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第70話第 麗子様は恋の鞘当てに惑う。


「早見君が来てくれて助かったよ」


 お兄様、そんな真っ黒黒介な笑みを浮かべては感謝しているように見えませんわよ?


「いえいえ、僕でお役に立てるのでしたらこれくらい」


 それを暗黒面に染まった笑顔で返す早見も大概やが。


 はたから見れば和やかに談笑している二人。だけど私には見える。二人の笑顔の裏に隠れている黒さが。あまりに真っ黒だ。


 ここだけまともじゃあねえ…………異常だ!

 お互いの黒さに自分と同じ臭いがして怒っているのか!

 こいつらの精神こそ暗黒面空間だッ!


「だけど、君の時間を奪うのは心苦しいからもう帰っても良いんだよ?」

「和也が帰ってしまって時間が浮いたので僕のことはお構いなく」


 なに牽制しあっとるん?


 おかしい。ここは家族から恋人達まで集うのどかでほんわかピンク色な遊園地のはずなのに。私達の周りだけ黒い闇夜なのはなぜ?


 そう、いま私は遊園地へ来ている。それと言うのも、どこから嗅ぎつけたのか早見のヤローが登場したせいだ。


「僕は和也についてきてたまたま居合わせただけだからね」

「……何を仰っておられるのか分かりませんわ」

「そう? どこから嗅ぎつけてきたんだこいつって顔をしてたけど」


 ちっ、この眼鏡は相変わらず人の心を読みやがる。


 チクショー。こいつさえいなければホントは今頃モフモフタイムのはずだったのに。


「私はどのアトラクションにしようか迷っていただけですわ」

「ふふ、清涼院さんの乗りたいものなら何でもお供するよ」


 こいつ小学生のくせにやたら大人の対応しやがる。最近、早見はちょっとお兄様に似てきたんじゃね?


「麗子、早見君は僕とは違うよ」

「……何を仰っておられるのか分かりませんわ」

「いま早見君が僕に似てきたって考えただろ」


 イヤン、お兄様ったら相変わらず麗子の気持ちをご理解していらっしゃる。んっもう、お兄様と私は一心同体なんですのね。


「なんだか雅人さんとの扱いの差を感じるんだけど」


 気のせいじゃありません?


「それで最初のアトラクションはどれにする?」

「メリーゴーランドなんて良いんじゃないかな。麗子好きだろ?」


 メリーゴーランドかぁ。好きやけど子供っぽいよねぇ。乗りたいなんて言ったら幼稚だって言われないかしら。


 乗りたいなぁ。でも恥ずかしいなぁ。


「ここにはちょっと変わった馬車型があって人気らしいよ」


 もじもじ悩んでたら早見がすかさず助け舟を出しよった。私に恥をかかせんよう「大人にも」ってさりげなく付け加えるあたり、さすが未来のドン・ファンや。


「まあ、箱馬車ではありませんのね」


 屋根の無いオープンタイプの二人乗り。デザインも洗練されている。どうやら大人のカップル向けのようだ


「ちょうど四人だし二組に分かれて乗ろうよ」


 ねっ、良いでしょと、まるで早見の方がお願いしているかのよう。ホントは私が乗りたいのに。女の子のプライドを傷つけない気配りまで完璧だ。


 くっ、未来のドン・ファンよ、小学生のくせにどこまでモテテクを駆使してくるねん。さすがの私もドキドキよ。


 早見がふわりとした笑顔を浮かべる。悔しいがカッコいい。なんせ前世の私の好みど真ん中だからなぁ。


 くっ、鎮まれ私の心臓よ。こいつは堕天使、こいつは腹黒、こいつは私のはめフラ……


「さっ、行こう」


 は〜い。


「へぇ、良いね」


 くらっとスケコマシの魔の手に堕ちそうになりフラフラと早見の手を取ろうとしたら、お兄様の横槍が入った。


 はっ、私はいま何をしようと。


 危ねぇ危ねぇ。早見の手なんか取ったら破滅へ向かって超特急だったぜ。


「それじゃあ麗子、僕と一緒に乗ろうか」


 爽やかな笑顔でお兄様が当然にように私の肩を抱き寄せた。ああん、私の白馬の王子様はやっぱりお兄様ですわ。ちょっと腹黒が混ざってるけど。


「いやいや、バランスを考えたら僕と彼女、舞香さんと雅人さんの組み合わせでしょう」


 途端、早見がグイッと腕を引いて私をお兄様から奪い取る。


 イヤン、早見ったら強引すぎぃ。ポッ。でも、ちょっと嬉しいかも。


「親しい者同士で乗る方が良いだろ?」


 すぐさまお兄様が早見の手を払って私を奪い返す。


 もう、お兄様ったら独占欲強すぎぃ。ポッ。でも、そんなお兄様もス・テ・キ。


「僕と清涼院さんは級友ですよ」

「そうだけど僕と麗子の間には十年以上の歴史があるしね」

「過ごした時間が親密度の深さに直結するわけではありません」

「そうだね。でも、時間も親密度も勝る僕と麗子の間に早見君が入る余地はないかな」


 お兄様と早見が笑顔のままバチバチ火花を散らしてる。


 二人のイケメンが私を巡って争うなんて。


 まさか私を巡って恋の鞘当てですか?

 なんです、この乙女垂涎のシチュは?


 じゅるり。いかん、ホントにヨダレが。美少女にあるまじき失態を犯すとこだったぜ。


 ああん、だけどどっちと乗るのが良いかしら。麗子、迷うぅ。こんなん揺れ動く乙女心やねん。どっちも同じ腹黒タイプだけど。


「なに二人とも子供みたいに争ってるの」


 二人の静かな争いに私がオロオロしてたら、突然、背後から呆れた声が上がった。


「そんなんじゃ可愛いお姫様をトンビに攫われちゃうわよ」

「舞香様!?」


 振り返ればちょっと悪戯っぽく笑う舞香お姉様がスッと手を差し出してきた。それはまるで凛々しい王子様のよう。


「麗しのお姫様、私と一緒に乗っていただけますか?」

「はい、喜んで!」


 イヤン、お姉様に私の乙女のハート撃ち抜かれたねん。こんなん誰だって迷わず手を取っちゃうに決まってる。


 私の白馬の王子様は舞香お姉様だったみたい。舞香お姉様のエスコートで私は優雅に馬車へ。


 その舞香お姉様は私の隣に座る前に振り返って呆然と見送るお兄様と早見にパチンッとウィンクした。


「麗子姫は私が頂いていくので、そっちは二人で乗ってね」

「「えっ!?」」


 出し抜かれたお兄様と早見が顔を見合わせて目をパチクリ。そして、すぐにイヤそうに顔を顰めた。そりゃあ男同士でメリーゴーランドに乗りたくはないわよね。


「あの二人でメリーゴーランドに乗るのは見ものね」


 その様子を見てくすくす笑う舞香お姉様も意外とくろ〜い。


「あら、お兄様と早見様が並んで乗られたら女性陣は喜びそうですわ」

「まあ、顔は良いから眼福ではあるわね」


 馬車に並んで座るオーギュ雅人とセルジュ早見。

 ほぅ、これはなかなか麗しい。いかん、鼻血が!


 滝川×早見、お兄様×滝川のカプしか妄想していませんでしたが、腹黒×腹黒ですか。ふむ、これはこれで悪くない。


 このカプは盲点でしたわ!


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