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第67話 麗子様はお兄様を邪推する。

 まあ、冗談はさておき滝川がどんなに好条件であったとしても答えは同じ。


 麗子この滝川、だんこきょひ!


 だってヤツと婚約したら私は漏れなく破滅の道を歩むことになるんだもん。高等部に上がれば滝川は君ジャスのヒロインちゃんと邂逅してラブラブになる予定だしね。


「お兄様以外の方は考えられませんわ」


 だけど前世だの君ジャスだの説明しても痛い子になっちゃうので、いつもお兄様にご登場願っているわけだ。


「麗子ちゃん、ちょっとブラコンが過ぎるんじゃない?」


 えっ、ブラコンもじゅうぶん痛い子だって?


「もしかして、麗子ちゃんの手作りギモーヴって雅人さんに近づく子への牽制?」

「ええ、そのつもりですが?」


 えっ、なんです舞香お姉様、そのあちゃーって?


「麗子ちゃん、お菓子作り得意よね?」


 お陰をもちまして穂浪ほなみ万里子まりこ様主催のバザーではパティスリーレイコのスイーツはバカ売れよ。『あり得ないくらい美味すぎるブタさんチョコクッキー』の称号も未だ健在だけど。くすん。


「何を隠そう大得意ですわ」


 むふんっと鼻息荒くドヤッと胸を張ったら舞香お姉様が額に手を当てて首を横に振った。


「初等部のサロンで麗子ちゃんのスイーツ品評会をやっているでしょう?」

「はい、先日その第一回を開催したところですわ」

「それ中等部にも伝わっているの」

「まあ、そうなんですの?」


 まさか滝川が私に告ったってデマまで流れてんじゃあるまいな。


「中等部でも麗子ちゃんの手作りスイーツを食べたいって評判よ」

「うふふ、そんなに評価していただいて恐縮ですわ」


 せやろう、せやろう。我がスイーツはどれも絶品。これは本格的にパティスリーレイコをオープンしてもいいんじゃね?


「それでね、雅人さんにバレンタインを贈れば麗子ちゃんの手作りギモーヴが貰えるって以前から噂になったみたい」


 なんですと!?


「それ狙いの子もいるみたいよ」

「はいぃぃぃ!?」


 それはつまり私がギモーヴを完璧に仕上げるほど、お兄様へのバレンタインチョコが増えていたと?


「もしかして私は無駄な努力を?」

「無駄と言うより……やぶ蛇?」


 うがぁぁぁぁぁ!

 麗子一生の不覚!


「雅人さんが来年から麗子ちゃんのギモーヴを断ったのはそのせいじゃないかしら」

「そうでしょうか?」


 それなら直接伝えてくださると思うのだけど。私に隠す必要がない。


「やはり誰ぞ好いた方ができたのではないかと私は愚考いたしますわ」

「うーん、中等部で雅人さんに想い人ができたなんて噂は聞かないけど」

「そこは隠れてお付き合いなさっておられるのですわ」

「たくさんの女子に追いかけられて迷惑しているのだもの、そんな人がいたらむしろ公言するんじゃない?」


 そうすれば多くの女子が諦めてくれる。サバサバした舞香お姉様らしい考えですけど、それは甘いですわよ。


「むしろ嫉妬に狂ってお相手の方が陰湿な攻撃を受けてしまいますわ」

「ああ、確かに雅人さん狙いの女子の中にはそんなのいそうね」


 お兄様を狙う女子は肉食系が多い。きっと中等部でもお兄様は追っかけ回されていることだろう。


「だけど、雅人さんは中等部で一番注目を集めているから隠れて付き合うのは無理だと思うわ」

「学園の外の方でしょうか?」

「それなら隠す必要はないでしょ」


 それもそうか。


「まあ、私には雅人さんにそんな相手がいるとは思えないけどね」

「どうしてそう言い切れますの?」

「だって雅人さん、麗子ちゃんが大好きじゃない」

「まっ!」


 イヤン、舞香お姉様ったらぁ!

 麗子、嬉し恥ずかしっ、ポッ!


 でも、やっぱりそうよね!

 私とお兄様は結ばれる運命。


 日本のジョバンニとアナベラとはお兄様と私の事よ。

 あわれ私は娼婦であった——なんて悲しき禁断の愛!


「雅人さんは麗子ちゃんが婚約するのを側で見守りたいのよ」

「つまり、私のお相手を見定めていらっしゃると?」


 それって——


『麗子さんを僕にください!』

『お前に麗子はやらん!』

『お、お兄さん!?』

『お前にお兄さんなどと呼ばれるいわれはない、帰れ!』


 ——ってやつ?


 まっ、お兄様ったらとっても過保護!

