「何でお前知ってる?」
「セルーメさんが突然会ってみたいと言い出して、それに付いて行く人員が必要だったんですが、あいにくその時結構人が出払っていて。俺その時、十三かそこらでしたけど、たぶんお嬢は風邪か何かだったのか腹壊したのかわからないけど、ともかく俺が暇で詰め所に居たので引っ張り出されたんですよ。体格がいいから大人に見える、って。で、流刑地の作業場近くで」
「セルーメさんに引き合わされたのが、ラルカ・デブンと」
「作業中だったし、季節が季節だったから、顔の周りは毛皮もっさりでしたからね。造作の雰囲気しか覚えていなかったんですが」
「……じゃあそうだな、手近なところから似顔絵付き指名手配書を入手しないとな」
「お嬢、でも今出回ってる人相書きはいつのものですか?」
「帝国司法省のそれは、更新していないだろうな。……でも、詳細な絵ではあるはずなんだ」
「陛下のもとに要請をかけますか?」
「そうだな、その顔に二十年がところ補正をかけて寄越してくれ、と付け加えるか」
帝都へ直接鳩を飛ばすには距離がある。なのでこれは領主様の元に一旦依頼し、その上で陛下へ伝えてもらうように手配した。
それまではラルカ・デブンであるかは保留だ。
*
「それにしても堂々とまあ」
誕生パーティというものは王の家族の分だけ開かれる。
その都度、セイン王子はマリウラ嬢と仲良く踊ったり話したりしている。
側で見ているライド・エイデンの表情が回を増すごとに複雑になっていくのがなかなか見物だった。
ライド・エイデンは時々隠し通路から離れへとやってくる。
その都度がっつり焼いた肉を楽しそうに食べて行く。
「この焚き火台いいですね!」
「お、興味あるかい?」
「はい!」
野外で調理ができる焚き火台の構造について、彼は興味津々だった。
「あまり家ではこういうものに興味を持っているといい顔されなくて」
「何を言う、便利なものの仕組みを考えて新たなものを作るのは素晴らしいことだぞ!」
「成る程。自分も帝都のアカデミーに行ければいいんですが。いえ、アカデミーに行くことは賛成されているんですが、内容がやはり政治向きということで」
「そこは行ってしまえばこっちのものだぜ坊ちゃん」
ゲイデンはけしかける。
「そうかな?」
「別に政治系の勉学もそれなりにして修めていれば、その他のことに熱心になっても構わないんじゃないか? 確か、セルーメ氏は将棋のために下町も駆けずり回っていたと聞く」
「セルーメ氏って、クイデ様の先生だった方ですよね。確かデターム先生の幼馴染みで」
「幼馴染み」
「はい。二人がどちらも王宮に通っていた頃、時々会話していたのを見たことがありますけど」
「セレジュ様のところでか?」
「そうですね。……あ、何でこんなところで、とは思いましたけど」
「デターム氏は将棋は強かったか?」
「将棋? チェスは強かったですよ。自分はどれが『将棋』なのか判らないですが、盤上遊戯でしたら、セルーメ氏とは何か変わった形の盤で対戦していた記憶があります」
「変わった形」
「ええと、六角形とか星形とか。自分達は何やっているのか判らなかったんですが、二人は真剣そうだったのを覚えてます」
そうか、とバルバラは大きくうなづいた。
ここでも将棋か、と。