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第13話

 4-3


 話は少し前に遡る。

 ちょうど白石秋羽しらいしあきば赤西茉莉あかにしまつり保坂絵里ほさかえりの自宅へ向かう、少し前。


「二人組だ」


 開口一番、桃太郎こと桃瀬太郎ももせたろうはそう言った。

 灰崎来栖はいざきくるすの事をいまいち信用できない秋羽と茉莉は、この署内で一番情報を持っていそうな太郎の部屋を訪ねた。

 相変わらず一部の思春期が好みそうな悪趣味な部屋であり、本当に同じ署内なのか疑いたくなるが――

「おい、白いの。聞いていたのか? 二人組だ、二人組」

「あ、悪い……えっと、二人組っていうと、あれか? クラスでペアを組んでくださいっていう……」

「ぷぎゃああああああ! やめろおおおお! 我らを瞬間的に消滅する、悪しき言葉! 滅せよ、滅せよ!」

 突然奇声上げた太郎は床に落ちていた毛布を頭から被ると、床に転がってしまった。

「悪い。お前、そういうシチュエーション、苦手だったな」

「分かっていたなら、何故言った!? お前、それでも人間か? 警察か!?」

「人間だし、刑事だよ。そして、お前もな」

 太郎の視線に合わせるように秋羽は腰を屈める。

「それで、二人組っていうのは?」

「ウルトラスーパースペシャルな我が頭脳から導き出した、ビックでシークレットな情報だ」

 少しだけ機嫌が直ったのか、太郎は左目を右目で抑える謎のポーズをとりながら立ち上がった。

「……『鮮血ずきんちゃん事件』で、女子生徒達に接触した、黒幕候補だ」

「黒幕候補っていうと、まさか……」

 『鮮血ずきんちゃん事件』の時は色々あり、後回しにしていたが、たしか秋山菊乃達に接触した大人がいた。そしてその大人に唆される形で、女子生徒3人が連鎖自殺という形で自ら命を狩り、秋山菊乃だけが残った。

 それが世を騒がせた『鮮血ずきんちゃん事件』の真相だ。

「成程な。お前が言っていた、表に出ていない情報とはそれか」

 茉莉が秋羽を一瞥した後、太郎を見た。

 茉莉の眼光が鋭いせいか、太郎はすぐさま秋羽の背に隠れたが。

「そ、そうだ。我が国宝レベルの頭脳によると……お前達が外で動き回っている時、秋山菊乃の周辺をうろつく車や、見張るような視線を送っていた大人がいた」

「大人……というと、性別も年齢も不明か?」

「……ああ」

 太郎は秋羽の背後で、震える声で答えた。

 太郎がこういう態度をする時は何かにひどく怯えている時であり、それは付き合いの長い秋羽だけではなく茉莉も知っている。

「分かった、ありがとう」

 茉莉はそれだけ言うと、太郎から視線を逸らした。

 ――桃太郎は全部分かっている。だけど、それを今は言いたくないって所か。

 ――そして、こいつがこういう態度をとる時はいつだって……

「とりあえず、今ある情報だけで捜査しよう。もし事件が繋がっているとしたら、『鮮血ずきんちゃん事件』と同様、被害者とも加害者ともなる可能性のある中上若葉と保坂絵里に接触する、あるいはもうしているかも知れないからな」

 秋羽は背に隠れるように立つ太郎から少しだけ距離を取り、茉莉の方へ踏み出した。

「行こう、赤西」

「ああ。中上若葉はまだ意識不明だから、先に保坂絵里の安否を確認し……可能ならば、探るか」

「そうだな。でも、いつもの調子で脅すような事するよな。相手は子供なんだから」

「はっ、高校生なんだから、物の分別はつくだろ。それに、子供の相手はお前の得意分野だろ? 自白刑事」

「……まあ、そうだな」

 そんな会話を交わしながら、秋羽と茉莉は太郎から離れ、部屋の外へと向かう。

 それを太郎は見送るように見つめていた。微かに震える手を握りしめて。

「じゃあな、桃太郎」

「あ、ああ……気をつけてな」

 太郎に軽く手を振られながら、秋羽は部屋の扉を閉じた。

 寂しそうな太郎の視線を背に感じながら、秋羽は振り返る事なく進んだ。

 ――大丈夫だ、桃太郎。お前がそういう態度をとる時はいつだって、俺と赤西の身を心配している時。そして……

「俺は、帰ってくるから」

 誰にも聞こえない声で、秋羽は呟いた。


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