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「鬼族全ての仇」

 「あれが生き残ってきた鬼族が暮らしている里、ねぇ?元はここ獣人族の国だったんですってぇ?何よォ割と良い暮らししてそうじゃなぁい!嫉妬しちゃうわ~~~よし、滅ぼしてあげる☆」

 「ふん、どうだっていいわ。あのお方…バルガ様の命令のままに、この里を滅ぼす…!」


 元カイドウ王国(獣人族の国名)、今は鬼族の仮里となっているこの地に魔人族ネルギガルドとベロニカが、ランクが異なる大中小様々なモンストールと魔物の軍勢を率いて侵攻しようとしていた。


 「……………」

 「何かしら?私の顔に何かついてる?」

 「いいえ~~別に何でもないわ」


 ネルギガルドはそう誤魔化すが、ベロニカに起きている「変化」について思うところがあった。


 (ここにいるベロニカちゃんも、サント王国へ行ったヴェルドちゃんもジースちゃんも、以前のみんなじゃなくなっているわね…。見た目や口調、根本的な性格は以前のままなんだけど、人格?性質?はっきりとは言えないけどその何かが変わってしまっているわ。

 みんながそうなったのはあの時…バルガ様が復活して世界中に宣戦布告をした後だったわ。あの日、あの方はみんなに“ある強化”を施した。そして今に至っている)


 今度は気付かれないようベロニカに再び目を移す。今の彼女からはバルガの命令を実行しようという忠義心の他に、闘争を求めている気も感じられるのだ。その雰囲気はまるで……バルガそのものだ、と。


 (アタシだけあの方の施しを受けなかった。理由は何となく……自分を失っちゃいそうだったから。まァベロニカちゃんを見るに、以前の自我まで失ってはいないみたいだから要らない心配だったのかもねェ)


 そう思っているうちに二人は砦がいくつも建っている地帯にまで進軍する。この地には既に大勢の鬼戦士たちが防衛態勢に入っており、魔人族二人に殺意・僅かな恐れを含んだ視線を向けた。


 「あの巨漢魔人は、私たちの里を滅ぼした……!!」


 センやスーロンはネルギガルドの姿を視認すると彼こそが鬼族にとって最大の復讐対象の魔人族であるとすぐに見抜いた。

 同時にギルスやキシリトなど主戦力の鬼戦士たちは、第一波として侵攻してきたモンストールと魔物の軍勢と既に戦い始めている。だが数が多過ぎるため取りこぼしてしまい、前衛拠点となるこの地を突破されそうになっていく。


 「くそ!またこいつらに俺たちの家が、里が……!!」

 「いや、もう滅ぼさせはしない、絶対に!!」


 威勢は衰えずという状態だが、敵の数の多さに苦戦している。その様子を見ていたネルギガルドが、飽き飽きした様子で彼らのもとへ立った。


 「お前が、ネルギガルド……!鬼族全ての仇!!」

 「あらァん?意外と多くの鬼ちゃんたちに知られているわね、アタシったら。ふぅ、見てるだけじゃ退屈だし、そろそろアタシが相手してあげる。今度は完全に滅ぼしてあげるわァ、鬼族のみ・な・ちゃん☆」

 「滅ぶのは、お前らだあああああ!!」


 いきり立って魔法攻撃を放とうとするギルスに対し、嗜虐性に満ちた笑みを浮かべたままのネルギガルドはゆっくり拳を構える。

 互いがぶつかろうとしたその時、ネルギガルドの頭上から誰かが急降下してきた。



 「“雷剛閃らいごうせん”」

 「ぬうぅ!?」


 咄嗟に腕を交差したせいでネルギガルドにダメージは特に与えられなかったが、両腕にかなりのダメージを与えることに成功した。


 「痛いわねぇ~~~!上から何なの急に」

 「やっと遭えた、魔人族ネルギガルド……!!」

 「……んん?」


 着地によって発生した土煙の中から憎悪と殺意に満ちた声がかかる。その中から襲撃した者の正体が明らかになる。


 「お前を完全に殺す。みんなで復讐しにきた」

 「ふう~~~ん?言うわねぇ、殺したくなってきちゃった……」


 アレンは怨嗟に染まった目でそう宣言した。それを聞いて不愉快そうに睨むネルギガルド。アレンは…アレンたち鬼族はついにかつての鬼族の里を滅ぼし家族もたくさん殺した魔人族…ネルギガルドと遭遇した。


 「アレン!私たちの分もよろしく!早く終わったらすぐに駆けつけるから!」

 「うん!セン、ガーデル、キシリト、そしてルマンド、もう一人のこと任せる!」

 「「「「ええ(おう)(うん)!!」」」」


 アレンに呼ばれた四人の鬼たちは力強く応えるとネルギガルドの後方…ベロニカのもとへ駆けた。


 「ふぅん?分断して戦うつもりなのね。災害レベルの屍族を簡単に殺せる鬼がこんなにも……。中には同胞を上回る魔力を持つ鬼もいるようね?道理で先日ここに寄越した魔人族軍が返り討ちに遭ったわけだわ」


