目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報

「屍人vs魔神」

 皇雅とバルガから百数m程離れたところから縁佳たちは二人の動向を注視していた。


 「敵の総大将、さっきよりも強くなってねーか?俺……ここから近づける気がしねーんだけど……」

 「そうよね………もう一人の魔人族がいなくなってるけど、状況はあんまり変わってないわ」


 堂丸と曽根はバルガが放っている邪悪な存在感や魔力に萎縮してしまっている。


 「晴美、置いてきてしまったわね……」

 「仕方ねーよ。中西には悪いけど、供養はしてやれねー」


 改めて中西の死を悼む二人。縁佳も二人と同じ気持ちでいると同時に狙撃銃をバルガに照準を合わせている。いつでも皇雅の援護を出来るようにしている。

 しばらくして皇雅とバルガが激突するのを見て、全員息を呑んだ。


 『両者、戦闘を始めました!二人の周りには生物が吸えば死に至る程の濃度の瘴気が立ち込めています。皆さん今は二人の近くへ行かない方が良いです!』


 水晶玉からミーシャがそう提案する。


 「ここからでも見えるあの瘴気、確かに私たちが入って行ったら死んじゃうかも…」

 「悔しいですが私は完全に足手まといになりますね。ですがヨリカさん、あなたの狙撃の腕があればコウガさんを援護できます。私の代わりに、彼を助けてくれませんか?」

 「はい、やれるだけやります!私の狙撃が通用するか分からないけれど、何もせずにはいられません。今だって皇雅君は、必死に戦っているはずだから」


 クィンの頼み事に縁佳はしっかり応えた。彼女たちはバルガが告げた全ての真相を知らないでいるが、バルガこそが新生魔人族軍の要、彼を討てば全てが終わることは理解していた。


 『皆さん、あの瘴気はそう長くは続かないと思われます。あれを無限につくりだすことはバルガでも出来ないでしょうから』


 今度はカミラの声が入ってきた。彼女がここに介入するということは鬼族の里側での大戦に決着がついたということ。さらには彼女の声の明るさからして新生連合国軍が勝利したことを察して、縁佳たちの心は活気づいた。


 『ここからは私が敵の行動を適宜予測して指示を……………っ!?そんな…!?」

 「?カミラさん、どうかしたのですか?」


 クィンの問いから数秒後、カミラの震えが混じった返答がきた。


 『予測できません...バルガの姿を目にしても、奴の未来が全く見えない...!私の“未来完全予測”が通用しません!』



                  *


 「――未来が予測できない、ね...」

 『ごめんなさいコウガ。いくらバルガを対象に固有技能を発動しても、目の前に何か靄が生じてしまって全く予測出来ないんです。もはや、私ではどうすることも...!』

 「そうか………これは、テメーの仕業か?」


 バルガを睨んで問う。


 《ふん。俺の未来の行動を予め知ろうなどと、そんなつまらない狼藉を許すわけがなかろう。

 俺の固有技能 “陰滅いんめつ” 己の心を闇で覆い隠すことで常に相手に己の行動や思考などを予測させないようにする。相手に己の行動を悟られないようにするのは、戦いの基本だぞわっぱどもめ》


 ニヤリと見下しながら答えるバルガに、思わずこっちも苦笑いする。確かに、相手の行動予測する固有技能があるなら、当然それを阻む技能もあるよな?ただそれだけの話だ。


 《それにしても...ほう、その水晶玉やコンタクトレンズとやらで遠方から戦況を覗き見ているのか。全く、闘争は現地で見るものだろうが、不届き者ども――》


 パリィィン...!「な!?」


 『コウガさ――(ブツン...)』


 バルガの一振りで、懐にあった水晶玉とレンズが割れてしまった。カミラとミーシャとの通信が途絶えてしまった...。さらには縁佳たちやアレンたちとの通信手段である端末まで壊された。


 《戦いは直に見てこそ価値あって昂るものだ。そんなアイテム越しから観て何が愉しいというのだ?下らん》

 「テメーと一緒にするな戦闘狂が。あれが彼女たちの軍略たたかいなんだよ」


 バルガに毒づきながら両手に魔力を込める。属性は水。そしてその水は、邪悪な存在や不死の性質を持った存在を浄化して殺す性質を含んでいる。

 つまり、俺も「聖水」をつくりだせるようになったのだ!


 ≪ほう?その水魔法は……≫

 「テメーの滅魔法に対抗するには聖魔法が必要だ。けど今の俺はそれが無い。だから疑似聖魔法になり得るこの“聖水”を使ってやるぜ!」

 ≪いつの間につくれるようになったんだ?≫

 「さっき死んだ元クラスメイトから奪った」


 ちらと後ろを見て中西の遺体を目にする。彼女の心臓が停止した直後、オリジナル魔法攻撃「悪食」で彼女の固有技能を奪っておいた。そうすることで「回復」を発現させ、それを使って「聖水」を使えるようになったのだ。

 ただし……「聖水」はゾンビの俺にも特効で、直に魔法を発動すると俺の手が溶けてしまう。「身体武装硬化」と大地魔法の鎧で体をコーティングしないと「聖水」は使えない。


 「悪く思うなよ中西……勝利の為だ」


 脳のリミッター 250000%解除


 完全武装したあとリミッターを体の崩壊ギリギリのとこまで解除したところでようやく攻撃に出る。バルガへ一直線に駆けて、「聖水」…疑似聖属性の魔力を纏い、さらにオリハルコンも纏って武装硬化した両拳・両足で、全力のパンチと蹴り技を超音速で放ちまくる!


 “絶拳” “絶脚”


 ≪良いぞ、本気で来い!!≫


しかしバルガは滅属性を纏った魔剣でパンチと蹴り全てを弾いた。「聖水」のお陰で手足は斬り落とされず消滅も免れているけど溶けかかってはいる。


 「回復」――“自動回復オートヒール


 手足が原型を留められなくなる直前に回復魔術で元通りにする。中西の「回復」にこれ程までの回復力はなかったが、俺の力で藤原レベルまで近づけている。さすがに敵の時間を巻き戻すことは無理だけど。


 そこから拳・蹴りと滅びの魔剣による激しい応酬は数分間続いた。俺はもちろん、バルガも息一つ乱すことなくお互い殺意を込めて己の武器を振るい続ける。

この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?