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第80話 麗子様は放課後なにしてますか?忙しいですか?救ってもらっていいですか?


 菊花会クリザンテームのサロンへ行ったらズーンっと沈んだ表情の滝川がいた。


 陰気くせー。


「……ごきげんよう」


 声をかけたら滝川はチラッと顔を上げたんだけど……


「清涼院か……」


 すぐ沈黙。


 暗い。暗すぎる。


 さすがに大人しくなり過ぎだろ。顔色も良くない。美咲お姉様にフラれたんがよっぽど堪えたんか。うーん、ここまで落ち込むとはなぁ。


 さすがにちょっと可哀想になってきた。美咲お姉様の婚約を知ったら自殺でもするんじゃないか。それくらい思いつめてやがる。まるで幽鬼のようだ。


 これは揶揄うのは止めておこう。マジで自殺されたらかなわん。


「やあ、清涼院さん」

「ごきげんよう、早見様」


 対照的に早見は満面の笑顔だ。ここんとこ早見の機嫌が良い。ちょうど春休みが明けたくらいからだ。


 しつこい便秘でも解消できたか?


「和也は一人になりたいみたいだから、あっちで一緒にお茶にしようか」

「早見様と二人でテーブルを囲むのはご遠慮いたしますわ」


 こっちはコイツのせいで火消しに大変だっつーのに。


「僕とお茶するのはそんなに嫌?」

「早見様はあの噂をご存知ありませんの?」


 いま学園内には私と早見ができてるゥゥゥ説が流れているのだ。どうやら春休み一緒に遊園地へ行ったのを目撃されてしまったらしい。誰だ、無断でリークしたヤツは。


 お陰で休み明け早々、教室に入ったら楓ちゃんと椿ちゃんから「早見様と遊園地デート素敵です」って言われて仰天したぞ。


 きちんとお兄様とのデートだと訂正はしておいた。早見はただの金魚のフンに過ぎないとも。だけど二人からは「そういう事にしておきます」ってにこにこ笑いで返された。あれは信じてねぇな二人とも。


「うん、知っているよ」

「ならこれ以上の流言はお互い不愉快でございましょう?」


 新学期も始まって二か月ちょい、やっと噂も鎮火してきたのに再燃してはたまらん。あんまり早見といると恋仲なんてデマが広まりかねん。


 面白おかしく噂を流すヤカラは多いからな。我が清涼院陣営にも多数いるぞ。楓ちゃんとか椿ちゃんとか。迂闊と粗忽も怪しい。まさに獅子身中の虫。


 ゴシップは好きだがゴシップネタになるのは絶対お断りじゃ。


「どうしてついてこられるんですの!?」


 だと言うのに、せっかく端っこへ移動した私の背後から早見がついてきて同じテーブルに座りやがった。


「だから私に近寄らないでくださいませ」


 シッシッ、あっち行け。こんな隅っこで二人っきりなんて、逢い引きしていると勘違いされるじゃねぇかよ。


「そんなに邪険にしなくても良いじゃない」


 しかし、早見はやたら笑顔を振り撒いて近寄ってきやがる。


 ホント機嫌が良いな。よっぽど酷い便秘だったのか。まあ確かに、便秘が解消するとスッキリ晴れ晴れとした気分になるもんな。


「私と恋仲だなんてデマが広がっては早見様とてお嫌でしょう?」

「別に」


 私は嫌じゃ!


「私に構うよりも親友の心配でもなさったらいかがですの?」

「和也のあれはなぁ」


 私の視線を追って早見も一人沈む滝川を見て苦笑い。菊花会クリザンテームのメンバーもみんな遠巻きにして腫れ物に触れるような扱いだ。


「前にも申し上げたはずです。寄り添って差し上げるのが真の友情だと」

「うん、そうなんだけど……今回のは、ねぇ」


 曖昧に笑うところ見ると早見も美咲お姉様の婚約の情報を得ているな。早見もどう対処したものか困っているのか。


 知らぬは滝川ばかりなり。滑稽だ。憐れだ。あまりにピエロだ。


 滝川の悲喜劇に涙が止まらない。

 ちょっとは優しくしてやろうか?


「仕方ありません。私が少し励ましてきますわ」

「うーん、清涼院さんが行ったら逆効果だと思うけどな」

「どうしてですの?」

「だって和也が落ち込んでいる原因は清涼院さんだから」


 私が悪いって言うんか。


「滝川様が落ち込んでおられるのは美咲様から袖にされたからではありませんの?」

「それもあるけど、それについては以前から変わらないし」


 うんまあ、美咲お姉様はずっと滝川にテメェとはないっておっしゃっておられましたらもんねぇ。


「聞いたよ久条のご老公の件」

「それが原因だと?」

「同い年の女の子が大人達を相手に大立ち回り。まざまざと差を見せつけられればショックも受けるよ」


 私だって好きでやったわけじゃないやい。


「あれは滝川のおじ様の仕込みもありましたし、何より運が良かっただけですわ」

「だとしても、僕らには同じ事なんてできないしね」

「それは私もですわ」


 また同じ事をやれって言われてもできんからな。


「私達はまだ幼い子供でしてよ。滝川様はご自分にできる範囲を過大評価されておりますわ」

「清涼院さんは自分を過小評価しているけどね」


 そぉんなことはありませんわよぉ。私ってば絶世の美少女だってちゃーんと自覚しておりますもの。おーっほっほっほ。


「だったら、なおさら早見様が滝川様を励ますべきではありませんの?」

「今の和也には冷却期間の方が必要なんだと思う」


 立ち直るまで待つってか。それってメンドーだから放置するってことだろ。


「それに僕も今は自分の悩みで手一杯なんだ」


 自分の悩みだと。やっぱり便秘か。薄情なやつめ親友より自分の便秘の方が大事なんか。


「ならば、私に構っているお暇はないでしょう?」

「いや、だから構っているんだけど」


 意味が分からん。コイツの悩みと私とお茶をするのがどう繋がるねん。


「とにかく私は忙しいので邪魔をしないでくださいませ」

「何を見ているの?」

「各クラスから提出された修学旅行の計画書ですわ」


 もう六月も終わりに近い。一ヶ月もすれば夏休み。それが明けたら我が五年生は京都への修学旅行だ。


 菊花会クリザンテームの役員である私はその準備に追われている真っ最中なのじゃ。だから、とーっても忙しいの。なんで早見どっか行け。


「僕も手伝うよ」


 ヒョイッと早見が私から書類を半分奪う。お前、自分の悩みで忙しかったんじゃねぇんか。


「僕らの修学旅行だし、無関係じゃないからね」


 そう言って笑う早見はやたら機嫌が良さそうだ。やっぱり便秘が解消してスッキリしたんか。よっぽど酷い便秘やったんやな。


 こっちは早見との噂を払拭しながら菊花会クリザンテームの仕事をこなさにゃならず天手古舞だってのに。


 くっそー。どうにかして早見に会長を押し付けられんものかなぁ。


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