 四人の鬼たちに睨まれながらもベロニカは余裕を崩すことなく冷たい視線を向ける。


 「前回は失敗に終わったみたいだけど、私が来た以上あなたたちは今度こそ終わることになるわ。奇跡は二度も起こらない」

 「最初の大戦で魔人族軍をけしかけてきたのはあんたの仕業だったのね。あの戦いに奇跡は起こらなかったしそもそも必要無かったわ。私たちが凄く強かったから難無く勝利したからよ!

 そして今回も結果は同じ。あんたたちは無惨に負けてここで終わる!仲間たちと里を脅かす根源がこうして来たのは私たちにとってむしろ幸運ね。魔人族、あんたたちをここで討ち滅ぼせば全部終わるんだから!」


 ルマンドが代表してベロニカに強気に発言する。


 「そう、強気ね。どうでもいいけど。私はただ私の新たな主…バルガ様の命令のままにここを滅ぼすだけだから。というより、あなたたち四人だけでこの私を討てると思っているの――」


 ベロニカが手を挙げた直後、彼女の傍で控えていたモンストールと魔物たちが一斉にルマンドたちに襲い掛かる。ガーデルが拳を構えて幻術をかける態勢に入る。

 だがそうしようとしたところでモンストールたちに異変が生じる―――


 「……?屍族たち、どうして進軍を止めて―――」


 ベロニカが疑問を言おうとしたその時、全てのモンストールが進行を変えて、魔物たちに攻撃を始めた。


  “死霊操術ネクロマンシー


 モンストール…屍族は元は死んだ魔物や動物が魔石から発生する瘴気を取り込んだことで生まれた化け物だ。そしてその性質は死霊に通ずるものがある。故に「死霊操術」でモンストールを操ることが可能なのだ。

 そしてその魔術を使える者はこの世界ではそういない。この魔術を発動している者は―――


 「モンストール全部、私のコントロール下に置きました!」

 「流石だわ米田さん…いえ、小夜ちゃん!もう少しだけ支配お願いね!」


 異世界召喚された皇雅の元クラスメイト…米田小夜。呪術師である彼女の強み――「モンストールの支配」によって、ベロニカの手駒の半数以上を味方に寝返らせた。

 そして小夜の隣からもう一人、彼女の先生である美羽が、魔法杖から超強力な魔法攻撃を放つ――


 “プロメテウスの火”


 ――― 

 ――――

 ―――――


 五百体はいた魔物全てが一瞬で灰となって消失した。


 「Sランクの魔物まで一撃で殺した……!?いったい何者なの!?」


 頬に汗を垂らすベロニカは新生連合国軍から来た助っ人…美羽と小夜に警戒心を向ける。


 「さぁみんな、協力してあの強そうな魔人族を倒しましょう!アレンちゃんたちの里を守りましょう!」

 「ええミワ!とても心強いわ!一緒に戦いましょう!」

 「よ、よろしくお願いします……!」

 「サヤっていうのね。あなたも来てくれてありがとう。頼りにしてるわ!」


 「こい、つら……!」


 結束した六人の戦士に、ベロニカは魔力を昂らせた―――



 一方、アレンたちとネルギガルドは戦いの場を移し、緑が豊富な森林地帯にいた。


 「分断ね~~~?たった四人でアタシと戦おうっていうの?」

 「私たちだけじゃない―――」


 アレンがそう言うと彼女の後ろから人族の兵士一人、竜人族の戦士一人が現れた。八俣倭とドリュウだ。


 「まだいたのねぇん。何故か竜人族と……あの男は!?」


 倭を目にしたネルギガルドが目を見開く。そんな中倭はアレンに静かな声で話しかける


 「アレン・リース、他の鬼たちも聞け。復讐するのは構わない、だが決して自分を失うな。ここからは俺も参戦する、共に魔人族を討伐するぞ……!」

 「ん、分かった。よろしくワタル!ドリュウも、力を貸してほしい!」

 「無論だ。奴はは竜人族を襲った魔人ではないとはえいえ世界共通の敵。ここで斬り殺す!」

 「うん、みんなであの憎い憎い魔人をぶっ殺そう!!」

 「「「ええ(ああ)(うん)!!」」」


 アレンの言葉にスーロンとギルスとソーンが声高らかに応える。


 鬼族・新生連合国軍vsネルギガルド・ベロニカ率いる新生魔人族軍。鬼族の里にて二つの大規模な戦が始まった―――


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