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「最後の切り札」

 「コウガ、さん………?」


 サント王国の本部部屋にいるミーシャは、水晶玉に映っている光景を呆然と見つめていた。

 先程まで繰り広げられていた皇雅とザイートによる天災規模の合戦に巻き込まれないよう遠隔操作中の水晶玉を必死に遠ざけながらも彼らの戦いを見ていた(その最中も連合国軍への指示もちゃんと行っていた)。

 その合戦の終わりもその目で見ていた。皇雅の敗北という形で……


 「コウガさん、コウガさん!?そんな………っ」


 ザイートの攻撃で皇雅の体がバラバラになって消滅していくところまで見てしまったミーシャは冷静さを欠いてしまった。彼女の狼狽を目にした連合国の指令役の兵士たちは慌てて連合国軍に彼女の声が漏れないよう通信をオフにさせる。


 「ごめんなさい、不注意が過ぎました」


 謝罪するミーシャを兵士たちは不安そうに見ている。ミーシャの様子からして皇雅がザイートに敗れたのではと彼らの中で知れ渡ってしまった。


 「このことは今必死に戦ってくれている連合国軍に決して知らせてはなりません。士気や戦意に大きく影響することになりますから。

 それに、彼がまだ終わったわけでもありませんから」


 それだけ言ってからミーシャは再び一人になる。サント王国やハーベスタン王国付近の戦場にいる連合国軍に新たな軍略を伝える一方で、皇雅がいる戦場に目を向ける。水晶玉を飛ばして皇雅の姿を必死に捜す。


 「コウガさん、コウガさん………!!」


 水晶玉に向かって皇雅を何度も呼び掛ける。皇雅の名を何度も叫ぶ。その声が彼に届いて彼が出てきてくれるなら自身の喉を犠牲にしたって構わない。

 その覚悟を負ったミーシャは、目に涙を溜めながらも皇雅を呼び続けた―――



                   *


 「がふっ!ごあァっ...!!」


 ザイートの全身から血が噴き出る。血反吐をまき散らしながらその場で倒れかける。視界が真っ赤になり頭からも大量に血が出ている。

 皇雅とのカウンター返し合戦の末、ザイートがそのデスマッチに勝利した。


 (血を流し過ぎた...意識が朦朧としてきた......これはマズい。早く、回復、を...)


 カウンター返し合戦の中ザイートは固有技能「超高速再生」を発動し続けていた。でなければ激痛のあまりに集中が途切れて、打撃の受け流しに失敗して相手のカウンター技で吹っ飛ぶか、負荷で自壊するかのどちらかになっていたからだ。

 回復技を発動し続けていたお陰でどうにか皇雅に勝つことが出来たものの、カウンターのエネルギー全てをはね返すことは出来なかった。ザイートは今も全身が千切れそうな激痛に襲われて意識も何度も失いかけている。ダメージが大きい部位から回復しているものの治りが遅い。全身がかなり破損しているものだから再生が間に合ていない。


 「早く……奴を跡形残らず消すか、細切れにしたまま力が入らないよう拘束して封じ込めて、深い海底か地底のどこかに埋めて永遠に封印してやらねば、な」


 体を動かす度に全身が軋む。その原因はさっきのダメージ以外にもある。


 「“限定進化”の負荷も大きい……少しはしゃぎ過ぎたな。徐々に体が動かせるようになってはいるが問題の解決にはなっていない」


 ザイートの本気の力は彼自身を壊しかねないレベルのものであり、長時間の力の全解放は命を削ると同義である。


 「カイダはどこだ?さっきから気配がしない。もしかしてさっきの一撃で再生できないまま消滅したのか?それならば僥倖だが、楽観し過ぎだろうな」


 「―――!――――!!」


 遠くから少女らしき声が聞こえる。取るに足らないものと判断して皇雅を捜し続ける。


 「ちっ………めんどうだ。もうこの一帯を消し飛ばせば良いか」


 皇雅が見つからないことに業を煮やしたザイートは空を飛んで、陸地を睥睨してそこに照準を合わせる。

 しかしそこに―――


 ドスッッ 「グッ………!?狙撃されただと!?」


 ザイートの心臓の背面部分を見えない何かが撃ち抜いた感触がした。事実彼の背から血が溢れ出ている。


 「気配はどこからだ…………クソッ、感じ取れない、鬱陶しい……!」


 不快そうに顔をしかめるザイートは今度は狙撃の出所を捜し始める。その間彼の周囲八方から見えない狙撃が次々襲い掛かる。


 「この……隠れたところからこざかしい、ウザいんだよっっ」


 ザイートは全身から魔力の波動を飛ばし続けて、狙撃全てを落としてみせる。


 「最後にきた狙撃の方角は………そこかァ」


 波動に最後に触れた狙撃の方向を睨む。微かだがザイートが滅ぼしたイード王国の跡地が見える。ここがベーサ大陸であることにようやく気付く。


 「どこの誰だか知らんゴミが、俺にこんな下らない攻撃をしてんじゃねーぞ……!」


 そう言ってから狙撃犯を殺しにいこうとしたその時―――




 「 どこへ行こうとしてんだ。俺との決着もつけねーでよぉ 」




 さっきまで殺し合った末に消滅させたであろうはずの少年の声が、ザイートの背にかけられた。


 「………………やっぱりか。アレで終わるタマじゃなかったようだな。まったく、ふざけたイレギュラーだ…。

 まぁいいい……次は“最後の切り札”を使って、お前を完全に滅ぼしてやろう

 ―――カイダコウガ!!」


 ザイートが振り向いた先には、不敵な笑みを浮かべている皇雅の姿があった。



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