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第48話 最後の調査①

  役目が終わった俺達は、早々に押収した資料を帝国司法省へと先に送った。

 そして俺達も報告のために帝都へ行くことになっていた。

 表裏全部の人員を連れて行く程ではなないのだが、「帝都に行っておきたい!」という思いがある者もそれなりに居たので、彼等を連れて出ることとした。

 だがその前に、二つの疑問のうち、一つ調べ損なったものだけ、確かめておくことにした。

 それはセレジュ妃の両親、伯爵夫妻の死に関してである。


「こればかりはなあ……」


 バルバラは当地の様子を見ながら口籠もる。

 既にそこは別の侯爵家のものとなっており、当時のものは殆ど無くなっているだろう。

 だから証言を集めるしかない。

 当時の使用人によると、先に死んだのは夫人だった、ということだ。

 その後に伯爵が。

 ただ周囲の、当時の使用人に聞き込んだ話では、夫人愛用の酒樽を、伯爵はある日唐突に自身で割ってしまったということだった。

 当時厨房を管理していた者はこう言った。


「いやあ、びっくりしましたよ。あの穏やかな伯爵様がねえ。でもまあ、良い酒をいつも一人占めしていた奥様に、伯爵様も思うところあったんじゃないですかね?」


 夫妻の仲は悪かったのか、と問うと。


「さあどうでしょうねえ。貴族様の思うことは我々には判らないことでさ。とは言え、お嬢様のご結婚に関しては、結構言い争いがあったようですぜ。それ以上は小間使いの方が知ってますわ」


 そこで当時の奥方の小間使いだった者を探して聞くと。


「奥様というひとはねえ、ともかく王族と親戚になりたいってひとだったんですよ」

「王族と?」

「そう。本当はご自分が王族のどなたか、国王陛下の側妃、大公殿下、近いご親戚の公爵家。そういうところに嫁いで、王都で華々しい生活をしたかったそうですよ。ですがそうもいかず、この伯爵家に来ることに。安定している家でゆったりと暮らすのがいいじゃないか、とのが奥様のご両親の考えだったのだと。だからまあ、ともかく何かとぶつぶつぶつぶつ私等小間使いに愚痴をたれてたこと!」

「それで娘を国王に、と」

「そう! まだ現在の国王様が王太子になったばかりの頃にね。ああまあ、お嬢様は可哀想に、何かと言えば『美しい笑顔を作るんです』でしたよ。できないと手をぴしゃ! と叩くんです。顔は殴りませんでしたよ。顔は大切ですからね。でも旦那様はそういう奥様のやり方には今一つ賛成できなかったんですよ」

「では何故伯爵が決めなかったんだ?」

「何ででしょうねえ。奥様が怖かったのか何なのか。ともかくお二人の仲はその辺りで結構ひびが入ってましたねえ。だからですかねえ、奥様の亡くなった後、酒樽をご自分で壊したのは」

「その酒樽は、もう無いのだろうな」


 そうこちらが聞いた時だった。


「いえいえ」


 小間使いは大きく首と手を振った。


「旦那様は壊した後のそれに触れるな、と皆に言ったんですよ。そして奥様の小さな酒蔵でしたか、それは完全に閉ざしてしまったんです」

「え、じゃあもしかして、それはまだ残っていると?」

「新しく入った侯爵様がわざわざお開けにならない限りは」


 俺達はそこで現在の持ち主であるマクラエン侯爵に、小さな酒蔵が未だあるかどうか確認した。


「……ああ、あちらは一応買い取りましたがな、普段住みにはしてませんので、酷い風雨とかで壊れていなければそのままじゃないかと」


 ありがたい、と俺達はそこへ向かった。

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