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6:似た者同士

従者のデリアの仕事が決まった、大将さんのお店で働くのだそうだ


羨ましい…じゃなかった、一人また一人と仕事を決めていく


私は何をするべきなのだろう皆に守ってもらってここまで来たというのに族長の娘が何もせずダラダラというのはクリシュナの性格からして出来ないことだった


そう思ってドワーフの族長の家を訪ねたのだけれど


「まだここに来て10日かそこらじゃろゆっくり出来ることを考えてみたらどうじゃ」


と目の前に有る玩具…じゃなかった新しい道具をああでもないこうでもないと弄りながら言われてしまった


羨ましい、夢中になれるものが有ってそれが人の役に立てる、今私に有るのは族長の娘という肩書だけ漠然とした里を取り戻したいという気持ちがあるだけなのだ


具体的なものを手に入れたくても手立てが解らない


とぼとぼと思案にくれながら歩いていると


ガッガッガッガッガッガッ


という定期的な音が聞こえてきた、何の工事をしているんだろう大抵の音の原因は工事だと短い期間でもクリシュナの身についた


近づいていくとクレイも工事の様子を見学しているようでこちらに気づいた


「クリシュナさん族長の家からの帰りですか?」


「ええ、そんなところです、あのこれは何の工事なのですか?」


「これですか、井戸を掘ってるんですよ」


「そんなことまで出来るんですか?」


「ええ、ボーリングと言われるもので垂直に水源に当たるまで穴を掘ってるんです」

水源まで…見上げれば機械の頂上までは自分何人分だろうか

「でも、こんなに浅くても水が出るものなんですか?」

精々自分三人とちょっとくらいの高さしか無い

「水は湧くかもしれませんが飲んだりするようだと数十メートル…メートルに関しては後で教えます、もっと深く掘らないと出ないんじゃないですかね」

どういうことだろう?

「機械の脇に筒と棒が有るのが見えますか」

「はい」

「見てて下さい」


機械は筒をある程度のところまで埋めて停まり、人の親方とドワーフが予め棒の入った筒を機械のクレーンで吊り上げる


「継ぎ足すんですね」

「その通り、こうすることで5メーターしか高さのない機械でも何十メートルも掘れるんです」


継ぎ足し継ぎ足しどんどん深く突き刺さっていく筒、こんな簡単に井戸が掘れるなんて…クリシュナが感動していると


「あっ!」

突然クレイに抱きしめられてしまうクリシュナ

「な、何を!」

ボボボボ、ばっしゃーん

ものすごい勢いで上から泥水が降って辺り一面泥まみれになってしまった

「親方~ちゃんと教えてあげないと~」

クリシュナも泥水を被ってしまったがクレイは完全に泥まみれである

「ああああ、あの!これは一体!」

「ごめんなさいもうちょっと早く気づけばよかったんですが、水源にぶち当たる時に飛散防止用のカバーをおろしておかなきゃいけないんですが忘れてたみたいでこのとおり」

泥まみれだが眼の前にクレイの顔があってクリシュナはそれどころじゃない、ついバッとクレイをはねのけてしまった

「あ…すすすすすいません、かばっていただいたのに」

もうしどろもどだ

「いえ突然のこととはいえ失礼でした申し訳ない」

気まずい空気が流れる


「こらー!何度も教えただろ、クレちゃんも姉ちゃんもびしょ濡れじゃねぇか」

「親方、時代はもう令和だよ~怒っちゃ駄目だよ~」

「しかしなぁ、今回は汚れただけで済んだが人様に怪我させちまうようなことは叱んなきゃなんねぇ」

見ればドワーフの弟子はものすごい勢いでこちらに何度も頭を下げている


「ん~一理ある…まあ程々にね、クリシュナさんはどうですか?」

「あ、えっと、私も怪我をしていないので大丈夫です、でも他の人のこともありますから気をつけていただきたいなと」


「だそうですよ親方」

「ん~わかったよ、でもまぁ同じことさせねぇようにみっちり叩き込むそれだけは譲れねぇからよ」

「親方のポリシーってやつだね」


親方さんの物言いに父がダブる


ああ、そうか何故父がいつもガミガミと事有る毎に怒っていたのかやっと解った、私は指導者の娘として何も解っていなかった


私の振る舞い方次第で誰かが死ぬ、死んでもらわねばならない


私の肩書にはそれだけの責任が有るのだ、嫌われていたからではないだから父は私に厳しかったのだ守ってくれる存在を失い親方さんの姿を見て初めてそう感じることが出来た


「ちょっ!親方!泣いちゃってるじゃないですか」

「嬢ちゃんどうした!やっぱ何処か怪我してんのか?」

お弟子さんも含めて三人ともおろおろしてしまっている、違うのに…


「親方さん、私決めました!親方さんのおかげです。ありがとうございます」

親方さんの手を握り感謝する


「お!おう!何がなんだか解らねぇが何かの得になったんなら悪ぃ気はしねえ、嬢ちゃん頑張ってな」

「はい!頑張ります」

親方さんの目をしっかりと見て答えるなん日も悩んでいたのが嘘みたい


「頑張れよ嬢ちゃん」

「応援してるぜ」


「え?」

気がつけば周りには人だかり、嘘…全部見られてた?別の意味で赤くなる


「帰りましょっか?」

泥だらけのクレイの言葉にクリシュナは頷いた



家に着くまでクレイさんと一緒だった

「クレイさんは物知りですよね、あの仕事もやったこと有ったんですか?」

一呼吸開けてクレイが答える

「同じじゃないですけど似たような事を」

「悔しいです」


「え?」

「クレイさんって何でも知ってます、私は族長の娘でみんなを導かなきゃいけないのに何も知らない」

「そんなことはないでしょう、人望有っての今じゃないですか」


「借り物です。父と母の人望を借りているんです」

「…」

「今は、でもいつかは自分の力でみんなを導きたいと思ってます」


「…同じです」

「え?」


「僕はこの会社に拾ってもらったって言いましたよね」

「はい」

「僕、こう見えていい加減でして、この会社に来るまで根無し草っていうんですかね仕事しても1年か長くて2年、それくらいしか仕事が続かなかったんですよ」


「…」

「それが災害でもうどうにもならなくなった時、父が来いと声を掛けてくれたんです」


「じゃあお父様も、こちらに?」

クレイの父を此処で見た記憶はない

「いえ、幸い父はもうドライバーを引退していてこの転移には巻き込まれませんでした」


「それがどう同じなのですか?」

少し嫌な聞き方に聞こえてしまったかもしれない

「ここに居るドライバーさん達は父の息子だから話を聞いてくれてるんだっていつも思っているんです」


すごく実感した。似ていないようで近しい境遇

「そうですね。似ていますね…」

なんだろうこの気持ちは嬉しいと思ってしまった。クレイさんはもう両親と逢えないかもしれないというのに


「似た者同士頑張りましょうか」

「そうですね、協力しますよ」

クレイさんはそう言って笑った、私も釣られて笑ってしまった


事務所に帰るとドライバーのノウミさんとメーベに


「どうしたの(なにしてるんですか)早く風呂入りな(入って下さい)」


とどやされてしまったところまで似てしまったのだった

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