5-1
「あぁ、今向かっている所だ……それで、
――歩きスマホは禁止……とか言っている場合じゃなさそうだな。
茉莉が大声で怒鳴るように通話しながら走っているせいで、無用な注目を集めてしまい、先程からすれ違う人が迷惑そうな視線を送ってくる。
特にここは閑静な住宅街。
――痛いな、視線が。
平日の昼間である事が唯一の救いではあるが、それでも人が全くいないわけではない。
スーパーの袋を持った女性が迷惑そうに目を細め、2階建ての一軒家のベランダからは洗濯物を取り込んでいる奥さんらしき女性が鬱陶しそうに顔をしかめた。
本当にごめんなさい。
ちなみに「ながらスマホ」は自動車や自転車運転中では道路交通法違反になって罰則ありだが、歩行者の場合は法律による罰則規定はない。
――でも危ないから、良い子のみんなはこのおっかないお姉さんの真似したらダメだぞ。
秋羽がそんな事を考えながら茉莉の後を追っているうちに、住宅街から広い道路へと出た。
そこで茉莉は手を挙げてタクシーを呼び止めると、すぐに乗り込んだ。
「白石! 置いていくな」
「せめて置いていくぞ! って言ってくれませんか、姉さん!」
秋羽は本気で置いていきそうな茉莉に声をかけながら、タクシーに乗った。
「なあ、赤西。さっきの電話、殺されたって言ってたよな?」
「おい」
秋羽の言葉に、タクシーの運転手が驚いたように目を見開き、茉莉がすぐさま警察手帳を見せた。たったそれだけで納得したのか、タクシーの運転手は愛想笑いを浮かべながら軽く会釈し、視線を前に戻した。
――というか、一応効き目あるんだな、警察手帳。
「それで、状況だが……病室で意識不明の中上若葉が血まみれになっているのを、看護師が発見して……」
茉莉がそこまで言いかけると、車体が軽く揺れた。
――訊いた俺も悪いけど、やっぱここで話すの、やめた方がいいんじゃないか?
タクシーの運転手はみるみるうちに顔色が変わり――
「リアル刑事ドラマ、アガル~」
めちゃくちゃ楽しそうだった。
「それにしても、妙だな」
タクシーの運転手の様子に気付いていないのか、他人に全く興味がないのか、茉莉は気にせずに会話を続ける。
「中上若葉は意識不明の重体。わざわざ手を下さずとも、そのまま死んでくれたかも知れないのに……」
言い方!
「まあ、一理あるな」
それに、わざわざ刺し殺すあたり、犯人の殺意や憎しみの強さを感じる。
もし何かしらの理由、それこそ目覚められたらまずい事情がない限り、そこまではしない。生命維持装置を外すなり、点滴に細工するなり、やりようはいくらでもある。
となると殺害理由は目撃者潰しとかではなく、明確に彼女に殺意があった事になる。それも、ドス黒く濃くて深い――強い憎しみが。
一体誰が――
そう思った直後、脳裏に
彼は何かを知っている。
秋羽は直感でそう思った。
突然現れて、
その彼が「保坂絵里が次に自殺する」「近い未来、自分が殺される」と言ってきた。
――でも、何かが足りない。