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「究極そのものとなった者」

 鬼族の仮里にて魔人族軍を迎撃している鬼族の誰もが、「その」戦気・存在感を感じ取った。


 「……………!」


 アレンは突如感知した尋常じゃない戦気に怯んで思わず動きを止めてしまった。


 (今まで感じたことない戦気……それもすごく邪悪なもの。誰?魔人族の誰か?)


 「アレン、前からモンストールが来てるよ!」


 ルマンドの指摘で我に返ったアレンは向かい来る災害レベルのモンストール二体を瞬く間に討伐する。


 「ごめん。気を取られてた」

 「無理もないわ。私もさっきから穏やかな気分じゃないもの。前衛にいるみんなはもっと感じ取れてると思うわ。この強大で邪悪過ぎる戦気と魔力、そして他にも……」


 ルマンドは微かに恐れを抱いた様子で自身の気持ちを吐露する。そんな二人を見るカミラには同じように感じ取ることが出来ない。しかし何かが大きく動いたという予感はしていた。


 「おそらくですが、コウガが魔人族の“序列1位”……ザイートと戦っているのだと思います。二人が感知した戦気の正体はザイートのものではないでしょうか」

 「これがアイツの……こんなの、敵う気が全くしない」


 カミラの推論を聞いたルマンドはザイートに恐れを抱く。遠く離れたところからでも戦力差をはっきりさせられた気持ちだった。


 「コウガは今、ザイートと全力で戦っている。ザイートに勝てるのはコウガしかいない。コウガが勝つのを信じるしかない」


 アレンは自分にも言い聞かせるように言葉を発した。そして自分が今すべきこと……魔人族軍からこの里を守ること、魔人族軍を殲滅させることに意識を向けた。

 状況は敵軍の第一波を完全に討滅したところだ。後衛に攻め込んできた数も僅かで、アレンとルマンドは苦労することなく敵を全滅させた。


 「…………!!アレン、空から尋常じゃない戦気が感じ取れる。これは魔人族、それも“序列”級だわ!」

 「……!カミラ、布陣はどうする?」

 「敵はおそらくこの里を直接攻めてくるでしょう。“序列”級が相手となればここは前衛にいる鬼戦士たちも集めましょう。総員で迎え撃ちます!」


 カミラの指示に従って前衛中衛にいる主力の鬼戦士たちを集合させる。彼らも近づいてくる戦気に気付いている様子で、迎撃する準備は出来ていた。


 「ほう、随分と里の復興が進んでいるようだな。鬼族ども」


 その数分後、空から心胆を凍えさせるような声が響く。そこには―――


 「お前は昨日の……!」


 「フン。よくも竜人族の殲滅を邪魔してくれたな。今日は先にお前らを滅ぼしてやる。竜人族はその後だ。覚悟するんだな…!」


 魔人族戦士「序列2位」ヴェルドが、殺意滾らせた目でアレンたちを睨んでいた。


 (コウガ……仲間とこの里は絶対に守ってみせる。だからコウガは自分の目の前にいる敵に集中して大丈夫。絶対に勝って帰ってきて!!)


 アレンはコウガに届けるくらいに心の中で叫んだのだった―――



                  *


 “限定超進化”


 ザイートが「それ」を発動した瞬間、魔力とオーラ、プレッシャーがさらに強くどす黒く溢れ出す。同時にザイートの形も変わっていく。背丈はそのまま、肥大化していた筋肉は凝縮していき体はむしろ細くなっていく。そして奴の体からはさらに濃くなった瘴気が出てきた。


 「……………!」

 「これが俺の隠された真の力…“限定超進化” だ。“成体”になった者だけが辿り着ける全ての境地の果て、全てを超越したステージだ。魔人族の族長が代々に渡ってこの超進化を遂げることに成功している。俺も例外ではない。そして………

 今やこの俺こそが、この世で最も強い」


 その隠しきれていない力は、空間を歪ませる錯覚を見せてくる。「鑑定」してみると能力値は「限定進化」状態の倍以上になっていた。ほぼ全てが十億越えの能力値だ……。


 今のザイートを言葉で表すのなら、まさに「究極」。奴は言った通り究極を手に入れた存在なのだろう。この世界の誰よりも強いと冗談抜きでそう言える。

 けどな……


 「終盤になってさらにパワーアップするってのはテンプレ…お約束だ。だけどパワーアップできるのがテメーだけと思うな?

 俺もまだまだ強くなれるんだよここからなぁ!」


 (脳のリミッター 100000%解除!!)


 リミッターをさらに解除すると俺から攻めに出る。顔面をねらった光の速さ並みのジャブを放つ。が、容易く拳を掴まれる。更なる力のリミッター解除が必要だ!

