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第34話 王子のまともな取り巻き

「辺境伯令嬢、バルバラ様、セイン王子の発言をどうかお許しください」

「彼にも悪気がある訳ではないのです」


 彼の取り巻きは、案外まともな様だ、と俺は思った。


「其方等に一つ聞きたい。私は私の立場であるから、この様におそらくはこの宮廷では無礼なことを自由にやっているという自覚はある。のだが、セイン王子は普段それに対して怒りを抱いている。そうだろう?」


 取り巻き達は、顔を見合わせ、そしてうなづいた。


「もの凄く不思議なのですが、セイン殿下は、普段はとても皆に等しく王子らしく、そして横暴なこともなさらないのですが」


 子爵令息だ、と前置いた一人がそう言った。


「我々はずっと小さな頃から殿下の友としてやってきました。なのですが、何故か辺境伯令嬢がおいでになる時から非常に不機嫌になってきたのです」

「ふむ」


 バルバラは少し考え込んだ。


「其方等、友として、セイン王子が心配なのか? それとも家の関係で、王子との仲を続けておきたい者か?」

「答えられると思いますかお嬢!」


 俺はつい普通の声で突っ込んでしまった。


「まあそうだな。だが思うところある者は、いつでもいい。私の離れに来るがいい。特に王子そのものを心配している者は」


 彼等は黙ってうなづいた。

 その間、楽団は実に華やかな音楽を流し続けていた。

 次第に取り巻き達も、それぞれのパートナーの手を取り、踊りの輪に加わり出した。


「……辺境伯令嬢」


 その中で一人、視線を踊りに向けつつそっと小声でバルバラに向かってつぶやく者が居た。

 バルバラもまた、小声で問う。


「名を名乗れ」

「自分はエイデン伯爵の次男ライドです。彼とは十二までデターム先生の元で一緒に学んでおりました」

「……」

「その時は特に問題はありませんでした。ですが一人で王族としての知識をつけて、デターム先生が辞められて後、社交界に出る様になってから、少し妙なところがある様に思えて仕方がないのです」

「……詳しい話を聞きたい。これから来れるか?」


 はい、と彼はうなづいた。

 行くぞ、とバルバラはパーティから抜け出すことを俺に宣言した。

 ゼムリャに後を頼む、と目で指示する。

 急ぎだから、と。

 今回はアマイデ妃が新しいドレスの型を披露する目的もある。その辺りはゼムリャに任せることにした。


 大広間から、王宮の抜け道と獣道を通り、俺達は自分達の離れへと戻ってきた。

 ライド・エイデンは走る俺達に何とかついてきたが、はあはあと息を切らしている。

 そして俺達の離れを見ると、まずかがり火に驚く。


「こんな道、それにここ、初めてです。って、本当に、いいんですか」


 まあそう問うのは当然だろう。あまりにも突然だ。


「君の表情があまりにも真剣なこと、それに友を思う心情はとりあえず信用したい。わざわざ私にそれを言う利点はあまり無いからな。黙っていた方が、間違っていた時の傷は浅い」

「はい。でもどうしてもずっと自分は見てきて不安になっていたから」


 偉い子だな、とばかりにバルバラは腕を伸ばしてライド・エイデンの頭をぽん、と叩いた。

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