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3:保留(エルフ、フォークリフト講習を受ける)

結果として、私達はこのドワーフの里もといドワーフと人種の里に留まることを許された




里を取り戻すための支援は保留、彼らの説明は的を得たものだった




彼ら自身が突如としてこの世界へ飛ばされた種族でありこの世界の理を知らない




守ることは出来ても攻めに出れるような兵器も人も居ない




保留とし解决できるようならば支援、またはこちらが同じ勢力と敵対・対峙するならば手を貸す




ドワーフも同調でここの里に居ること自体は不問、敵対しうる勢力に関してはできる限りは交渉を是とする




というものだった。




クレイさんからは申し訳ないと謝られたが彼らが謝ることではない。全てはこちらの都合なのだから




彼らもまた生まれ育った地を強制的に離れたことを思えば気持ちが解らなくもない。圧倒的な力を持ちながらも聞けばここに来た際は元は80人居た同族の人種もはんぶんの40人にまで減っているのだという、理由は様々、帰りたいと仲間を募り彼らの乗り物『車』を奪い外へ出て帰ってこなかった者、未知の世界で魔物に襲われ帰らぬものになった者、私達から見てどんなに幸せそうに見えても彼らにしか解らぬ悲しみがあるのだ、それは私達も同じ気持ちだ、彼らの気持ちは里を失い帰れぬ私達と変わらぬほど大きいと心に止める




ここに居させてもらえるというのは彼らが私達の気持ちを汲んだできる限りの思いやりなのだ、贅沢は言えない




初日は疲れも考慮に入れて頂き、事務所兼クレイさんの住まいに泊めていただいた、元々はクレイさんの上司の社長という方が一家で住まわれていた場所らしくそんな所をお借りするわけにはとお断りしたのだけど今から用意できる場所がここしかないのでと押し切られてしまった




男がいると嫌でしょうとクレイさんはそそくさと別宅へ行ってしまい断るのは失礼と使わせていただくことに




部屋の使い方は壁に貼られていていつこんな事をしたのだろうかと感心してしまう、こちらの言葉が苦手なのか少し字は汚いけど気持ちが伝わる文字に久しぶりに心が安らぐ




驚いたのはお風呂、つまみ一つで温冷が切り替えられるのよ!温くなったらこのボタンを押してくださいと書かれていて初めての不思議なお風呂でも常に温かいお湯を使うことが出来た




駄目な人間になってしまいそうだ、こんな物を持っていて自分を律することが出来るのだから人種はすごい…などと思っていたらのぼせてしまった。お小言を言うメーベも心做しか緩い




ここまで緊張のしっぱなしだったのだ気持ちが浮くのも仕方がない




その日私達は久しぶりにぐっすりと眠った…翌日起きたのは昼過ぎだったが誰も起こしに来ることはなく彼らの気遣いに感謝した




眠りすぎたせいかむくんでしまった顔を他人に見せるのが恥ずかしいと思っているとメーベから声が掛かる




「姫様、お風呂の水も湯も使い放題で良いとのことです」


何処まで見透かされているのかと思うと少し怖いが使わせていただく、お風呂に浸かりながら思う




漠然と明日が続くと思えたのはいつ以来だろう




昨日まではいつ死ぬのだろう、私の代で種が途切れるのじゃないだろうかそんな事ばかり考えていた




「大丈夫ですか」




と声を掛けてくれたクレイさんの顔が浮かぶ、一体私は何を考えてしまっているのか、のぼせる直前でメーベからのお小言が飛んできて事なきを得た




お昼を回って準備が整った頃、場内見学でもいかがですかとクレイさんからの申し出を受けて私達は飛びついた、今の私たちには出来ずとも後学に…それにただの居候で居るのは忍びない、なにかお手伝いできるものがあればよいと思ったのだが、その期待はすぐに裏切られることになる




場内の粉塵が体に悪いということでヘルメットにマスクとゴーグルを装着する透明なゴーグル一つとっても彼らの技術に驚いてしまう、ガラスではなくプラスチックというのだ作業着も新品を貸していただいた、そして工場の中は異世界、いや実際異世界から来たのだから間違ってはないが異次元過ぎて私達がどうにかできる代物ではないことだけが解った




どうあがいても動かせない重さの物体が門型クレーンというもので運ばれる姿や、目が見えなくなるから直接見ないで下さいと言われた溶接という金属を繋げる作業など、視界に入るものはすべて新しくて頭が壊れてしまうかと思った




圧巻という言葉がこれほど遭う光景もないだろう




「クレイさん、此処にある機械と呼ばれるものは一体何で動いているのですか?」




「この操作盤やリモコンで…」


「いえ、そういう事ではなく、弓ならば引手が居なければならぬように機械もなんと言いましょうや…」




「動力ですね、それならばここの裏手に熱動力炉と呼ばれる動力源がありますそれを元に動いているのですよ」




「そんなものがこの世に…」


「私達の世界では常識…これがなくては日々の生活もままならない程のものでして」


彼は説明しながらも何処か申し訳無さそうなのが気になった




クレイさんが都度説明をしてくれるのだが、その度語尾に申し訳ないと付いてくる、何故なのかと思い訪ねてしまった




聞けば、彼らは向こうの世界で大きな天変地異に巻き込まれ職を失いそれをこの会社というものに救ってもらったのだという




だから私達の里へ帰りたい気持ちが解るつもりだという、それを援助できないことに申し訳ないのだという、彼はいつか自分のように困っている人間を助けたいと思っていたくれていたのだ




「クレイー!」


ドワーフの子供が手を振っている、そこかしこで見られる光景から彼が此処で好かれているのが解る




場内を一周し工場の事務所前に戻ってきたところで停まっている黄色い乗り物についてメーベが質問し始めた、ふぉーくりふとと呼ばれる荷物を運ぶ為の乗り物であちらこちらで見かける




「これはなにか特別な人間にしか乗れないのでしょうか?」




「ん~本来なら資格が必要で講習を受けないといけないものなのですが…こちらの世界ではそういった物もありませんし」


「私でも乗れるのですね」


若干食い気味にメーベが聞けば




「乗ってみたいで」


「はい!」


工場の許可を取ってクレイさんのふぉーくりふと講習が始まった




直ぐに乗せてもらえると思っていたメーベだったが始まったのは座学だった。ふぉーくりふとは便利ではあるが一度事故が起きれば重大事故につながりやすいらしい




暗い部屋ですくりーんに映し出される画像についつい一喜一憂してしまう、こんな物初めてなのだ


フォークリフトには重い物を持ち上げてもひっくり返らないようにお尻にかうんたーうぇいとと呼ばれる重りが乗っていて見た目より遥かに重くぶつかったり挟まれると命に関わる事故になるのだそうだ。メーベだけでなく眼差しはみんな真剣そのもの




座学は三時間くらい有っただろうか、明日も座学が有るらしいので飛ばすことはなく一通りはしっかりやりますということだった




クレイさんがフォークリフトに乗りレバーやペダルについて説明する、動力は切ったままなのでみんなで近づいて確認する




質疑応答も終え、いよいよメーベが座席に座ると私達は離れる、私の補佐をする関係で普段は物静かに見えるが元々メーベは好奇心お旺盛で新しいものや知らないものをどんどん知ろうとする性格、里での暮らしを思い出し、妹と呼んでいたあの子の事も思い出してしまう




「おおぉ!」


メーベがらしからぬ声を出しているが今日は大目に見よう

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