「ようこそおいでくださいました」
第三側妃セレジュは淡々と俺達に対しそう言って出迎えた。
だがそれまでの三カ所に比べ、実に――何というか――
「どうも」
バルバラは素っ気なく挨拶をする。
「あなた方もご挨拶を。セイン、貴方の婚約者でもあるのよ」
「……どうも」
同じ言葉でセイン王子は返してくる。
「宜しく頼む」
「こちらこそ宜しく」
だがそこにあるのは、……あれだ。
「何なのだこの冷気は」
そうゼムリャがぼそっとつぶやいたのを俺は聞き逃さなかった。
バルバラはとりあえず周囲を見渡した。
「おや、八路盤将棋が。どなたかなされるのか」
「一応、ここでは皆……」
セレジュ妃は語尾を濁した。
「誰かと一局打ってみたいと思うのだが」
「セイン、お相手なさい」
「母上の方がお強いでしょう」
「ではクイデ。貴女確か、セルーメ先生に教わっていたでしょう?」
「セルーメ先生、と言うのは、カイシャル・セルーメ氏のことだろうか?」
「お調べに?」
貼り付けた笑みで、セレジュ妃はそう聞いてくる。
「多少は縁談の際に聞いている。確か、セイン王子の教師はバーデン・デターム氏で、クイデ王女の教師がセルーメ氏だと。セルーメ氏はうちの方にも一年程滞在したことがありまして、面白い方だと記憶しております。うちのこの護衛騎士も、ハモニカを教わったことがありますし」
「成る程。それは非常にご縁のあることですのね。ではクイデ、お相手なさい」
クイデ王女は短くはい、と答えると、召使いの出した盤で、八路盤将棋を打ち出した。
お茶の用意がされていたので、周囲はそれを口にしながら二人の対戦を見ることとなった。
お茶は非常に美味い。
他で出されたものよりずっと。菓子も同様だ。
だがそれで話を広げる気に、どうしてもなれない。
話をしようという気があるのか無いのか。
盤面に集中する二人をセレジュ妃はじっと見ているし、セイン王子は面倒くさそうにあちらこちらにと視線を移している。
「負けました」
バルバラがそう言って投了した。
「貴女は強いな」
「セルーメ先生の教え方が良かったんです。将棋は相手の出方を読んで……」
「クイデ」
そこでセレジュ妃は言葉を止めた。
「続きを聞きたい、と思うのだが」
「お母様がお止めになりたいのだから、止しますわ」
「そうか。実はこの男、先日、所用で帝都に出かけた折り、強い方と対戦して、ポロ負けしたのだが、此奴とも一局願えないだろうか」
「帝都で?」
「帝都にまた何の用で!?」
唐突にセレジュ妃とセイン王子の声が上がった。
「所用です。自分は護衛騎士ですので、領主様の御用で参りました。その時に、相手先の旦那様と一局打ったのですが、とても強い相手でございましたので、大敗致しました」
間違いではない。
ただここで相手が皇帝陛下ということは無いだろう。
「では俺と一局するか」
セイン王子は俺に対戦を挑んできた。