5-3
「意外だったな」
茉莉と警察著に戻ってきた秋羽は廊下を歩きながら、隣に茉莉にそう言った。
「何がだ?」
「いや、お前の事だから、未成年による殺人事件って聞いて、メンタルやられている後輩に『しっかりしろ!』とか『目を逸らすな!』とか叱りつけると思った」
「何だ、そりゃ」
茉莉が不満そうな目で秋羽を見た。
咄嗟に防御態勢を取るが、待っていても痛みは降ってこなかった。
「あいつは甘い。相手が
緑区正義は裏表のない人間だ。それは人間観察に長けている秋羽から見ても明白だった。
――まあ、性癖はちょっと隠してほしいが。
「感情で捜査し始めたら、刑事失格だ。怒り、憎しみ、嫉妬……事件の発端はどれも、そんな感情から生まれる。その感情に、見極める側の刑事が振り回されたら、終わりだ。感情に振り回され、犯人の事情や動機を考え、あまつ同情すらしてしまう奴は、長くは持たない。そのうち、感情に食い殺され、自ら心を殺す事になる。だから、刑事は感情を捨てるべきだ……感情ではなく、事実だけを見るべきだ。だけど……ああいう、人を人として見る人間こそ、私は必要だと思う。私には、それは出来ないからな」
「……赤西」
「ん?」
「お前、人の心があったんだな」
「……」
茉莉は無言で秋羽の腹を拳で抉った。
「お、お前……やっぱ刑事どころか、警察向いてねえよ……いつか暴力事件起こして逮捕されるぞ」
「私がそんなヘマすると思うか?」
「すごいや、この人。ヘマって言っちゃったよ」
「大体、お前こそ、無神経すぎて警察向いてないだろ」
「はっ、違いねえや」
*
『自白法』。
それは未成年のための、未成年のためによる、未成年が有利な法律である。
未成年の犯罪者はどんな状況であっても、当人の自白によって判決が下る。たとえ確かな証言や証拠が揃っていたとしても、当人がそれを認めない限り、決して裁かれず、また、自白せずに無罪となった場合はその情報の公表を禁じる。
また、自白法は民事裁判には適応されず、刑事裁判にのみ適応される。
この未成年様に有利な法律の誕生によって、未成年の犯罪率は増加の一途を辿っている。
しかしながら、今のところ、『自白法』によって罪を逃れた未成年はゼロである。
何故なら――
「さて、自白刑事の白石さんのお手並み拝見ってとこかな」