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第68話 麗子様はお兄様とデートする。


 やっふー!


 あーあー、本日は晴天なり、本日は晴天なり。


 さてさて三月も終盤、お兄様の卒業式も無事終了よ。


 私はできる妹だから、きちん祝福の言葉を添えてお祝いの品を贈った。プレゼントしたのは今治いまばりのスポーツタオル。実用品だし小学生にも手を出せる無難な選択だろう。


 使い心地は試している。かなり良いのよコレ。お兄様も喜んでくださった。きっと高校で使ってくださることだろう。


 そして、私も終業式を終え春休みに突入。ってなわけで、本日は約束したお兄様とのデートなのだ。


 見上げれば一面に雲一つない青空が広がっている。これは絶好のデート日和よね。


 春うらら。


 春の穏やかな日差しが全てを明るく照らし、見るもの美しく見せる様。この「うらら」、元は「心」を意味する美しい大和言葉だ。漢字で書けば「うらら」である。


 ふふふ、まさに私の名前「麗子」に通じるものがあるな。美しく雅な私にぴったりよね。名は体を表すとはよく言ったものだ。


 春のうららの隅田川♪

 のぼりくだりのふなびとが♪

 櫂のしずくも花とちる♪

 ながめを何にたとうべき♪


 思わず口ずさみたくなる瀧廉太郎の『花』にも使われ、何とものどかな情景ながらも春を美しく表現している。


 やはり麗子とは美しいものの代名詞なのね。そして、私こそ全国数万人の麗子の頂点、麗子・ザ・麗子なのである。異論は認めない。


 さて、そんな春ではあるものの、三月はまだまだ肌寒いのだ。なんで今日の私のコーデはちょっと暖かめよ。


 白のシャツにベージュのロングトレンチスカート。腰のリボンベルトが可愛らしさを残しつつ、ダブルに並んだボタンと大人っぽさを演出してくれるのだ。そこに薄いピンクのカーディガンを羽織る。これでシックな雰囲気の中にも愛らしさのアクセントが加わった。


 完璧だ。


 姿見にはどこからどう見ても大人っぽい楚々たる美少女が映って……あれれ?


 楚々じゃない感ハンパなし。


 どうしてなの!?


 なんとなく威圧感が拭えない。私としては清らかで控え目なコーデにしたつもりなのに。おかしいなぁ。


 うーん、どこで間違えた?


 迎えに来たお兄様は私の恰好を見てニッコリ。


「今日の僕のお姫様はずいぶん大人っぽいんだね」

「似合いませんか?」


 迎えに来てくれたお兄様の前でくるりと回って見せる。スカートの裾が翻る様はそこはかとなく可愛い……はずよね?


「いや、良く似合っているよ」

「本当に?」

「うん、とっても凛々しくて綺麗だよ」


 お兄様は褒めてくれたけど、凛々しいんか。やっぱか弱いお嬢様っぽくはないんか。


 うーん、原因はやはりドリルか?

 このドリルの攻撃力が高いんか?


 激高の螺旋力が私をあまりに逞しく見せるらしい。くすん。


 さて、準備も整いお兄様のエスコートで舞香お姉様との待ち合わせ場所へとレッツらゴー。


 お兄様と手を繋いで歩けば誰が見ても美男美女のカップル……と言うより面倒見の良い優しいイケメン兄とそれに寄生する幼いドリラー妹の微笑ましくも残念な姿だ。


 フツー美男美女が並べば嫉妬の視線を浴びるもの。なのに周囲の視線が生温かいぞ。完全にみんなほんわかしとるがな。


 どうやらお兄様と恋人に見られるにはまだまだ色っぽさが足りぬらしい。もっと精進せねば。


 待ち合わせの場所に到着すれば、なんだか騒然としていた。なんだなんだ、人だかりができとる。


 んー、映画かドラマのロケでもあるんか?


