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第47話 舞台の終わり

 翌日、バルバラはセレジュ妃の部屋から押収した八角盤を持ち出し、遺書を基本に話を切り出した。

 遺書で告げていることが全て事実とは限らない。

 そもそもセレジュ妃はまだ生存しているのだ。

 逃亡の時間稼ぎであり、またそれも計算ずくなのだろう、とは思うが。

 昨晩バルバラはこう言っていた。


「帝都の将棋大会の情報が早く欲しいものだ」

「何故?」

「最終的に皆死ぬことを判って逃亡しているなら、そして男二人が女一人のために動いていたなら、最終的な行き先は帝都だ。その将棋大会だ」

「何故」

「セレジュ妃はただ彼等と打っているだけでは満足できなかったんだろう。私には理解できないが、皇帝陛下が言っていたじゃないか。ああいうものや芸術に関しては、全てを投げ打って、人としてどうか、ということもどうでもいい、という熱情がある人間が居るってことは」


 確かにそう言われた気がする。

 実際皇宮には将棋大会だけでなく、様々な芸術に関する記録や作品が展示や保管されていた。


「セルーメ氏は大会の細かいところまで知っていたろう。皇帝陛下はどんな人間でもその能力に関しては評価なさる。今回のデブンに関しても、鉱物資源に関して、最も良く知ってる人材だ。皇帝陛下は基本流刑地からの脱走は死罪としているが、使える人材はとことんまで生かして使おうという方だ。それに」

「それに?」

「陛下は明らかに棋譜集めを楽しんでおられる。帝都で将棋のことを調べさせていた『裏』が書いてたがな、基本大会中は如何なる罪人であっても捕縛しないとのことだ」


 ああ、と俺は思った。

 偽名でも何でもともかく登録できるらしい。

 始まってしまえば出られない会場。

 そして美しい棋譜を作ったのちに、捕縛し、後はどうなのか。


「だからその辺りをよく知ってる帝国民だったら、そのまま陛下に軟禁されて生き残れるかもしれない、と思うかもしれない。そういう機会でもあるんだ。だがこちらの人間じゃなあ……」


 チェリ王国の人間は基本人が善い。

 そしておそらくは真面目で融通が利かない。


「だとしたら、もし彼等が逃げて、目的のものに出たとしても、最後は知れている」


 だから、ここでは事実は話さない、ということだった。


「お前だったらどうする?」

「お嬢が本当に嫌な相手と結婚させられそうになったら、その前にさらって逃げますから安心を」

「だよな。まあだからこそ、これだけ時間かかっても何とかなる案件で良かったんだがな」

「で、例の判らない二つの死因に関しては?」

「予想はつく、が、今回話しても仕方がない。これは後で調査しておくさ」


 そして「今回の真相」を、セレジュ妃の遺書に基づいたものとこの場では確定させ、バルバラは審議を終えた。

 セイン王子の憔悴っぷりは凄まじいものだ。

 果たして彼は立ち直ることができるのやら。

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