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第37話 骨が出る、そしてランサム侯爵に会いに行く

 そしてとある日、「裏」の一人から、鳩に乗せてこんな通信が来た。


「ランサム侯爵の館の井戸から骨が出現。元領民に確認したところ元侯爵とその家族の衣服と。子供が三人。あと一体貴族の服を着たものも」


 バルバラはすぐに、その件の続報は急ぐ様に、と飛ばした。

 後で聞いた話だが、この「裏」の一人は、


「旅の者だが喉がどうにも渇いて、館なら井戸があると思って悪いとは知りつつ忍び込んだ。だが井戸の桶がなかなか持ち上がらない。それでも根性で上げてみたら、がしゃんと音がした。そして桶の中には人骨が入っていたので驚いて周囲の民家に走った」


 ということを周囲に告げたそうだった。

 元々かつての領民は、かつてのランサム侯が何故唐突に居なくなったのかも、何故自分達が他の貴族に売られたのかも全く納得していなかった。

 おいたわしい、と引き上げに協力してくれた元領民はさめざめと泣いていたという。


「殺したのは現在のランサム侯爵と思うか?」

「どうでしょうね」


 俺は答える。


「マリウラ嬢が登場したタイミングを考えると、確かに可能性はあるんですが、殺した犯人とランサム侯爵は別という線の方が考えやすいですね。人骨が出る可能性はあった訳ですし。出れば証拠が出る。証拠と当人を付き合わせて一致するのでは簡単すぎますから」

「誰かが現在のランサム侯を操っている? まあいい。ともかく一度マリウラ嬢でななく、ランサム侯爵自身に会えればいいんだが」


 だが宮廷のパーティだったりお茶会だったり。

 ともかくマリウラ嬢が「名代」ということで来ていて、当の侯爵自身はゃって来ないのだ。


「だったら出かけるか」


 そして思い立ったら即行動だった。

 俺達は離れから王宮外に出る道をたどって街に出た。

 調べておいた、ランサム侯爵の王都での家は、さほど大きなものではなかった。

 いや、侯爵にしては、小さすぎるくらいだ。

 中程度の商人の家、と言われてちょうどいいくらいだった。

 呼び鈴を鳴らす。


「どなたかね!」


 声がして、恰幅の良い年配の女性の召使いが出てきた。


「旦那様なら、誰にも会わないよ!」

「実は辺境伯令嬢の使いの者なのですが、プレデト・ランサム侯爵にお目にかかりたく」

「辺境伯令嬢? はて…… ともかく貴族様のお使いなら、少々お待ちを」


 脇の小部屋に通される。

 三人で出向いているので、狭く感じる程だ。いやそれは俺の身体がでかいせいだろうが。


「辺境伯令嬢の使い…… ですか」


 ふら、とやつれた男が入ってくる。

 髪を整え、髭を剃り、整った姿をしているにも関わらず、何処か疲れた表情と、丸まった背中をしていた。

 だが何処かで見たことがある気がする。


「……わざわざどうもご足労を…… 一体自分に何の御用でしょうか」

「いえ、実は令嬢がですね、そちらの館を買い取りたいとのご要望なのです」

「この家? ここは借家ですよ。王都で家を買うのはなかなかかかりますので、本宅は王都のすぐ外にあるのです」

「いえ、そちらではなく、領地だったところにある館ですよ」


 プレデト・ランサムの頬がややひくついた。

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