 でも、そんなシスコンなとこも好き♡


 安心してくださいませ、お兄様。麗子はずっとお兄様の側を離れませんわ。


「だから雅人さんに付き合っている人はいないわよ」

「ですが、お兄様もお年頃ですから、想い人の一人や二人いてもおかしくありませんわ」


 すぐ可愛い子に浮気するものじゃない。男の子だもの。きっと私が大人になるのを待っていられなかったのね。


 男の人っていつもそうですね…!

 妹のことなんだと思ってるんですか!?


「そんなに気になるなら直接聞いてみたら?」

「もう糾弾いたしましたわ」

「きゅ、糾弾?」

「はい、誰とお付き合いしているのか徹底的に問い詰めましたの」


 なかなかゲロってくれませんでしたので、しつこくしつこく、それはもうしつこ〜く問いただしたの。


「けっきょく白状なさってくださいませんでしたわ」


 ん? 何ですか舞香お姉様? そのあ残念な子を見るような目は?


「完全な冤罪よね……雅人さんかわいそう」


 何をおっしゃるウサギさん。世の兄は妹を何より優先する義務があるのよ。


「その代わりと言うわけではありませんが、ギモーヴのお礼にデートの約束を取り付けましたわ」

「あら、雅人さんとお出かけ? それは良かったわね」

「はい、とっても楽しみです」

「どこへ行くの?」

「お兄様はどこでも良いとおっしゃられるので動物園にしようかと」

「えっ!?」


 舞香お姉様が驚いていらっしゃるけど……どうしてかしら?


 動物園と言えばデートスポットの定番じゃない。


「しかも、ここの動物園は触れ合いコーナーがあるんですの」


 あれこれ探したのよ。そしてこの動物園を見つけたのだ。ここは色んな動物とキャッキャッウフフできるの。動物バスもあってライオンなんかの大型獣も至近距離で見られるんだって。


「しょ、正気なの麗子ちゃん?」

「何かおかしいでしょうか?」


 私はとっても動物園へ行きたい。なんせモフモフに飢えているから。だってマダラさんがまだデレ期に突入してくれないんだもん。くすん。


 もうすぐなのだ。ツンツン具合が最近さらにマシマシになってきた気がする。これはきっともうすぐデレる前兆に違いない。ツンツンの反動できっとマダラさんは私にデレッデレになるわ。


 それまでの繋ぎとして動物園でモフモフを補充するの。


「ねえ、それは雅人さんに相談した?」

「いいえ、今日これからお話しするつもりでしたので」


 なんで舞香お姉様はホッとしてるん?


「私は遊園地の方が良いんじゃないかって思うの」

「遊園地ですか?」


 ふむ、遊園地も悪くない。デートスポットとして秀逸な定番ね。だけどなー、私はモフりたい気分なんだよなー。


「そっちの方が雅人さんも困らないだろうし」

「どうして動物園だとお兄様が困りますの?」


 全く意味が分からん。


「だって麗子ちゃんの悲しむ姿は見たくないはずだもの」

「私がどうして悲しみますの?」


 いったい舞香お姉様は何のお話をされておられるのか。わけわかめ。


「ねっねっ、遊園地にしましょうよ」

「どうして舞香お姉様がそんなに必死なんですの?」


 私とお兄様のデートなのに。


「えーと、そうだ、美咲と遊園地へ行こうって話をしていたのよ。楽しそうだなって思ってお勧めしてみたの」

「まあ、そうなんですの」


 もうずいぶん長いこと美咲お姉様にお会いしていないわ。


「美咲お姉様にお会いしたいですわ」

「美咲も会いたがっていたわ。あの子、麗子ちゃん大好きだから」


 私も綺麗なお姉さんは大好きですよ。相思相愛でゲスな。げへへへ。


「美咲お姉様はお元気にされておられますか?」

「ちょっと今は忙しくしているわね。その気分転換に遊園地も良いかなって」

「そうなんですの」


 初等部をご卒業されてから美咲お姉様にはお会いしていない。きっと大人っぽく綺麗になられているんだろーなぁ。


 会いたいなぁ。

 あっ、そうだ!


「でしたら私も遊園地にしますので、ご一緒しませんか?」

「美咲は喜ぶと思うけれど……いいの? 雅人さんとのせっかくのデートなんでしょう?」

「構いませんわ。美咲お姉様とも久方ぶりにお会いしたいですし」

「それじゃあ美咲に連絡しておくわ」


 やっふー、お兄様と美咲お姉様と舞香お姉様の三人を独占よ。


「あっ、そうだ、せっかくだし和也や瑞樹も呼んで良いかしら?」

「まあ、お二人をですか?」


 ニヤッと舞香お姉様が笑うので、私は満面の笑顔を返した。


「絶対イヤです!」


 あいつら呼ぶの止めてよね。


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