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「みんなの希望になり得る者」

 サント王国付近の戦場―――


 迫りくるモンストールと魔物の軍勢を、連合国軍は順調ではないものの迎撃・討滅し続けている。連合国軍の戦力は昨日と比べるとやや落ちている。負傷している者も戦場へ駆り出ているくらいだ。人手が足りないことは否めない。

 そんな厳しい状況であるにも関わらず魔人族軍に負けていないのはひとえに皇雅の活躍が関係している。彼が魔人族の本拠地に強襲して大半のモンストールと魔人族を討伐したことで、魔人族軍に甚大な戦力削減被害が出ていた。そのせいで魔人族軍は予定していた数のうち半分程度の戦力しか各戦場へ送られていないのだ。

 敵軍の勢いが昨日より落ちていることに気付いた連合国軍は士気と戦意を高めることに成功、優勢に立とうとしている。


 「………ちぃ!昨日のようにいかない、私が押されているだと!?」


 魔人族「序列6位」ジースがサント王国に再び攻め込んできたが、彼女の侵攻は食い止められている。

 異世界召喚組の美羽・曽根・米田・堂丸・中西とサントの臨時ではあるが兵士団団長に任命されたクィンによってだ。


 (あの回復術師にリュドルが討たれたと聞いた。最も油断ならない女……うかつに近づけない)


 「限定進化」を発動したジースは美羽を先に消すべく集中攻撃を仕掛けようとする。


 “魔法剣”


 そこにクィンがすかさず攻め入ってジースの動きを制限する。続いてクラスメイトたちも果敢に追撃する。


 (な、何なのこいつらの勢いは!?昨日とはまた違う雰囲気……っ)



 「はぁ、はぁ………何とか食い下がれてるってところだね…。でもあの魔人族を倒すにはいかない、かな。このままだと……」


 美羽は小さく呟く。究極の回復魔術「時間回復リバース・ヒール」を上手く当てられればジースを極限まで弱体化させて討伐が一気に簡単になる。しかしその過程が非常に困難であり美羽自身にも重いリスクがついてくる。

 使いどころを誤れば自滅するリスクを背負っている美羽はどうしようかと思案していると、宙に浮いている堂丸が何かを見つけて声を上げる。


 「あれ………何だ?テレビ画面みたいなのが空に映し出されてるような……」


 堂丸の言葉に美羽たちも空を見上げる。ジースもそれを訝しそうに見る。

 やがてそれは突然光ったかと思うと何かを映し出す。その内容は荒れ果てた陸地、瘴気が発生しているどこかの地帯。どこか分からない場所だ。

 続いて耳を劈くような音が何度も響き、衝撃波が発生する。


 「あれは……いったい?」

 「………!まって、あそこに映っているのは…!?」


 美羽が何かに気付いて目を凝らして映像を見る。そこには皇雅の姿が映っていた。


 「甲斐田君!?」

 「コウガさん…!?」


 美羽もクィンも皇雅が画面に映し出されたことに驚きを隠せないでいる。皇雅の姿は全身が赤くなっておりそこから蒸気のようなものが絶えず発生している。

 そして皇雅が相対している人物も皆の目に入る。魔人族の族長ザイートだ。この世に存在するものとは思えないおぞましい見た目をしている。誰もが恐怖してしまう。


 「ねぇ………あれが魔人族のいちばん強い奴、なの?」

 「そうとしか考えられねーよな。何だよあれ……あんなの存在して良いのかよ…!?」

 「甲斐田はあんな化け物を一人で、それにすごくボロボロになってまで………」


 クラスメイト全員がザイートの存在に恐れをなす。そしてそんな化け物と戦っている皇雅にも畏怖している。

 映像からは皇雅の気合に満ちた絶叫も流れており、その戦闘がどれほど苛烈なものかを伝えている。


 「えっと……あの映像はいったい誰が―――」


 米田が映像の出所について疑問を言おうとしたその時、映像画面の周囲からミーシャの声が響いた。


 『………連合国軍の皆さん。この映像は全ての戦場に流しています。見ての通りこれはカイダコウガさんとザイートによる戦いの様子です』


 ミーシャは固有技能「遠見」を応用して全ての戦場にある水晶玉に二人の死闘の様子をリンクさせることに成功したのだ。サント王国もハーベスタン王国もラインハルツ王国も旧ドラグニア領地も、全ての領域付近の戦場にいる連合国軍の兵士・戦士たちが映像を見ていることになっている。誰もが敵と戦っている一方で皇雅がザイートと必死に戦っているところを見ている。


 (これは………大きな賭け。もしコウガさんが敗北してしまったところが映ってしまったら軍の士気と戦意に大きな支障をきたすことになる。皆さんを絶望させることになってしまう。

 けどこれはチャンスでもある!コウガさんがザイートと必死に戦っている姿を見せることで……!)

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