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「最後の切り札」2

 「―――さん! コウガさん!!」


 声が聞こえる。俺を呼ぶ声が……。聞き覚えある声だ。そう昨日も聞いた少女の声が……。たぶんだけど何か機械を通じて俺を呼んでいる……?


 「―――――っは!」


 その声のお陰で俺は意識を取り戻すことができた!


 (あっっっっっぶねええええええええええ!!どうにかセーフッ!!)


 何秒…いや何分経ったのか、どうにか戻ってこられた。不死のゾンビとはいえ細胞一つ残らず消えるようなダメージを負えばさすがにこの世から消滅するのではと思っていた。

 けど俺はなんとか首の皮一枚で耐え切れていたみたいだ。塵サイズになるくらいバラバラになったのか知らないけど細胞が1つでも消えないで残ってさえいるなら、俺は再生できる!今の俺は米粒のような存在だ。意識を集中して体を再構築・再生させていく……!

 こうして生き残れたのは、ウィンダムから奪った固有技能「超生命体力」のお陰だ。自身の防御力に加えてあの特殊技能が合わさったことで、超頑丈で規格外の生命力を宿した身体になれていたんだ。その結果あのクソヤバかった威力のカウンター返しで消えることなく、細胞一つ残すことに成功できた……!


 「本当に危なかった…。細胞一つ残っていたのもあるけど、あのまま意識がなかったらその一つも消えてしまって、マジで消えていたかもしれん。あの“声”のお陰でどうにか戻ってこれたんだ」


 いったい誰が俺を呼んだのか……その答えはすぐに知ることができた。


 『コウガさん!コウガさん!!』


 再生した目に映ったのは浮いている水晶玉。そこから聞き覚えのある声が響いてくる。


 「お姫さん……?」

 『………!!』


 俺が声を発すると水晶玉から息を吞む気配がする。水晶玉がせわしなく動きやがて俺の再生中の姿を捉える。


 『コウガさん、なのですか!?』

 「ああ。ザイートにやられちまって今はこのざまだけどな。少ししたら元に戻れ――」

 『よ、よかった!!やっぱり生きてくれていた!本当に、よかった……!』


 水晶玉からミーシャの涙声が響く。なんて大層な。つーか俺死んでるんだけどな……。


 「お前が俺を呼んでたのか。そのお陰で意識がどうにか戻った。礼を言うぜお姫さん、助かった」

 『そうだったのですか。私なんかがコウガさんの助けになるなんて……』

 「いいや助かった。じゃなきゃ俺マジで消えてたから。とにかくまぁ、もう少ししたらあの野郎とケリつけてくる」


 上半身の形ができて腕が生えてくる。ミーシャに礼を言う一方でザイートの動向を見る。


 (あのカウンター合戦を制した方のあいつもタダでは済まなかったようだな。かなりボロボロになって消耗もしている。奴も回復中ってところか)


 回復しながらもザイートは俺を捜しているのかきょろきょろ辺りを見ている。今見つかるとマズいな、気配を遮断させないと。


 「お姫さん、遠くに離れてろ。奴に見つからないようにな。奴は俺がきっちり殺してやるから。それで魔人族軍は終わりだ」

 『はい……。あなたにばかり任せてしまい申し訳ないです。

 コウガさんを信じています。勝利と生還を願っています……!』


 それだけ言うと水晶玉は煙に紛れて遠くへ離れていった。見えない何かがザイートを襲っているのが見える。奴がそれに気を取られているお陰で時間が稼げている。よし……後は脚だ。


 そして完全に復活し、ザイートの前に姿を現して、声をかけてやった。




 「悪いな消えてなくて...。あのカウンター合戦がテメーの勝ちに終わったのは癪だったぜ。何せ自分の技で打ち負かされたんだからな」

 「そこは能力値の差の問題だ。俺とお前とじゃ格が違う。所詮人族が魔人族相手に身体能力で勝てるかよ。とはいえあの超絶な負荷にはさすがに参ってはいるが」


 全身が再生したとはいえ、筋肉や内臓などの中身はまだ再生途中だ。時間をもう少し稼ぐべくまた軽口を叩き合う。不敵な笑みを見せ合い、殺気をぶつけ合う。戦いは中断されていない、こうして今も続いている。


 睨み合ったまま一分経過後、中身もようやく全快して完全復活を遂げる。それはザイートも同じのようで奴の体に傷は無くなっていた。

 これ以上睨み合うのは無意味だ。こっちから仕掛けるぞ…。


 「さっきのカウンター技、使うなら使えばいい。ただし俺はもう使わねーぞ。またあんなやり合いをするのはもうしたくない。神経を使い過ぎるからな」

 「はっ、所詮付け焼き刃では長続きしねーものなんだよ。まぁ俺もアレはあまり使わない。ここからは俺も攻めに出まくるからな...!」

 「そうか……。ならばやはり俺もここからは切り札……本当の力を解放するとしよう。

 “限定進化”をさらに超越する次元―――“限定超進化”だ」


 (超...進化?)


  ザイートにはまだ隠している真の力があるらしい。直後、ザイートの体から闇色の光が噴き出てきた。今までのとは比べ物にならない程の、超濃密なオーラ・魔力が出てきて、ヤバいと思わずにはいられなかった。


 「教えてやろう。今存在する魔人族の中で唯一俺だけが発動できる切り札――“限定超進化” 

 更なる力…最強を求めて研究し己を高め続けたことで俺だけが辿り着けた進化の境地、全ての頂点。全てを超越した力を今、発揮する……!!」



 “限定超進化”

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