「ふう」
色々と溜まっていたものがあるのか、バルバラは長椅子に座った俺に妙にひっついてきた。
と言うか膝の上に登ってきた。
そして胸元に頭をぐいぐいすりつけると。
「本当に! 私はもうとっととうちに帰りたいんだが!」
「いやお嬢それは俺も同じですって」
「……あのなあ」
「はい?」
「いい加減お嬢は止せ」
「はあ」
「名前で呼べ」
「ああ、はい。バルバラ。これでいいんですね」
「口調」
「こっちはそうそう無理です。それに俺にとっては生まれたあの地の全ての人々に感謝を込めてますから」
「そっか。ならいい」
そう言って、ぐったりとそのままもたれかかって――眠ってしまった。
気丈な彼女でもやはり皇帝陛下の前というのは緊張するのだろう。
まあ当然だ。
俺だって自分が報告しろと言われたら、相当疲れるだろう。
「まあ、ともかく、お疲れ様でしたバルバラ」
髪をくしゃくしゃとかき混ぜると、寝床の方に置きに行く。
一応俺としては、供についてきた連中に対してはきちんと何処其処を使っていい、という説明はせねばなるまい。
*
皇宮前広場に皆一応荷物を置いて待っていた。
「話、報告終わったのか? お嬢は?」
「終わりましたよ。用意してくれた場所で疲れたらしく寝てます。で、陛下曰く、この広場にだったら暫く幕屋を張っていいとのことです」
おお、と皆の声が上がった。
「ただし、十日くらいすると将棋大会があるということで、その前日には撤去して欲しいとのことです。それまでは自由に帝都を見て回って良いとのこと」
「おお! じゃあまた湯屋に通えるな!」
「今のうちに珍しい美味いものも食って味覚えておこうぜ!」
「家族への土産~」
「調味料とか沢山買ってもいいんですかね!」
この一団の中に、チェリで厨房を担当していたマスリーも居た。
「あー、それはいいですね。チェリでも結構買い込んでたでしょ?」
「普通に食っても肉は美味いが、もっと美味くなる方が皆毎日楽しいだろう?」
確かに、と皆うなづいた。
「でしたら、沢山買い込んで館の方に後で支払いを請求してもいいと思いますから、その辺り任せます」
「おう! ただお前はいいのか?」
そうだな、と俺を何やら可哀想なものを見る様な目で見る。
「何ですか?」
「何って。お前やっとお嬢と一緒になれるんだろ?」
「早く帰りたいだろ?」
「そ、それはそうですが…… 皇帝陛下がともかく将棋大会は見ていけ、とのお達しで」
「じゃあせめて、ここで二人宿にしてもらったんだろ? お嬢を思いっきり甘やかしてやれよな……」
「三年好きな奴にべたべたできないって、なかなか辛いよなあ」
「それにお嬢も三年前よりはちっと育ったし!」
「背はあんまりのびなかったけど、他は出てきたよな」
「は、はあ……」
何と言っていいのか。
「よっしゃともかく幕屋だぜ!」
「お前はずっとお嬢についてやんな! こっちはこっちで迷惑かけない様にやっってるからよ!」
皆そういう目線で俺達を見てたんだなあ、と思うと。
ありがたいやら微妙な気分に…… なった。