 どれどれ。


 おお、なんか凄い美女がいるぞ。しかも二人も。視線を奪われ隣の彼女から肘鉄食らう男どもが続出。本能に従っただけなのに憐れよのぉ。


 しっかしホント美人じゃ。どこの女優かなって眺めてたら目が合っちゃった。


「あっ、麗子ちゃんに雅人さん」

「わあ、久しぶりね麗子ちゃん」


 なんと美咲お姉様と舞香お姉様じゃあーりませんか。


 うわぁっ、見違えちゃいましたよ。私服姿が眩いばかりに輝いておりますなぁ。それにとても大人っぽい。


 舞香お姉様は真っ赤なオフショルにタイトな白のスキニーパンツ。ラフな服装なのにピシッと決まってる。


 スキニーパンツは着こなすのが難しいのになぁ。それなのに舞香お姉様ったらスタイルが良いからめっちゃ似合うんよ。こんなん私には選択でけへん。さすが舞香お姉様。


 うん、はっきり言ってカッコ可愛い。男だけじゃなくって女性陣も見惚れてるもん。男役でタカラジェンヌになれそう。かく言う私もはわわ状態です。


 お隣の美咲お姉様もとってもキレ可愛い。まるでお姫様よね。まあ、久条家は公家でも最高の家柄、五摂家の筆頭だから正真正銘のお姫様なんだけど。


 気になるお姉様のコーデは薄い桜色のトレンチスカートに真っ白なシャツ。上からはライムイエローのカーディガン……


「麗子ちゃん、服がお揃いね」


 なんてこった、まる被りしちまったい!


「うふふ、並んだら姉妹みたい」

「美咲様と姉妹だなんて光栄ですわ」


 かたや大人コーデを完璧に着こなしている美少女。美しい、マジ美しい。まさに天より舞い降りた女神様。ご利益がありそうだ。ありがたや、ありがたや。


 かたや大人コーデに完全に着せられている微少女。微妙や、マジ微妙すぎ。まさに天へと巻き上がるドリラー。なんか祟られそうだ。恐ロシア、恐ロシア。


「やーん、麗子ちゃん可愛い!」

「お、恐れ入ります」


 はしゃぐ美咲お姉様。あなたの方が十数段上方に可愛いです。並んだらそれが如実や。


 くそっ、七夕の織姫の時と言い、どうして同じ服着てこうも差があるんや。いや、同じだからこそ余計に差が出るんか。


 だがおかしい。


 私もビスクドールの如き色白で整った顔立ちの美少女のはず。なのに美咲お姉様と比べると途端に微少女になるのはなぜ?


 そんな微妙な私の心境などつゆ知らず、美咲お姉様がいつもよりテンション高めで抱き着いてきた。


「ああん、麗子ちゃんと本当の姉妹になりたい」

「私も美咲様を実のお姉様のようにお慕い申し上げておりますわ」


 それってお兄様と結婚したいってことですか?

 だけど、それだとドリラー姉妹一直線ですよ?


 むむむっ、だけど美咲お姉様が髪型まで同じにしたら更に差が出るじゃん。かたやお蝶夫人かガラかめの亜弓さん、かたや性格が顔面に出るキャンキャンのイザイラ。


 これは間違いなくお母様は私より美咲お姉様を可愛いがる未来しか見えん。


 はっ、もしや私イラン子なのでは?


 さすがのお母様も実の娘を捨てるようなマネはしないと思うけど……お母様、しませんよね?


『今日から美咲さんが私の娘よ』

『お母様の娘はこの麗子ですわ』

『ごめんなさい、麗子は可愛いけど美咲さんは超可愛いのよ』

『そ、そんな~』

『我が家にドリルは二人もいらないのよ』


 いやぁぁぁお母様、捨てないでぇ!


「いくら久条家の頼みでも可愛い妹は渡さないよ」

「あら残念」


 破滅する自分の妄想に青くなってたら、美咲お姉様からお兄様がヒョイっと私を奪還した。それに対し美咲お姉様が頬に手を当ててクスッと笑う。


「久条家の問題に麗子を巻き込まないでくれるかな」

「私は純粋に麗子ちゃんが可愛いだけですわ」


 お兄様と美咲お姉様が笑い合っているけど、どうにも目が笑ってなくて不穏な空気が……えっ、なに、ちょっと恐いんですけど。


 どうしたんだろう。お兄様と美咲お姉様は仲悪くなかったはずなのに。


「ああ、これは美咲を連れてきたのはまずかったかなぁ」


 苦笑いを浮かべ舞香お姉様が頭をぽりぽり掻いた。


「あわよくば雅人さんと美咲がくっつけばって思ってたんだけど」

「そんな話も一時期ありましたが……」


 お母様が私と滝川、お兄様と美咲お姉様をくっつけようと画策していたことが以前あった。お兄様が腹黒い笑顔ひとつでぶち壊したけど。


「うん、だから美咲のお祖父様も雅人さんなら反対はしないと思ったの」

「いったい何のお話なんですの?」

「今の美咲は正念場ってこと」


 ますますワケが分からん。


 舞香お姉様の謎の言葉に私が首を捻ったその時——


「美咲!」


 美咲お姉様を呼ぶ声が周囲の人垣から突き抜けてきた。


 あれ? この声どっかで聞いたような?


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