工場事務員ユカリ、彼女はこの作業が嫌だった
「これって犯罪よね…」
コピー機からは大量の諭吉がプリントアウトされている、元いた世界ならばもちろんお縄だ、これが出来るのは異世界であり、コピー機が工場事務所とクレイ達運送部門の事務所にしか無く、なけなしの良心から毎度刷った枚数を帳簿に記入している
通貨が一定していない異世界に置いて製品の売上を安定化させるための苦肉の策、英世も一葉もバリバリ刷られている
紙幣はコピー、通貨は裁断した鉄筋、1円玉5円玉は存在せず10円玉から使用される金属の種類と大きさでで100円玉と500円玉相当の硬貨を生み出している、ドワーフ達もそれで納得して賃金や大将の店での支払いをしている
結局のところ信頼なのだとゆかりは感じている、本物の紙幣もこのコピーされた紙幣も『お金』という信頼が有るから成立しているだけ、質が違かろうと紙は紙、ここまで出回ってしまうと本物の紙幣の方が質感では偽札扱いかもしれない
ドワーフの里という小さなコミュニティで諭吉達は信頼されている、元いた世界に戻れたとして言い訳も必要あるまい生きていくにはこうするしか無かったっと正直に言おう。刷るたびにこんな事をおもうユカリだった
それに嬉しいことも有った。なんと後輩が出来たのだ、エルフ族のツァーミさん見た目は私と同じくらいだけど何歳なのかは関係が壊れそうでちょっと怖くてまだ聞けてない
まずは読み書き、幸いこの世界の読み書きはできるのでドワーフさんとのやり取りは問題ない、寧ろ私の方が最初の頃は大変だった、ドワーフさん達は読み書きできない人も多く、物々交換だったりとそんなのどうやって文面にしろっていうのよ!という感じ
製品を見たドワーフさんたちがここで働きたいと、それならば最低限の読み書きをと教職員免許持ちだった私にお鉢が回ってきた…回ってきてしまった
でもお陰で今では一番ドワーフさん達に顔を覚えてもらったし親切にしてもらえるのも、うぬぼれじゃなく私が一番多いと思う、最初はその風貌からおっかない人たちに見えたけど触れ合っていくうちになにか言ったわけでもなく身ぎれいにしてきたり手を洗ってきたりと気遣いが見て取れる
ガラガラと事務所の引き戸を開けてドワーフのゲンさん、本当はガンゲルデさんというのだけどいつの間にかゲンさんで定着していた、がやってきた
「こんにちわユカリちゃん今日の型枠の納品、物は出来てるんだがフォーク借りてもいいかい?」
「期日ピッタリ、さすがゲンさん」
「あたぼうよ!」
ニカッと笑うゲンさん、欠けた前歯もチャーミングに見えるから不思議だ
以前は一つ何tもあるような商品が主力だったけどこちらに来てからは小さな商品へとガラリと変わった、今一番フル稼働しているのは生コン部門と本来はうちの商品ではなかったのだけどアスファルトなどの道路部門、うちの拡張工事に来て巻き込まれちゃったヒラタ組さんを吸収してうちのアスファルト部門になってもらっている
街中に張り巡らされたアスファルトも場内を走るフォークリフトを見てドワーフさん達から貸してくれと要望、整備してない道路だと…というこちらの言い分を聞いて全面舗装に至った
「毎日が決算月みてえでこんなにフル稼働が続くのは昭和以来」
と嘘かホントかわからないことをいうのはヒラタ組の元社長で現アスファルト部門のヒラタさん、失礼かもしれないがもうすぐ80だろうにいつも元気いっぱいだ
「ツァーミさん、教えたフォークリストの鍵のボックス解る?」
「はい、取ってきます」
ぱたぱたとスリッパを鳴らして鍵を取りに行くツァーミさん、そんなに急がなくてもいいのだけれど、やる気に満ちているということかな
「お!ユカリちゃん後輩が出来たのかい、良かったねぇ」
鍵を持ってきたツァーミさんが頭を下げ
「ツァーミといいます、よろしくお願いします」
「大変だったなぁ、俺達も助けてやりてぇがここも魔物がやってくるようになって今は手ぇいっぱいだ、今は我慢してくんな」
おじいちゃんが孫を労うように見えるが実際の年齢関係はわからない
「はい…ありがとうございます」
ツァーミさん少し泣いてる?、長らく平和だった日本で育った私にはこういった心の機微に疎い、もちろんここに来て仲間を失ったし悲しかったけど自然災害のように通り過ぎていつかは元通りになるという感覚、国が無くなったり奪われるという感覚を解るなんて言えない
ゲンさんが鍵を受け取り出ていったあと
「大丈夫?少し休む?」
「大丈夫です」
強いなぁ、私も負けてられない!頼れる先輩になろう
あ!そうだ読み書きを教える代わりに魔法のこと教えてもらおう
「ツァーミさん、魔法詳しい?」
「え?風魔法なら得意ですが…ユカリさん魔法使えるんですか?」
「そうなのしかも風魔法!ドワーフさん達はあまり得意じゃないみたいで宝の持ち腐れ有ったのよ、先生ぜひともご享受下さい」
こうして私は読み書きの先生になり、ツァーミさんは私の魔法の先生になった