 修行期間では到達したことがなかった大台の十万越えのリミッター解除。対する俺の体は……ちっとも壊れていない。まだ余裕だ!さらに10000%解除。

 途端、拳を掴むザイートの手が震え、俺が押し始めた。そのままへし折ってやるぜ!


 「そうか……お前は俺と違って何度もパワーアップできるのか。なら、ば…すぐに決着を、つけなければ、な…………。」


 「――!あ……?」


 ゴッッッ!!


 ザイートが何か呟いた瞬間、俺は数百m吹っ飛ばされていた。あ、腹に穴空いてる。

 直後、背中に蹴りの衝撃が。脊髄が破壊されていた。


 「ごへぇ……!」


 何が起きたのか、考える間もなく俺は地面に叩きつけられて、周りの地盤も崩壊した。おそらく腹を思い切り殴られて吹っ飛ばされ、その俺に瞬時に追いついたザイートがすぐさま背中目がけて垂直蹴りをかましたのだろう。

 たった二撃で胴体の骨・内臓がぐちゃぐちゃになってしまっていた。リミッター解除で数段強くなったはずのこの身体が、だ。奴の攻撃力二十億台の火力はここまでぶっ飛んでいる。規格外にも程がある。次元が違う。

 そうであればこいつの攻撃は絶対モロに当たらないようにしなければならない。その為には耐久力を上げる?無理だ。俺にそんな固有技能は存在しない。だがそれ以外の能力値を上げられる……速さだ。

 脳のリミッターを解除することで攻撃力・速度を俺は無限に強化させられる。今の解除率でまだ敵わないっていうなら、リミッターをさらに解除するまでだ!!


 「120000%...!」

 「………」


 再生した体を強引に動かして無理やり速く走らせる。生ある人間だったら痛みがくるもしくは心が壊れているだろう。けど俺にそれらは無い、ゾンビだから!

 さっきよりも速くなった今なら奴の動きを躱せ――


 ブシャアァ...!!


 ――なかった。横腹に黒い雷を纏った鉤爪の爪撃をくらう。体が千切れかけて腸がとび出す。直撃は避けられたものの完全な回避にはまだ速さが足りないらしい。


 「まだ、だ!150000%!!」

 「…………」


 一気にリミッターをさらに解除して、感じたことない力を解放させる……って、鼻血が出てきた。あと目も充血してきた。いけると思ったけどやっぱり十万を超えるリミッター解除の負荷はデカ過ぎたか。しかもあまりにも自身の速さに少しバランスを崩しかけた。強過ぎる力の扱いは本当に困難だな。力を有するこの器が先に壊れようとしている。

 けどこの程度なら体の崩壊の懸念はまだ大丈夫だ。それにここまでのリミッター解除のお陰で今のザイートの動きも見切れるようになった。攻撃を躱せるようにもなった。

 何より――――


 「―――ハァッッッ(“絶拳”)」


 ――ズドォン!「ゴ、ア”...!」


 火力がめちゃくちゃ上がっている。奴の超凝縮された強靭な肉体にダメージを与えた。怯んだ隙をみてさらに畳みかけに出る。

 胃、肝、腎臓、股間と人体の急所を正確に殴り、蹴りまくる。予想通り有効だったらしく、ザイートにやや苦悶の表情が見られた。

 が、殺すまでには至らず、最後の急所を突いた直後、奴から闇色の「極大魔力光線」が飛んでくる。

 奴の魔力はそんなに高くないとはいえその威力は凄まじく、くらうと体が炭みたいになって崩れていく。すぐに真横に跳んで脱出。体の欠損が大きいせいですぐには動かせず、その隙を突かれて全身を鉤爪の爪撃で滅多刺し・引き裂かれる。


 「………」


 攻撃している最中のザイートの顔がちらと映ったのだが、奴の目には光がなかった。というか、奴から人の感情自体が消えたようにも見える。最後に何か呟いて以降何も言わなくなってるし、雰囲気が完全に変わっていた。

 「限定超進化」とやらを発動したことで、感情か何かが欠落したのだろうか。強大な力は身を滅ぼす…そのことを身を以て知っている俺には他人事に思えなかった。

 今のあいつは、ただの殺戮人形と同じか……そうなってでも俺を消したかったのか、この世でいちばん強くなりたかったのか。本物の化け物になってでも、この世界全てが欲しいというのか。


 「上等だ…!片や力のリミッター解除と引き換えに体を壊すリスクを持つ者。片や究極の力を得る代わりに感情を失う者。

 何かを犠牲に大きな力を得てパワーアップする者同士、とことん潰し合おうぜ!!」


 さらに+10000…160000%解除!行くぜ……!!




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