また一方で、セレジュ妃の部屋からは阿片が見つかった。
「これはセレジュ妃というよりは、ファルカのためのものだな」
でしょうね、と俺は答えた。
息子の決行日は知っていただろうが、それでももしそれより後になったならば、と多めに持たせていたのか。
ともかくこれでセレジュ妃と阿片――デタームの直接のつながりの裏付けができた。
セイン王子の部屋からは、昔からの帳面を大量に押収した。
その中には、かつてデタームから教わった内容がきっちりまとめられている。
「これはちょっと怖い代物ですね」
「ああ。地政学を誤って教えた証拠としても充分なんだが、その手順が素直に記されているからな。これは後で研究が必要だ」
そうこうしているうちに、貴族達が暇潰しとばかりに社交をしている仮裁判所で、禁断症状が現れた者が出た。
とっさにそこで、医師をしているテルガ男爵とその妻ホルテが対処。
そしてティミド・スルゲンとその妻ナルーシャの作成した座席表が活用され。
後はその場に居た王の采配があった時点で、バルバラの元に報告があった。
「よし、その場に居た医師に協力。あと、こちら側の医師と看護人も、眠らせた者を寝せておく場所を用意。判明した者をこれまでに『裏』が集めた貴族間のつながりと合わせてみる」
「あと、会場には王と上の二王女、そして下の二王子が残っておりまして、指示及び手伝いをしている模様です」
「あのお二方なら、確かにすぐに身体が動くな」
バルバラはエルデとユルシュの民の利益=国の利益ときちんと把握しているところは評価していた。
なおかつ看護人の手伝いとなると汚れ仕事である。それに即座に対応できるのはさすがだ、と。
「やはりエルデ王女の方が、確実に次の王の資質があるな」
そうでしょうね、と俺はうなづいた。
*
そして夜になり、押収した書類やセイン王子の帳面、セレジュ妃の遺書を並べ、やはり俺の膝の間に座り込み、バルバラは考える。
「確かに色々つじつまは合う。んだが、やはり幾つか判らないことがある」
「何ですか?」
「ラルカ・デブンは自分は殺していない、と言った。まあ時期的にも合う。情報によると『新しい侯爵』が館にやってきた時期には、既に領地は売られていた。ラルカ・デブンが脱走して何とか身支度を調えてその場にやってくるまでの時間差がある。となれば、デブンは確かに雇われた侯爵ということになる。雇われ侯爵が雇われ令嬢を連れてやってきた、わけだな。確かに二人しか居ないならば、あの時行った家の様に小さくとも構わないだろうな」
「マリウラ嬢は自宅に友を呼ぶということなかったようですしね」
「そう。いつも王宮をセイン王子からの誘いということでふらついて、彼と取り巻きのお茶会に参加し、他の令嬢達ともそれなりに付き合っていれば、自宅に来られることもなかったんだろう。無論そうさせない社交術もあったんだろうが」
「勿体ない人材ですねえ、マリウラ嬢は」
「全くだ。だいたい五年かそこらであれだけの令嬢を演じられるというのは並大抵の努力ではできない。やはりその辺りは使わないと損だ」
これが後の判決の後でのマリウラ嬢の居場所に関わるのだが、まあそれは後の話だ。
「ランサム侯爵一家を殺害し、おそらくは共犯者をも共に沈めた者、それとセレジュ妃の両親の死。……さてこれは明日出すかどうか……」