さて、この日は審議が中断ということで、貴族達はあらかじめ表裏、および帝国司法省から派遣された要員によって、指定された場所で待機してもらうことになった。
これは彼等に帰らせないこと、時間を掛けさせて中毒患者をあぶり出すこと、そしてその間に第三側妃の離れを徹底して洗い出すことが目的だった。
「それにしても文句ばかりでなあ」
要員の何人かが困った様に言っていた。
宮殿はそれなりに広い。
それでも参加している貴族の数は部屋数よりずっと多い。
ただ、一つ一つの部屋は広いので、そこを区切って複数の一家に留まってもらう必要があった。
無論苦情は出た。
出まくった。
特上の貴族はさすがにそもそも一家の人数も多いので、一族一室ということで済んだが、有象無象となってくると、そうもいかない。
下級貴族となると、実際は実業で相当な金を稼いで裕福な暮らしを代々している者から、庶民の中に混じって慎ましく暮らしている者も居る。
慎ましく暮らしている彼等から文句が出ることはなかった。
むしろ、翌日の「審議中止」の事態において、あぶり出された中毒患者に、いち早く対応してくれたのは彼等だった。
とは言え、それは後の話で、ともかくは第三側妃の離れに俺達は乗り込んだ。
セレジュ妃、セイン王子、クイデ王女の持っていた書籍書類、持ち物、厨房、倉庫、それにその場に居た召使い達とその持ち物、それを一斉にまず引きずり出す。
そして内容を精査する。
だが、実に分かり易くセレジュ妃の遺書が見つかった。
バルバラは一読し、俺に渡してきた。
「どう思う」
「筋は通ってますね。ただそれだと、身代わりの女の意味がわからない」
「身代わり――そう言えば、あの女がどうなったのか、は?」
召使い達に訊ねる。あの時の入れ替わっていた相手、セレジュ妃と背格好が似た女は居ないのか、と。
「ファルカさんでしたら、少し前に身体を悪くして辞めましたが……」
俺達は顔を見合わせた。
「いつの話だ?」
「ああ、一昨日でしたか。側妃様から何やら餞別だと言ってもらっていましたが」
「それが何だか判るか?」
「ええと」
きょろきょろと召使いは色々引き出されたものを見渡す。
そして八角盤を見ると。
「ああ、これと良く似た感じの六角のものでした。綺麗な細工でしたので、売ればお金になるとか何とか言ってました」
「六角将棋盤……!」
遺書を見る。
ひたすら何を置いても複数参加将棋をしたかったセレジュ妃。
第一の遺書には動機が、そして第二の遺書には計画が書かれていた。
「第一はおそらく真実でしょう。少なくともセレジュ妃からしたら。だけど第二はどうか。ファルカとの入れ替わりがあるなら、時間稼ぎのブラフである可能性は大です」
「じゃあ何に対しての時間稼ぎだろう?」
彼等は自分達の罪を知っている。
捕まれば死も判っている。
それでも三人で逃げる。
その意味は何処にあるのだろう?
「また父上経由だ。帝都の将棋大会の予定を急ぎ教えてもらえる様に要請をするように」
「裏」の一人にバルバラは命ずる。
表も裏も集まっている今、適切な者を使うのが良い。
「裏」は即座に自分の鳩を飛ばすべく、外に出た。