ドワーフ族150人、人族40人、エルフ族10人
ドワーフからは族長と若頭のゲンさんそれから族長の息子のヤノットさん、人族からは各部門のトップが、私達エルフからは私とメーベが代表という形で同盟についての話し合いが行われた
数で言えばドワーフであり精密な武具を作ることが出来る
人族は技術力とそれを活かすノウハウにおいて桁違い
私達エルフに有るのは狩人としての戦闘力と魔法
互いのセールスポイントを活かす形での対等な同盟ということで最前線には私達が立つこととなった
代わりに銃器弾薬の保管管理を我々エルフが行い残り二種族は最低限の同数銃器所持
命の危険は確かにある、しかし圧倒的に人族が損をしている
「いやいやそれは…」
ドワーフの族長でさえその好条件に驚いていた、彼らは銃を製造できるのだ嘘をついて数を騙そうと思えば騙せる、族長もさぞ内心ではどんな強気な条件を突きつけられるのかと私達と同じ様にヒヤヒヤしていたに違いない
裏切りで里を奪われた私達からしてみれば口には出さないが甘いとしか言いようがない
しかし見ようによってはバランスが取れているとも言える
いくら武器が有っても私達だけでは一時的に上に立てたとしてもコントロールできない数が圧倒的に少ないからだ
私達がドワーフと手を組み人族を脅したとして、彼らが武将のように自決を選べば技術が失われる、自決しなくとも我々には届かない技術でいつかは逆転されてしまう気がする
ドワーフと人が手を組み私達を襲うメリットも感じられない、そんな事をするのなら最初から同盟など組まなければ良いのだから
人族が単体で…もしそうなら既に私達は既に殺されているか奴隷になっている
人族は本気なのだ、本気で共存するつもりだとこの同盟で訴えていることを示したいのだ
そう考えた時、信じられない程の幸運に私は神である精霊王に感謝した
数日間の間にあれよあれよと草案がまとまり随時問題と向き合っていくことで三者の合意に至る
同盟調印式当日は休日となり全住人が証人となった
基本理念を工場長さんが読み上げる
「本日はお忙しい中お集まりいただきまして………」
中略
「………ここにイソロク防衛企業共同体を発足する」
この名前を発案したのはクレイさん、後押ししたのは大将さん、住人達の胃袋を掴んでいる力が存分に発揮された形になった
イソロク氏の言葉を何度聞かされたことか
「やってみせ、言って聞かせてさせてみて誉めてやらねば…」
「苦しいことも有るだろう、云い度こともあるだろう…」
ドワーフの族長は甚く感銘を受け、私もその言葉が人族の彼らを体現しているようで気に入った
同盟も発足後数日はギクシャクしていたが1週間もすると特に変わりなく生活していることでそんな空気も薄らいでいった
最前線に立つことが義務となった私達エルフに課せられたのは、コンパウンドボウと散弾銃の取扱だけでなくトラックを含めた自動車の運転も加わり、城壁の上の見張りもまだ仕事についていないエルフがメインに据えられた
フォークリフトで運転に目覚めたメーベが物置小屋もとい新たに開放された元社長さんの書斎で運転に関する本を読み漁っている運送業と言うだけ有って運転だけでなく多種多様な車種や重機に関する本が有ってメーベは夢中だ
きゅう~、きゅ~
仔たぬき達の毛もだいぶ生え
「もふもふだぁ」
とはリサちゃんの喜びの声、たぬきたちもリサちゃんも私達が護らなければ、日々新しいことを吸収している実感と充実感
里の復興はまだまだ先の見えない遠い未来の話でも役割が与えられたことで不安にかられることは少なくなった
人の概念でいうと私達エルフが来て一ヶ月という事らしい、日が昇って暮れてまた昇って1日という概念は有っても約30日で一月という概念は無かった、せいぜい新緑の季節、実りの季節、雪の季節の三つで括っていた程度だ、そこに一週間という更に短い採掘が加わっていて土曜日と日曜日が見張りを除いて休みになる
里の襲撃から始まり今日という日まで彼らの|暦(こよみ)で言うのなら二ヶ月半から三ヶ月といったところか、絶望と希望、怒涛のような日々だった
今日は日曜日ということも有って皆も見張りをドライバーさん達に交代してもらい休んでいる
メーベだけはノウミさんに散弾銃のレッスンをしてもらっている
私達の中でも弓に優れたメーベであるが、なんでもフリンチがどうの弓の感覚が抜けない等々苦戦している様だった
ノウミさんだけが銃に関してのノウハウを持っていることを不思議に思ってクレイさんに聞いてみると、ノウミさんは趣味が広範囲でクレー射撃に狩猟免許、小型船舶免許に冬はスノーモービルという雪道を猛スピードで走れる乗り物まで扱える人で殆どの日本人はそのどれもを扱えるわけではなく特に銃は規制も厳しくまず触れることはないということだった
クレイさん曰く
「趣味に生きる人」
確かに仕事の合間を縫って事務所の敷地内でバイクといわれる乗り物をなにか弄っては動かして弄っては動かしてを繰り返しているところを見るしドワーフのゲンさんに
「これ作れそう?」
なんてよくお願いしていたりする
趣味ねぇ~…なにか、こうノウミさんの様に実益を兼ねた楽しいことで私にも出来ることはないかしら、出来れば私達エルフならではのことが良い
人やドワーフが苦手で私達が得意なこと…魔法くらいしか思い浮かばない、魔法、魔法、魔法…銃に勝るとも劣らない様な何か…銃に劣らない?
銃のあの恐ろしいまでのインパクト、粉々になったコンクリートブロックを思い出す
粉々になったコンクリート!もしかしたら…出来るかもしれない
明日月曜日は各種族が集まる話し合いが有る、そこで話してみよう。まずはモデルを作らなくちゃ
工場長さんからは
「そんなことが可能なのか?」
ドワーフの族長とゲンさんからは
「理論上出来るはず」
とのお言葉、早速試験室に通されテストが開始する
その週の週末
射撃場で銃を構えるノウミさんとメーベ、二人の前にはそれぞれにコンクリートブロックが置かれている、イヤーマフを装着して見守る私や工場長さん達
バスンバスン
ほぼ同時に放たれたスラグ弾が当たり片方は粉々に、もう片方は衝撃で倒れるも原型をとどめている
「こりゃすごい!」
近づいて確認すればノウミさんも驚いている
私の作った方は欠けているものの貫通すること無くコンクリートブロックとしてまだまだ使える状態だった
「やった!」
思わず声が出てしまう
硬化の魔法陣入りコンクリート
試験でわかった事として完全に固まった完成品の上に魔法陣を書いて魔力を込めても効果は薄く、完成前の柔らかい状態で溝を掘るようにして作りそこに魔力を込めると効果が高い
完成前に彫ることが大切なのだ
こうして初めて警備以外で彼らの仕事に貢献することが出来、今後様々な特徴を持つコンクリート作りが始まったのだった