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第36話 パーティの食事の話とマリウラ嬢の評価

 さてそれから、俺達は王子達の取り巻きの前にややわざとらしい程頻繁に顔を出す様にしてみた。

 王子に影響されている者も無い訳ではない。が、あくまでそれは感情的なものであって、表面的なバルバラへの受け答えは「常識を知っている者」相応のものだった。


「となると、やっぱりセイン王子だけがおかしいということになる」

「あ、お嬢、その王子と最近親密になろうとしているマリウラ嬢の方はどうですか」


 ゼムリャが訊ねる。


「服の話題を彼女に振ってもらえるか? ゼムリャはアマイデ妃に気に入られているから、その流れで、新しいドレスのことで、誘ってもらう様な流れで」

「承知。ところでお嬢ご自身は、アマイデ妃が考案させた新しい意匠の服は着てみてどうでしたか?」

「うん、我々の地でなければ充分着心地がいいな。そもそもあれだけ腰を締めたら彼女達はいつパーティで食事をするんだろう?」

「あれは食事の場では無い様ですね」

「あれだけ綺麗に盛り付けた料理も、食べられないままなのか? 勿体無い」

「あ、それは厨房の皆が後で食べるそうです。料理の腕を上げるために味見は必要だと。冷めても美味しいものを、とか」


 マスリーが口を挟む。


「いやあ、こっちの連中の料理の細かいこと細かいこと! ただ美味いことは美味いんですがね、腹一杯食おうとは思えませんねえ」

「そうなのか?」

「一つ一つがこってりしてますからねえ。お茶会に出すものはそうでもないですが、パーティの際のものは一品一品が重い味付けと腹持ちになる様にしているそうです」

「腹持ちがいい、というのはなかなか聞き逃せないな。冬の常備食の勉強になるから聞いておいてくれ」

「へいっ」


 マスリーは元気に返事をした。

 正直、基本的に彼の任務にはめりはりが無いので、付け足しがあると生き生きするのかもしれない。



 しばらくして、アマイデ妃の元に他の令嬢達と呼ばれたマリウラ嬢だが。


「別に辺境風のものだから、ということには問題なさげですね。むしろ着るのに抵抗はなさげでした」

「抵抗なかったのか」

「……と言うか、他の令嬢の様子を見つつ、着る時に迷いが少なかった、という印象です」

「他の令嬢は?」

「やはりまずこの腰を締めないというのにはなかなか抵抗を感じる様ですね。楽だ、とは皆言うのですが、でもこの格好で殿方の前に出て平気かしら、みたいな」

「マリウラ嬢はそうでもないと」

「あっさり着こなしていましたね。ですからアマイデ妃にも気に入られていました」

「新参者が気に入られやがって、という目は?」

「当初はあったのですが、あまりにさっと着こなして、それが似合っていたので令嬢達はその方に目が行った様です。背もやや高いことですし、何というか…… 格好いい男性を見た時の表情に似た感じが」

「何なんだそれは」


 バルバラは首を傾げた。

 ゼムリャは苦笑しつつ続けた。


「長身で姿勢が良く、やや男性的でいて、それでいて礼儀正しく態度の良い女性というのは案外女性からも好かれるのですよ」

「なるほど。それは想像もできなかったな」

「私達の間ではそういう感覚は無いですからねえ」

「だがそれを判ってやっているなら、マリウラ嬢というのは実によくできた令嬢だな。そのよくできた令嬢が、何でわざわざ私という婚約者が居るセイン王子に接近しようとしているんだ?」


 そこなんですよね、と俺達はうなづいた。

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