたんだぞこっちは」
「それは悪いことをしたなぁ。何、ラインハルツ王国に行っててな。そしたらお前と同じ異世界召喚の人族がいたから大層驚かされた!しかもかつて俺たちを一敗地に塗れさせた昔のあの連中の一人だったしなぁ!」
「八俣倭か……まさかあの男を殺してきたのか?」
「いいや?奴は後にしておいた。まずはお前を滅ぼしてからだ
……ふむ。お前の戦気、以前とは比べ物にならない程上がっているな。油断ならないくらいに。といっても油断しなければ今のお前でも、この“成体”化した俺にはまだ及ぶことはないがな。あれから今日までの間、お前はろくにレベルを上げられなかったんじゃねーか?」
「ああその通りだ。この半年間モンストールも魔物も…Sランクの魔物である魔獣すらにもほとんど遭遇しなかったぜ。テメーの作戦だな?やられたよ全く...。けど別に大きな損失じゃないけどな」
「そうなのか?はぁ……さて。こうして喋るのも時間の無駄だ。そろそろ始めるか。俺を殺す為にお前はわざわざやって来たのだろう?人族と魔族の全てを滅ぼす前に、お前をここで完全に潰してやろう...!」
その場で軽くジャンプしながら、ザイートがさらに殺気を強める。この後の奴の行動は予測済みだ。まずは駆けて突っ込んでくる。そしてあの得意な鉤爪による武技を放ってくる――。
「
「そう、くるよなぁ!!」
ガキン――!
読み通りのタイミングで、奴のどす黒いスパークが走った爪がとんでくるのに対し、こっちは紅蓮の炎を纏った日本刀で応戦する。雷と炎が迸り、ギリギリと押し合って数秒膠着する。
流れを変えたのは俺。空いた右腕を使って、自分の刀ごと奴の腕へ渾身のアッパーを放った。
自分の左手ごと吹き飛ばし、そのままザイートの爪も破壊してやった。
体勢を立て直すべく後ずさるザイートだが、俺はむしろ前で突っ込み、もう完治した左手から光の「魔力光線」を放った。
「何!?もう回復して――」
ザイートの驚きの感想は最後まで聞くことなく、光線の中に消えていった。
「...光が収束したその場には、ザイートだった残り滓がそこに――」
「そんなものはねーよ馬鹿。勝手に殺すな」
「やっぱり?」
「
“
“
“
物理攻撃で何回か応戦したのち、今度は互いに魔法攻撃で応戦した。その次は武器を用いて斬り合い、さらにその次は撃って燃やしてなどなど...しばらくそういったじゃれ合いを続けた...。そうじゃれ合い。
これはただの小手調べ、全く本気じゃない。何故なら奴も本気じゃないからだ。
「テメー、まだウォーミングアップのつもりか?俺の力を試してる素振りしやがって...。そのせいでこっちも本気出せてねーんだよ」
「まぁな、様子見だ。にしても驚いたよ。お前、あの妙な強化をしないままで今の動きをやって見せたな?想像していたよりも強くなって――「リミッター10000%解除」――ぁ?」
ザイートが喋っている途中、何の捻りも無いただの左ストレートを奴のどてっ腹にヒットさせた。