……さて。もう『余生』の話になる。
俺は大陸横の島に渡ってから数年であっさり死んだので、ここからは現在静謐の話をまとめたものになる。
その後の世界の状況は【静謐】がいくらか実況してくれたのだが、これがまあひどいものであった。
【解析】が広めた魔術は、海を渡り、大地を染め上げ、人々に力を与えまくった。
魔術は戦争をしていた【編纂】と【変貌】の大陸に流れつき、その戦争に第三者として加わり、二つの竜の軍勢を平げてしまった。
魔術とともに【解析】のシェアはどんどん広がっていき、ついに六つあった大陸のうち四つまでが魔術師どもに支配された。
四柱の
残る二柱の竜は位置関係の問題で魔術の侵略をしばらく受けずにいたが……
百年、二百年と時間が流れ、技術が進歩し、ついに【解析】を崇める魔術軍は、【躍動】のいる大陸にまで到達した。
……さて、始祖竜はいちおう、リアルタイムで他の姉妹の記憶を共有できる。
【解析】は前回の周回のように記憶の共有を切ることもなく、自分のまいた種である魔術軍の動向を余さず
なんと【躍動】、その一切を
よって魔術を覚えた軍勢が自分の大陸に来たところで対処法はない。
【躍動】を信奉する者たちは魔術軍に狩られ、あるいは恭順して【解析】信者へと寝返った。
シェアが奪われ続けていく中、【躍動】はあくまでもバランサーとしての職務だけをまっとうした。
つまり、増えすぎた人の間引きである。
魔術師たちは【躍動】なりの『増えすぎた』ラインを超えた端から、【躍動】により間引かれていく。
いかに魔術を修め、超長距離を移動する技術さえもった軍勢とはいえ、始祖竜には歯が立たない。
それはシェアのほとんどを失っても変わらない、人と竜との基本的性能差だった。
そうして竜の圧政とも言える『間引き』が五十年も続いたころ、災厄が誕生した。
この周回における第一にして最後の災厄の名は【報復】であった。
つまり、仲間を殺されすぎた魔術師が竜に怒り、それを撃滅すべく活動を開始したのである。
【憤怒】を相手にはうまく立ち回った【躍動】だったが、五大陸を制圧せんとする魔術師の軍、それを殺しすぎたことにより生まれた【報復】は、前回周回の災厄たちの比ではなく強すぎた。
ほどなくして【躍動】は死んだ。
しかし災厄とは感情に呑まれて判断力を失ったものであり、【報復】はかつての魔王のようにその感情の制御などできていなかった。
【報復】は大陸を回り、【解析】を除く竜の信者を発見すると、これを殺して回った。
もちろん始祖竜そのものを発見しても、これを殺した。
【報復】による始祖竜弱体効果は、どの竜にも例外なく効いた。
……以前、【露呈】が魔導王=第四災厄【守護】に対して『お前は災厄だけれど、自分より以前の時代に発生した災厄だから、自分はお前には弱体されない』というようなことがあったが……
今回、すべての竜が大陸こそ違えど同じ時代にいる。
そのロジックはどうにも、通用しなかったようだった。
第一災厄【報復】の快進撃は止まらない。
【変貌】が死に、【編纂】が死んだ。
いくらか抵抗もあったようだが、シェアを失った始祖竜が加護を与えた程度では【報復】には及ばず……
なおかつ、【報復】はすべての魔術師の守護者とみなされていたため、ほとんどが魔術師となった世界において、そもそも【解析】以外の始祖竜に味方する者自体が少ない。
ついに南の極点あたりでずんぐりむっくりした『水を泳ぐ鳥』とたわむれていただけの【露呈】さえも殺され、残る始祖竜が【解析】【静謐】だけとなってしまった。
【虚無】もいるようだが、【虚無】は世界で起こるあらゆることに干渉できないが、相手からも干渉されないという状態のようで、まず発見されないらしい。
というわけで第一災厄【報復】が次のターゲットにした竜は、
「そろそろ、我らの守護者には、我ら自身がなるべきだ。━━竜はもう、いらぬ」
ということで、自分たちに魔術をもたらした【解析】であった。
さて、災厄【報復】vs始祖竜【解析】というカードだが……
これは、第三者が乱入し、災厄も始祖竜もまとめて片付けてしまったようだった。
……ええ、いや、どうやって……?
「剣で」
現在静謐はそれで通じると言わんばかりに話を進めてしまったので、詳しい事情を聞くタイミングは逸した。
ともあれ━━こうして六大陸を治めていた竜のうち五柱が殺され、また、最後の一柱は自分の大陸を手放していたためか、発見されなかった。
災厄を殺したという謎の人物が始祖竜を殺しに来ることもなく、そもそも俺はすでに死んでいたし、【静謐】はそのあと、しばらく生きて世界を見守ったらしい。
で、ある日。
【虚無】が『そろそろいいかな』とばかりに宣言した。
「この周回は認められない」
そりゃそうですよね、という結論のもと、世界はまたリセットされ……
次の周回が、始まる。