「………っ」
バルガの強い存在感・魔力、そして悪の気配。それらにてあられた俺はゾンビの体でありながらも冷や汗を流す感覚がした。
かつて世界を滅亡に追い込んだ最恐最悪の魔人族のトップ。そいつは昔、八俣倭をはじめとした俺たちと同じ異世界召喚された人間たちによって討伐された。しかし何らかの方法で現代の今に甦った。
それがこの魔神バルガだ。
『コウガさん、無事ですか!?』
「ああ。大丈夫だ、今のところは……」
水晶玉からのミーシャの声に応じながらもバルガからは目を離さないでいる。
「さっきよりもらしくなってんじゃねーかよぉ、ラスボスの魔王って感じによぉ、魔人王さん?」
≪“魔人王”...悪くない呼び名だな、その呼び方を許そう≫
俺の呼び方を気に入り愉快そうに笑ってやがる。
「俺やヴェルドが器だとか何とか言ってやがったな?消えたヴェルドとさらに強化しやがったテメーと何か関係あるようだが?」
≪ふ...良いぞ、ザイートのように己が抱く疑問を次々晴らそうとするその姿勢、お前はやはり面白い。せっかくだから教えてやろうか、この俺のことを≫
それからバルガは自分のことを話し始める…。
≪知っての通り、百数年前に俺は異世界人の戦士どもに敗れて殺されてしまった。だがその後、俺の特殊技能によって霊体としてこの世に俺の存在と魂を留めることに成功した≫
≪一方敗けた部下たちは闇しか無い地底へ逃げて拠点を確立した。俺もそこを見つけるとすぐにザイートに霊体を憑依させた。そうしなければ俺がいずれ消えてしまうからな≫
≪憑依したことでザイートは今までの自我に俺の人格が埋め込まれ、俺と同じ意思を持つようになった。奴が闘争を愉しむようになったのは俺が憑依していたからだ≫
≪そこからはザイートの中でたくさんの闘争を見せてもらった。
沢山の人・魔物が死に、血が舞い、それらによって発される悲鳴と呻き、怨嗟の声は実に心地よかった…!≫
「ザイートの中にずっとテメーがいたってのか。そうか、だからあの時……死ぬ間際にあいつは……」
段々興に乗って変な方向へ行きそうだったから独り言で口を挟んだ。自分の中には何かの存在を感じていた…なんてことを言ってたっけ。
≪フム、確かにあいつは死ぬ前に俺のことを言おうとしていたな、まぁいい。
ザイート…かつての奴は俺の優秀な部下だった。俺の右腕と呼べる程にな。
だが…奴では俺の全てを引き出すには役不足だった。だから数日前の決戦でお前に敗れたのだ≫
その言葉に突っかかれずにはいられなかった。
「テメーの力が十分に引き出されなかったから、ザイートは俺に敗けたってのか?」
ザイートの力じゃ初めから俺に通じなかったと言いたげじゃねーか、何だか気に入らねー。
≪その通りだ。奴には負の感情と邪悪さが不足していた。この世界に復讐しようという憎しみ、この世全ての生物に対する滅亡欲、全てを支配したいという征服欲、その何もかもが足りていなかった≫
≪地底に逃げ延びたザイートは、隠遁生活を選ぼうとしていた。余生は人族や魔族どもに気付かれないようにひっそりと残りの同胞たちと過ごそうという考えに基づいていた≫
≪本来のザイートはそういう魔人だった。探求心が旺盛で研究熱心なだけの男だった。俺の霊体を憑依させたことでこの世全てに憎悪を抱き復讐心を芽生えさせ、戦いを求める存在になったとはいえ、俺の全てを引き出すには不足だったというわけだ≫
「で、そんなテメーの全てを引き出せる可能性を持っていたのが、テメーが既に取り込んでいるヴェルドだったってことか」
俺の指摘にバルガは口を笑みに歪める。
≪その通りだ。ザイートの実子なだけあって素質は申し分無い男だ。ザイートが存命の間、このヴェルドも器として不適格だったが、ザイートがお前に殺されたことでヴェルドは進化した!≫
≪お前に対する絶望と復讐したい憎悪が、邪悪な傑物へと変われた!お前がザイートを殺したお陰で、俺が全てを引き出せるに相応しい器へと成長してくれた!≫
「………………」
そんなことの為に?
こいつのどうでもいい道楽の為に。
俺は一度死ぬことになったのか?
アレンの家族が殺されたというのか?
俺が、この世界に呼ばれることになったってのか?
こいつが部下を操ってモンストールなんか創り出して大暴れしたせいで。
全部、このクソ魔神王のせいで、俺はこんなところにいるってのか……!
「狂ってるなテメー。そして今まで遭ってきた敵でいちばんのクソヤローだ……!人のこと言えるクチじゃないけどとりあえず言わせてもらうわ」
≪ククク、何を今さら。
ああそれと……ずっと前からお前の中にも、俺の霊体は存在していたのだぞ≫
「何言って—――あ……!」