なにが悪いって、魔術の伝来が全部悪い。
ということで、二回目のやり直しにおいて、『人に魔術をもたらさない』という制約が設けられた。
これには始祖竜【解析】がちょっとだけ反発したらしい。
「いやしかし、あの結末も彼らの選択だろう? 私たちは傍観者としてそれを尊重すべきなんじゃあないかと思うけれどね。第一、世界に竜なんかいらないと、私は思っているぐらいなんだよ」
本末転倒もいいところだ。
竜のために世界を作っているのに、その世界に竜がいらないと言い出しては、もう、なんのために何度もやり直しているのか、わかったもんじゃない。
当然ながら【解析】の意見を受け入れる
それは【解析】もわかっていたようで、仕方なさそうに制約を受け入れたらしい。
で。
「なぜ【編纂】と【変貌】は戦争を?」
【静謐】はたいそうブチ切れて聞いたらしかった。
始祖竜がなるべく多く生存できる方向を目指すというのは大原則のはずなのだ。
だというのに末妹の【編纂】と四女の【変貌】が戦争をおっぱじめたのだから、そりゃあ理由の一つも聞いておきたいというのは、自然だろう。
するとまずは【編纂】がこう述べた。
「人間のみなさん、かわいそうだったんだよ……がんばってもがんばっても、全部【変貌】姉様が、がんばりを認めてあげないし、がんばった成果を奪っちゃうから……」
これを受けて【変貌】は困ったように微笑んだそうだ。
「奪う、だなんて、そんな……私はただ、誰かが富めるたび、違う誰かが貧しくなることに耐えられなかっただけなのです……人は、人に優しくすべきでしょう? 誰かの貧しさの上に誰かの豊かさがあるだなんて、そんな、貧しい者がかわいそうではないですか」
「だからってがんばった人から成果を奪ったらダメだと思うんだけど!」
「努力は認めましょう。それは尊いものです。けれど、その結果として、誰かを踏みつけにして、それをかえりみることもなくなっては、いけないと思います。優しさを忘れてはいけません。そうでしょう?」
「そうだけど〜……でも、やっぱり【編纂】はがんばった人がかわいそうって思うんだよ。がんばったら報われるべきだし、その成果が不当に奪われたなら『返して!』って思うのは当たり前だよ!」
この二人を南北のほど近い大陸に置いたのがまずダメだったということに【静謐】は気付いたらしい。
しかし、そこの配置はこの周回では動かせない。
なぜなら、この周回での『変化』はすでに『魔術をもたらさない』というものに使ってしまっているからだ。
一つの周回のたびに、一つの変化。
そうやって少しずつ調整していくのが、始祖竜のやり方なのだった。
……全体的に、始祖竜たちには『失敗を恐れる』という思考が欠如している。
それは自分たちの聡明さ・頑強さから来る慢心ではなく、『何度もやり直せる』という事実から来る安心が理由だった。
トライ回数は無限であり、彼女らの時間もまた、無限なのだから。
こうして次の周回において、『始祖竜から人に魔術をもたらすこと』は禁じられた。
ただしそれは、『精霊』が消え去ったというわけではない。
精霊は人に感情がある限り発生するものだし、そもそも、始祖竜が人格を維持するためのエネルギー源でもある。
始祖竜は精霊を『消費』して人格を維持したり、奇跡を起こしたりするわけだ。
権能の原動力でもあるこれが消え去ることは、『始祖竜の人格存続を目標とする』大原則からして、ありえない。
つまり、ただ、人々に魔術を
魔術に気付けば……人が精霊が見えることを受け入れ、その
……次の周回の『失敗』は、そのあたりが鍵らしい。
そう、次もまた、世界は初期化を決定されるのだ。
今度は━━『魔王』の手によって。