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2:コンクリート要塞


私達は不思議な乗り物に乗せられ黒い道を揺られている、どうやって走っているのかわからないがドワーフは事もなげで当たり前のように丸い輪っかを握って右へ左へとこの乗り物を操っているようだった


「荷台ですいません」

低い声の人物、男というものなのだろう私達はあまり男性というものに面識がない、ドワーフ族よりも背が有り私達に似ているが耳が短い、なんという種族なのだろう?


「あの…助けて頂きありがとうございました」


「いえいえ、でも運が良かった今日はあの先で道路の拡張工事があったんです、そのための見回りでしたから」


「拡張?工事?」

男性はすまなそうな顔をして話を続ける


「この黒い道をもっと先に伸ばす作業です、でもあの魔物は初めて見ました。攻撃が通用してよかった」

勝てる確信があって攻撃したのではないみたいのに恩着せがましい素振りは見えない


「これは…先程の」

メーベが彼の使った弓に興味があるようだ


「触ってみますか?」

「良いのですか?」

「どうぞ」

メーベが手にとって見るが

「なんとも面妖な…いささか美しさに欠けますが…」

ゴツゴツとしていて弓らしくない形、それに何のためか滑車が付いている


「コンパウンドボウといいます。弦を引いてみて下さい」

言われるがままに弦を引くメーベ


「これは…途中から引く力が軽くなりましたぞ」

「そうなんです」

男性は穏やかに言う


「これならば的を狙う際にブレにくいですな、それでいてあの威力さぞ名の有る名工の手による物なのでしょう」


「…なんというか、それは標準装備でして」

「なんとこれが当たり前と?!」

魔物たちを次々と屠った力に私達は希望の光が指したように感じた

「こちらも説明してもらえないだろうか?」

メーベが乗り物に据え付けてある大型の弓を指さした

「えっと…ですねこれはこちらのワイヤー、金属の縄をねじりバネとして用いたバリスタになります」

見る限り全てが金属に思えるその巨大な弓、ドワーフと違いその手の類に疎い私達にでも解る、彼らの物を作る力は桁違いだ


彼らの力を借りることが出来れば里を取り戻せるかもしれない


そんな気持ちが確信めいたものに変わっていく、でもそれは彼らを私達の闘いに彼らを巻き込むことだメーベと目が合った、きっと同じ想いにかられているのだ


プップッー

突然の音に驚いた、この乗り物から発せられた音だった

「驚かせてしまいましたね、もうすぐ入口なので合図の音なのですよ」

「そうでしたか」

目を上げれば目に飛び込んできたのは白とも灰色ともつかぬ一面の壁


「あの、ここはドワーフの里でよかったのですよね?その、以前…もう数十年前なので変わっていて当たり前では有ると思うのですが…違いすぎていて」


「ああ、これは魔物の襲撃を防ぐためにドワーフさん達と共同で作った城壁とでも言えばいいでしょうか、一年がかりで出来たものなのですよ」


「たったの一年!?」

驚いてばかりだがたったの一年でドワーフの里を囲んでしまうなんて頭の理解が追いつかない

まだ間近で見た訳では無いが重厚そうでハリボテには見えない


「施工…工事自体は3ヶ月で終わる規模だったのですが、あいにく壁は取り扱ってなかったので壁の規格と型枠作りに時間がかかってしまいました」

途中から何を言っているのかわからなくなってしまったけれど、準備さえできていればこの規模を3ヶ月でやってのけると言っている尋常ではない


プー

もう一度音が鳴り城壁の前に乗り物が止まる

門の上のドワーフがラッパを鳴らすと目の前の壁がわずかに揺れたかと思うと右から左へと動き始めた


一体どんな仕組みなのだろうかと見ていると、私達が乗ってきた乗り物を遥かに長く大きくした物の上に壁を乗せているのだと車輪で気づけた


門の中は黒々とした道を除けば背の低いドワーフの家々が立ち並ぶ数十年前に見たのと変わらぬ風景、ただ所々に三倍以上の高さの真四角な家が見えた


その高い家の前に乗り物が止まると前から今度は小さな乗り物がやってきて止まる


「久しいなエルフの民よ」

降りてきたのは声と喋りからしてドワーフの族長だろう?疑問形になってしまったのはその出で立ち、ところどころが白い青いズボンに二の腕が見える薄い服


「時間がなかったものでな軽装ですまぬ」

やはり族長で合っているようだ、それにしてもいつ連絡を取り合っていたのだろう?


そう言えば乗り物の上で何度か男性が独り言を発していた、あれが私達のように連絡を取り合う秘術だったのだろうか?


「族長…時間はたっぷり合ったでしょう…すっかりこちらにかぶれちゃってちゃんとして下さいよ」

男性は軽い感じで族長にお小言を言っている


「そういうのは居ないところで言っておくれ、こちらの立つ瀬がなかろうて」

「しっかりしていれば言われなくて済むことです。あ~あ、出逢った頃は格好良い族長だったのにこんなにだらしない人だとは想いませんでしたよ悲しいなぁ~」


「ぐぬぬ…さっさと行くぞ」

もう良いと言った感じで族長が切り上げ私たちは彼らの言う事務所へと通された、入口ではぴっちりとした服装の女性がどうぞと言い、男性が頷いて履物を履くどうやら建物の中ではこれを履くらしい、私達も男性に習ってペタペタとする履物を履き個室に通された


「涼しい」

思わず声が出てしまったが部屋の中だと言うのに涼しい

「大丈夫ですか?寒ければ温度上げますけど」

この種族は部屋の暖かさまで操れるのか?!

「魔法じゃないですよ、まあ何処から電気が来てるのか分かりませんけど」

男性が悟ったように話すがデンキというのがなんだか解らない


コンコンとドアが叩かれ責任者らしき恰幅の良い男性が入ってきた

「おまたせしました」


「いえ、こちらが前触れもなく来たのですから…」

そこまでと言う意味だろうか男性が手で制す

「皆さんはこちらにいるクレイ君の言葉ではエルフと呼ばれる種族だそうですが合っていますか?」


「はい、エルフ族の一部族カンディアーナ部族、族長が娘クリシュナと申します」

「うむ、母君とよく似ておる、工場長わしが保証するこの娘はカンディアーナの娘に違いない」

ドワーフの族長が目を細めて微笑み

「頑固者の父親に似なくて何より」

一応顔を立てますが、娘の目で父の悪口は言ってほしくないもの、そう言えば父もドワーフのくせにああだこうだと言っていた気もする


「状況から鑑みてあまりよろしくない状況だと察しますがそちらの事情を聞いてもよろしいかな、此処を預かるものとしては安全第一で事を進めたいのでね」


口調は穏やかだが工場長と呼ばれた男性の目は笑っていない、隣に座る助けてくれたクレイと呼ばれる男性もだ、此処が正念場かもしれない


此処を追い出されてしまえば私達に未来はない、かといってそのために嘘や大げさに言えば信用されずそれもまた追い出されてしまうかもしれない、主導権はどうあがいても向こうにある、正直にありのままを伝え向こうがどう判断するか委ねるしかないと思った


「お話いたします。我らに起こった一部始終を…」

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